今、ハードエンデューロというジャンルはかつてないほど陽の目を見ていると言ってもいいだろう。クロスカントリーやオンタイムエンデューロのウラで、コアなファンに支えられ脈々と続いてきたハードエンデューロが、CGCやクロスミッションといった、若者の心を捉えたイベントの台頭により、表舞台に出てきた、と言ってもいいかも知れない。その影響は、頂点にある全日本ハードエンデューロ選手権「G-NET」にも及んでいる。今この時代に、絶対王者ロッシから、チャンピオンの座が移ったことは、日本中で着々と育ちつつある20〜30代の若手ライダーたちの時代が始まることを予感させるものだった。

一昨年より難易度を増したなめこ沢で
チャンピオン決定

勝敗を分ける三周目、第32セクション「なめこ沢」で年間チャンピオンは決定した。一周目にこの近くでリタイヤした鈴木健二が岩の上から動向を見守る中、まず現れたのは森。森は三周目は2番手のタイスケを大きく離し、ほぼ独走状態だったとのこと。

トライアルIAライセンスをもつ森は沢で圧倒的なスピードを見せた。タイヤはIRCで前iX-09w、後VE-33s GEKKOTAをチョイスしていた。しかしそんな森であっても、最後の押し上げではこんな姿勢を余儀なくさせるのが難易度☆4の「なめこ沢」なのだ。僕は前回このセクションが登りで使われた一昨年も、ここで撮影をしたが、明らかに難易度は上がっていた。

森はここでのリードを守り切って優勝。「実は一周目でいきなりミスコースしてしまってスタートのアドバンテージを失い、健二さんとアヤトに先に行かれてしまったんです。三周目にはなんとかトップに立てたんですけど、タイスケが後ろから迫っていたのでちょっとペースをあげたら木にぶつかって腕にアザを作ってしまいました。でも転倒もなく、バイクが壊れなかったので、なんとかトップでチェッカーを受けることができました。実は今年からG-NETフル参戦を予定していたんですけど、新型コロナウィルスの影響で自粛していました。来年こそはフル参戦のつもりです」

そしてこのレースは優勝よりも大事なシーズンチャンピオンがかかっていた。鈴木がリタイヤした以上、残されたのはタイスケとアヤトだ。少し遅れてたどり着いたタイスケがクリアしても、アヤトの姿は見えなかった。

レース時間は残り30分を切っており、この「なめこ沢」を抜けたら「Beta Mountain」を登ればもうゴールしたも同然だ。タイスケはそのまま2位でチェッカーを受け、G-NETチャンピオンを決めた。

「福岡から日野までは車で13時間。行きは親父が10時間も運転してくれたおかげで、土曜日はしっかり下見を行うことができ、万全の状態でレース本番を迎えることができました。広島、四国と風邪を引いたり肋を痛めたり、仕事も忙しい中でハードスケジュールが続きましたが、親父やお店のお客さんが一緒に来てくれたおかげでなんとか乗り越えることができたと思います。やっぱり壁は特に難しかったですね。三周目の壁ではアヤトと何度もやり直してました。とにかく福岡にG-NETトロフィーを持ち帰ることができたこと、IRCタイヤの連覇を継続できたことが本当に嬉しいです」

どこのレース会場でも姿を目にし、時には一緒にレースを走っていた父親の水上泰晴氏。その存在があってこそのG-NETチャンピオン奪還だった。

少し遅れて沢の入り口にたどり着いたアヤト。明らかにエンジンから異音がしており「セルもラジエーターファンも壊れてしまいました。もうタイスケさんには追いつけないでしょうから、ここでリタイアします。悔しいですけど3位に入れたので良しとします」