アウトドアを中心に優れた機能性・ファッション性を持ったアパレルを展開する株式会社ゴールドウイン。そんなゴールドウインが発売したモトクロスウエアは、オフロードバイクのトッププロだけでなく、コース開拓の現場でも重要な役割を果たしていた

Photo:小松大河

日本と世界のエンデューロフィールド事情

僕らオフロードバイクの愛好家は、いつだって走る場所を求めている。今、日本ではにわかにハードエンデューロブームが起きており、日野カントリーオフロードランド(群馬県)やオフロードパーク白井(茨城県)、奈良トライアルマウンテン(奈良県)のような合法的に走ることができるクローズドフィールドが各地に存在する。実はこれはとても恵まれた環境で、他国では状況が異なることがある。

韓国サンリムハードエンデューロで仲良くなった韓国人のカメラマンが日本に遊びに来た時に、埼玉県オフロードヴィレッジで開催されていた耐久レースの観戦に連れていったら、クローズドな環境で自由にオフロードバイクを走らせることができるモトクロスコースの存在に驚き、しきりに感動していた。韓国にはこういったフィールドが存在しないのだという。

Photo:Off1.jp

サンリムハードエンデューロで使われていたコースは街から少し離れた山で、彼らはいつもそこで練習をしているのだと教えてくれた。レースでは大きな公園を開会式の会場として借りていたし、コースの一部として使用していた一般道には警備も立っていたので、許可を取っての開催だったと思うのだが、普段の練習時にはどうしているのだろうか。少し突っ込んで話を聞いてみるとやはり「どこでも走れるというわけではない」というやや歯切れの悪い回答が返ってきた。きっと日本と同様か、それ以上に練習場所の確保には苦労しているのだろう。

僕ら日本のエンデューロライダーはこの恵まれた環境を、自らの手で構築してきた。逆に言えば山を走ることができなくなり、クローズドに追いやられた、とも言えるかもしれない。しかし、例え私有地を使ったクローズドコースであっても自由に木を伐採し、縦横無尽にオフロードバイクを走らせていいのか、というと、実はそう簡単な話ではない。神奈川県相模原市に新しく誕生したハードエンデューロフィールド「森輪」では、オーナーである中島照文氏と、アドバイザーである石戸谷蓮が、林業とオフロードバイクの共存というテーマに取り組んでいる。

治山のためのオフロードバイクフィールド
一度作ったら使い続けられる「強い道作り」

2023年8月某日、平日にも関わらずたくさんの人間が石戸谷の呼びかけに応じて森輪に集まっていた。既にオープンし、一般走行も受け入れている森輪だが、現在も着々とコースの拡充を進めている。この日は、より多くのライダーに森輪を楽しんでもらうため、既存のコースに追加して周回路を作ろうという計画だった。

森輪に集う人は大きく2グループに分類される。林業がやりたい人と、オフロードバイクがやりたい人だ。その2グループが一緒になり、ヘルメットにゴーグルを装備し、チェーンソーやノコを持ち、山に入っていく。

少し登ったところで、林業の知識とスキルを持った人が中心となって、木を切り始めた。これはオフロードバイクで走るための道を作るための作業ではなく、立ち枯れしていた松の木を切り倒す作業だ。このまま放置してしまうと、台風の時などに倒れてしまい、危険なのだという。さらに木と地面を見比べながら話し合い、必要なところに太陽の光が届くように枝を落としていく。これが「治山」だ。

全ての山は雨水を吸収し、少しずつ川へ流すという役割を持っている。いわば天然のダムである。治山は「治水」に繋がる。山を守るということは、その下流の川を、そして川の水を利用している田畑や街を守ることを意味している。そのため、森輪ではオフロードバイクのことだけを考えたコース作りは行わず、治山のための道作りを行い、そこをオフロードバイクで走らせてもらう、という考え方をしている。

例えば、広葉樹の根っこは切らない。オフロードバイクの走行だけを考えると、木の根っこほど邪悪なものはない。速度が乗っていないと小さなものでも超えるのに難儀するし、雨に濡れると滑りやすい。もちろんハードエンデューロのセクションとして捉えると根っこがあることでテクニカルになる場合もあるが、多くの場合、根っこは悪者である。

しかし、根っこを切ってしまうとその木は地面から養分を吸い上げることができなくなり、立ち枯れしてしまう。森輪では豊かな山を目指して治山を行っているため、木を殺すようなことは絶対にしない。道を拓いている時も根っこが出てきた場合には切らずに迂回するルートを考えるのだ。さらに土の入っている谷は絶対に走らない。その谷がどんなにオフロードバイク的に見て魅力的なセクションでも、使わない。谷をオフロードバイクが走ってしまうと土砂が柔らかくなり、下流で行われている農業や漁業に影響を与えてしまうのだという。

石戸谷を中心としたオフロードバイクチームは、林業チームよりも少し奥でバイクを止めると、周回路の増設に取り掛かった。既に50mほど作り始めていた道をさらに伸ばしていく作業だ。まずは山肌を削って道を作る。そして作った道がオフロードバイクの走行や台風で崩れないように補強を行なっていく。切り出しておいた木を運び、路肩に設置し、崩れないように杭を打つ。ひたすら、その繰り返しだ。

ところが、杭がなかなか入っていかないポイントがあった。土の下に岩盤があるのだ。しかしせっかくここまで作ってきた道を諦めるわけにはいかない。石戸谷はチームメンバーと相談し、杭が入っていくポイントを探した。路肩を守る木をもっと長いものに変えて杭の位置をズラそうとするも、なかなかうまくいかない。それでもなんとか杭が通るポイントが見つかった。このような地道な作業の繰り返しで、少しずつ道が延長されていく。

僕らがいつも走らせてもらっている道には、こういったトレイルビルダーたちの汗と涙が詰まっていることを忘れずにいたい。

石戸谷蓮
「僕はいま、日本全国たくさんのコースで開拓に携わらせてもらっています。だけど他のコースの開拓と、森輪の開拓は全く別モノで、ここでは林業としての開拓をしているんです。本来はこんなに急斜面な山はオフロードバイクのコースとしては使いづらいんです。だけど首都圏からのアクセスが良く、ある程度自由にできるこんな山はもう残されていないので、この不便な山をみんなでどうにか遊べるようにしていかなくてはいけないんです。
木の根っこを切ったり谷を走らせたりすると、どうしても掘れてしまって補修が必要になってきます。また、大雨が降った時に崩れやすくなったりします。そういうコースは維持していくのが大変なんです。森輪は開拓当初に、CROSS MISSION(石戸谷が主催するイベント)とGOLDWINさんがお金を出し合ってチェーンソーなどの装備を整えたのですが、現在では多面的機能交付金という補助金を受けて活動しています。つまり山をこういったオフロードバイクが遊べるフィールドとして活用し、治山を行っていくためのお金なのですが、これは初期開拓の3年間しか利用できないんです。その3年間で開拓したら、その後の維持・整備は自力でやらなくてはいけません。だから補助金を使ってチェーンソーなどの装備を揃え、開拓スタッフもボランティアではなく少ないですが日当をお支払いして、今のうちにしっかり人が集まる良いコースを作り、維持管理に手間がかからない強いコースを作り、持続可能な環境を整えているのです」

“切っても良い木はない”
すべての木には所有者がいる

森輪の始まりはオーナーである中島氏が父親の遺産として約50ヘクタールの山を受け継いだこと。バイクの塗装業を営んでいた中島氏はこの広大な山をなにかに活用できないか、と考え、林業を学んだが、そこで現在の林業を取り巻く現実を知ることになった。

日本では飛鳥時代や奈良時代から住宅に木材を使用してきた。江戸時代になると藩が山を管理し、治山治水の考え方に基づく林業の基礎が生まれた。ところが第二次世界大戦後、高度成長期の住宅ブームになると国産の木材だけでは追いつかなくなり、海外から木材を輸入することになった。1970年代に入ると海外産の安くて良質な木材に押されて日本の木材の需要は激減。日本の山々に植えたたくさんの杉や檜は、切れば切るだけ赤字を生む負の遺産となってしまった。

尾根を境に見事に樹種が分かれている。右側は広葉樹の生えている保安林で、左側は杉の木が植えられた分収林だ。Photo:Off1.jp

中島照文
「いま山を使って事業をしようと思うと、林業か太陽光パネルしかないんです。だけど太陽光パネルはもう供給過多で儲からない。林業も木が安いので切れば切るほど赤字。でも山主には山を整備する義務があります。もし自分の山に生えている木が台風で倒れて誰かの家の屋根を潰してしまったら、責任は山主にあるんです。リスクと責任だけ負わされる。これから僕のように相続で山をもらったはいいけど、その山は持て余す若い人がたくさん出てくるはずなんです。
例えば僕の相続した山は3つの林に分けられていました。一つは水源協定林と言って、山主が県に貸して林業会社に整備してもらい、治山を行う林です。神奈川県ではこの水源林契約は20年で満期を迎え、その後は継続されないことになっています。今までは県が全部やってくれて、さらにお金までもらえていたのに、契約が切れたら自分で管理しなくてはいけなくなるのです。森輪では自分たちで治山を行うため、この契約は解除しました。次は保安林。ここは土砂崩れが起きる可能性が高く、木を切ったり土地の形を変更するためには色々と難しい申請が必要になります。最後は分収林。これが切って売るための杉や檜などが植林された林なのですが、僕の山に関してはもう経済的に破綻しているんです。だけど、この木には所有者がいるので勝手に切ることはできません。この契約は50年になっていて、まだあと10年以上残っています。基本的にはその間は手が出せないのですが、いま僕はここをなんとかしようと動いているところです。
水源林、保安林は目的がはっきりしていれば切ることはできますが、分収林は切れない。つまり、オフロードバイクが走るために邪魔だから、というだけの理由で切っても良い木というのは存在しないのです。
森輪でやっているのはあくまで林業で、林業のために作った道をオフロードバイクに走ってもらって、その走行料で治山を行っていきたいんです。実は日本全国の山にはそんな風に林業のために作られた道がたくさんあるのですが、それらは基本使い捨てなんです。僕はそれがすごくもったいないと感じていて、近くの山の持ち主の方と交渉して、山と山を繋ぐことで、ここら一帯を広大なオフロードバイクフィールドにできたらいいな、と考えているんです。
僕の場合は共通の知人を介して蓮君を紹介してもらえたので、本当に幸運でした。山主とオフロードバイクをマッチングすることで、そこには今までになかった価値が生まれます。この活動が好事例となって日本全国の山に広がっていったら、それは夢のようなことだと思います」

もしかすると近い将来この神奈川県西部の山に、韓国やルーマニアで開催されるハードエンデューロレースのような、そして北海道で開催される奇跡のレース「日高2デイズエンデューロ」のような、公道を使った一大オフロードバイクフィールドが誕生するかもしれない。

林業の場でも活躍する
ゴールドウインのオフロードウエア

実は森輪の開拓にはゴールドウインのオフロードバイクウエアの開発者が参加している。その繋がりから開拓初期に装備を買い揃える際にはゴールドウインも投資している。新発売のモトクロスウエアをテストの意味も込めて開拓時に貸与していたりもする。

Goldwin
Competition Jersey
¥15,400(税込)
カラー:スカーレット、ナイトネイビー、フロスティブレー、ダークスレート

コンペティション ジャージ(Motorcycle/ユニセックス)(GB03300)- Goldwin公式通販

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www.goldwin.co.jp

Goldwin
Competition Pants
¥32,450(税込)
カラー:スカーレット、ナイトネイビー、フロスティブレー、ダークスレート

コンペティション パンツ(Motorcycle/ユニセックス)(GB13350)- Goldwin公式通販

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実際に開拓でゴールドウインのモトクロスウエアを使っていた2名のライダーに話を聞いてみた。

俵谷直樹
「ゴールドウインさんのウエアで一番気に入っている点は、パンツの股の部分ですね。引っ掛かりが全くないので、まるで足が長くなったかのような錯覚があります。例えば、谷側からバイクに跨ろうとした時、普通のウエアだとパンツが引っ掛かって足が伸ばせず、転びそうになるのですが、ゴールドウインさんのウエアだと、それがない。引っ掛かるのが当たり前になっちゃっていたので、このウエアを着てみて初めて、今まで引っ掛かっていたことに気づきました。本当に、まるで何も着ていないかのような動きやすさなんです。
僕は森輪に携わるようになるまではエンデューロバイクで走る専門だったのですが、ここで初めて開拓というものに携わらせてもらって、すごくいろいろ考えてくれていたんだと驚きました。自分の走りも変わりましたね。地面の硬さや柔らかさを意識するようになって、とにかく地面をよく見るようになりました。コースを壊すと自分で直さないといけないから、コースを壊さないように走るにはどうすればいいかを考えるようになり、それが結果的にオフロードバイクの上達に繋がりました。ここの開拓に参加させてもらうことができて、本当に良かったと思っています」

柏俊紀
「この日は真夏の暑い日だったんですけど、ゴールドウインさんのウエアはとにかく涼しくて快適でした。ジャージの背中が全面メッシュになっているのもすごいのですが、汗をかいてもサラッとした肌触りで、生地自体の通気性が高いと思いました。このウエアがあれば、もうファン付き作業服は要らないですね。また、パンツの伸縮性はもちろんなのですが、軽いことがこんなに楽だとは思いませんでした。一度着ちゃったら、もう他のウエアには戻れません。
僕の場合は家の近くにオフロードバイクのコースができるという、自分にとって大きなメリットがあったので、開拓メンバーに参加しました。中島さんと蓮さんと一緒に山に入って、教えてもらいながら少しづつ開拓のスキルを覚えていきました。林業とオフロードバイクを一緒にやっているのは日本でもここだけなので、社会貢献も含めてとても価値のあることだと思い、自分の活動に誇りを持って取り組めています。きっかけは自分がバイクに乗りたいだけだったのですが、最近ではそういう社会的に意味があることを発信できることにも喜びを見出せるようになってきています。僕は他のコースにはほとんど行ったことがなくて、初めて森輪にきた時はコースが難しくて全然走れなかったのですが、開拓に参加するうちに勝手に上達して、今ではかなりスムーズに走れるようになりました」