今年のJNCCの見どころの一つが、FUN-WAクラスだ。今年はこれまでWAAクラスのエントリーがなく、実質的にウィメンズ最高クラスとなっているこのWAクラスを盛り上げているのは、一人の高校生ライダーの存在だ

2017年、JNCCのFUN-WAクラスには年間を通して11人ものエントリーがあった。その中でも特に成績の良いライダーたちは2018年に新設されたFUN-WAAクラスに昇格。その後2022年に至るまで、FUN-WAクラスの年間チャンピオンには5年連続で近藤香織が輝いている。

ところが今年、そんな近藤の座を脅かすライダーが現れた。それが菅原穂乃花だ。

熊本悠太に師事した高校生が
JNCCに旋風を巻き起こす

菅原は広島県出身の高校生。親に連れられてモトクロスレースを観戦しに行った時にジャンプを飛んでいるライダーに憧れ、小学校4年生からオフロードバイクに乗り始めた。テージャスランチをホームコースとし、かつてのCOMP-AAライダーである熊本悠太に師事。チーム「バイカーズベア」に所属し、広島県内で開催されているビギナーズエンデューロなどに出場してスピードを磨き、2021年にはJNCCのFUN-WBクラスに出場。地元広島とAAGP阿蘇にスポット参戦し、どちらもクラス優勝を飾っている。そして2022年にはFUN-WBクラスに4度スポット参戦し、やはりその全てでクラス優勝。今年はFUN-WAクラスに特別昇格を果たしたのだった。

そして今年、菅原は高校生ながらJNCCにフル参戦し、開幕戦プラザ阪下、第4戦高井富士、第5戦鈴蘭でクラス優勝。近藤とFUN-WAクラスのチャンピオン争いを繰り広げている。

菅原穂乃花
「オフロードバイクに乗り始めた頃に熊本悠太選手にたくさん教えてもらいました。最近は熊本選手が忙しくなってしまってなかなか一緒に乗れないのですが、その分チームの皆さんがすごく良くしてくださって、とても環境に恵まれていると思います。
今の課題はやっぱり基礎です。いくら上のクラスに昇格しても基礎ができていないとコースが荒れてきたり疲れてきた時にフォームが崩れてしまうので、もっと攻めのフォームで乗り続けられるように基礎練習に重点を置いています」

近藤香織 VS 菅原穂乃花
FUN-WAA昇格を賭けたチャンピオン争い

2021年のAAGP阿蘇で取材した時に菅原は「近藤香織選手は憧れの存在」と目を輝かせて語っていたのだが、近藤と同じクラスに出場することになった今年、その気持ちには少し変化があったようだ。

菅原穂乃花
「去年までFUN-WBクラスに出ていた時は近藤選手の背中を追いかけていたのですが、今年FUN-WAクラスに昇格させてもらって同じスタートラインに立つことができたので、自分の気持ちを切り替えて『勝とう!』と開幕戦の阪下に臨みました。もちろん憧れの選手というのは今も変わっていないのですが、明確にライバルという意識を持つようになりました。
今の目標はやっぱり今年チャンピオンを獲ってFUN-WAAクラスに昇格すること、そして他のFUN-WAAクラスのライダーが出てきても対等に戦えるくらいのライダーになりたいです」

第7戦エコーバレーでは転倒によるマシントラブルが原因で大きくタイムロス。必死の追走も虚しく、実力を十分に発揮できないまま3位でレースを終えた。ステージでFUN-GPの表彰式が行われている中、菅原のパドックを訪れると「悔しいです……」と絞り出すようにこぼしたのが印象的だった。応援してくれているスポンサーや仲間、長距離を運転してレース会場へ連れてきてくれる父親、高校生ながら、たくさんのものを背負って本気でレースに向き合っているからこそ、本気で悔しがることができるのだろう。

近藤香織
「この2年くらいFUN-WAクラスのエントリーが少なくて一人でレースをすることも多かったので、菅原選手の存在にはすごく刺激をもらっています。もちろん負けたくない気持ちもあるのですが、彼女のおかげでレースがとても楽しくなって、私自身のモチベーションにつながっています。
実はFUN-WAAクラスへの昇格条件に『シリーズ中にFUN-GP総合20位以内入賞』というのがあって、私が今まで昇格できなかったのはこの条件を満たせていなかったからなのですが、第3戦の芸北国際で私も菅原選手もこの条件を満たしてしまったんです(近藤7位、菅原8位)。
今年チャンピオンを獲ったどちらかが、来年はFUN-WAAクラスに昇格してしまうかもしれないと考えると、今年の一戦一戦がすごく貴重な時間なんだと思います。
ライバルではありますが、彼女の地元である芸北国際やテージャスランチではコースについてアドバイスをしてくれたり、鈴蘭やエコーバレーでは私からマシンのセッティングのことで協力させてもらったりしていて、親子くらい年齢が離れているのですが、すごく良い関係を築けています」

こちらが第7戦エコーバレー終了時のポイントランキング。第6戦鈴蘭まではFUN-WAクラスのエントリーが近藤と菅原だけだったため、1位と2位を繰り返していたが、第7戦エコーバレーでは菅原がマシントラブルに見舞われ保坂明日那に2位を明け渡す形に。この2ポイントが持つ意味はとても大きく、もしも八犬伝で近藤が優勝すれば、その時点で年間チャンピオンが決定する。しかし八犬伝には再び保坂がエントリーを表明しており、残り2戦でこのドラマがどのような結末を迎えるのか、ぜひ注目していきたい。