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スタンディングのハマリがいい

ポジションについては、三橋の巨軀にフィットしたようだ。

ハンドルは、オフロードを走るには少し遠かったとのこと。今回のテネレ700にはラリーパッケージというエディションが存在するのだが、このラリーパッケージが三橋の好みにマッチした。

テネレ700は、最近のアドベンチャーバイクにありがちな、タンクを横に張り出してライダーの乗る部分だけを細くする形ではない。タンクを上に延ばすことで、タンクは細くて、長い。言うなれば、セローのような形をしている。だから、少しハンドルが遠くに感じるのだ。そのディメンジョンは、スタンディング時のハマリの良さに貢献してくれる。アドベンチャーバイクは、ハンドルを少し手前に絞ってあるのが普通だが、それもない。相まって、オフロード然としたポジションがとりやすい。もちろん、アフターパーツのチョイス次第で、もっとロードよりにセッティングするのもいいだろう。

トレールマシンなりの、あしまわり

当然のことながら、ほとんどのユーザーがほぼ舗装路を走ることを前提に考えるなら、足回りをレーシングフィールドに対応させることは無駄が多く、さらにストロークを確保しようとするとバイクが大柄になっていってしまう。トレールマシン(テネレ700は、トレールというよりミドルアドベンチャーなのだが、トレールらしい懐の深さを持つためあえてトレールと表現させていただこう)としてのフレンドリーさと、レーサーライクなキャラクターは、相反するものだ。

足回りは特にトレールらしいフィーリングだ、と三橋は判断したようだ。オフロードをガンガン走り込むタイプの足回りではなく、ギャップのあるようなシチュエーションでスピードを上げていくと、ガシャンといったショックが伝わってくる。

1000ccクラスのようなジャンプを飛んでしまったあとに、どこに飛んでいくかわからないような危なっかしさはない。ただ、飛んでしまうようなギャップや、極端な地形をコンフォートに走れるほどのストローク感はないというだけだ。だから、オフロードをガンガンに走り込む人でなければ、足回りにも不満は感じないだろう。一般に日本で走る分には、差が感じられないレベルに収まっているはず。林道ツーリングを視野に入れているライダーであれば、ベストチョイスの1台だ。

ここ最近のテネレは、1200と660のラインナップだった。今回の700はシングルエンジンの660を置換した立ち位置と言える。世界的なアドベンチャーバイクブームのなかで、巨軀になっていく1000ccクラスのカウンターとして「ある程度ふりまわせる」ミドルクラスが流行りつつあるが、テネレ700もその流れの中にある。

たとえば、KTMは1290ccまで拡大化したアドベンチャーに、1090の扱いやすいサイズを取り込み、さらに「2気筒で思いきり走って欲しい」という願いをこめた790アドベンチャーをマーケットに出してきた。過剰とまで思える足回りに、ジャーナリスト達は興奮を隠しきれなかったが、さてどこで乗るのだろう…とも思う。あるいは、その潔さこそKTMの精神であることは疑いの余地もないだろう。ざっくり言ってしまえば、個性だ。ヤマハは、万人にオフロードを楽しめるレンジの広さを設計にこめた。

工業製品として、現代の技術では人間の扱える域を遙かにこえたポテンシャルを持つマシンが設計できる令和時代。テネレ700は同社の名車であるセロー250によりそうような、人馬一体感のあるコンセプトを打ち出してきた。セローでは長距離移動がつらい、かといって1000ccオーバーのアドベンチャーバイクを普段から使いこなせない。そんなライダー達が、いいところどりで休日のオフロードに足を踏み出せるテネレ700は、きっと世界を拡張してくれるはずだ。