クロスカントリー競技の最高峰シリーズ、JNCC(全日本クロスカントリー選手権)を舞台にKTMが2026年シーズンに向けて示す動きが明確になってきた。これまでマシン販売やトップライダー支援を軸に活動してきた同社は、来季から体制をより実戦的に進化させる。ディーラー、メカニック、ユーザーが同じ現場で競技を支え合う——その環境を作るための7つの施策が始動する
サポートライダー体制を拡充、現場発信型の支援へ
2026年シーズン、KTM/ハスクバーナのサポートライダー体制がスタートする。現時点で確定しているのは成田亮(ハスクバーナTE300→来季からKTM 300XC/KTM京都)、内嶋亮(KTM XC250F/KTM京都)、大重勇透(ハスクバーナFE501/ハスクバーナ奈良)の3選手だ。いずれもJNCC上位の常連であり、ブランドを超えてKTMグループのプレゼンスを現場で発信する存在となる。
成田亮(ハスクバーナTE300・KTM 300XC/KTM京都)
内嶋亮(KTM XC250F/KTM京都)
大重勇透(ハスクバーナFE501/ハスクバーナ奈良)
JNCC最終戦の八犬伝では成田亮が総合優勝の末、最高峰クラスであるAA1チャンピオンを確定させた。コースのトラブルによって短くなってしまったコースレイアウトで、GNCCのトップライダー、カイルブ・ラッセルと競り合いながらも、燃料戦略と落ち着いた判断で勝機を逃さなかった。「距離が短く、ほとんどモトクロスみたいな展開だったので、給油をどこで入れるか迷いました。ラッセル選手が先行していて、自分も焦ったんですけど、早めに給油とエナジードリンクを入れて、そこからは自分のペースで走りました」と振り返る。ゴール後には「まずは怪我をしないで開幕を迎えること。それができれば、結果は自然についてくる。来年はKTMの300XCで走ります。2ストロークの軽さは自分の走りに合っているし、今のJNCCみたいに速い展開では、あのマシンの特性が生きると思います」と語った。
内嶋亮はKTM 250XC-Fを駆り、ライダーとしてだけでなく指導者としての役割も果たしている。自身が講師を務めるライディングスクールでは、各地のオフロードコースの路面特性を生かした実践的なアドバイスが好評だ。特にKTM京都のチーム体制を通じ、ユーザーに対する技術支援を継続しており、KTMの草の根的普及活動を担っている。
大重勇透はハスクバーナ奈良からハスクバーナFE501を駆って参戦。501ccの大排気量ながら丁寧なアクセルワークと長時間走行での安定感が持ち味。2024年にAAへ昇格したばかりの若手だが、すでにその頭角を顕し始めている。
サポートライダーと歩く「コース下見ツアー」
KTM/Husqvarnaのサポートライダーによる「コース下見ツアー」は、JNCC会場で土曜に実施され恒例企画となりつつある。FUN GPとCOMP GPに分かれ、スタート前に実際のコースを歩きながら攻略のポイントを共有する。八犬伝での下見ツアーでは、FUN GP講師が内嶋亮、COMP GP講師を成田亮が担当。両名共にスタート直後のポジション取りからサンドセクション、登坂のライン選択まで丁寧に解説した。
「ギャップが深くなっても、いかに無駄のないラインで走るかが大事です。ギャップを右によけてまた左に戻すように、クロスする意識で走るといい。フロントが取られるのは、アクセルを急に戻して前荷重になった時です」と語ったのは内嶋。参加者からは「普段の練習では気づけない視点を得られた」、「翌日の本番で、言われた通り外端を狙ったら安定した」といった声も多かった。ベテランならではの理論的な説明が好評で、気付けば30人以上が内嶋の下見に連なっていたのが印象的だ。
走行の合間には「ステップはつま先で踏む」、「ブレーキは早めに離す」といった基本姿勢を繰り返し指導。路面に応じた姿勢変化や荷重の使い方まで踏み込む内容となり、経験者にも学びが多い時間となった。なお、このコース下見ツアーは使用バイクのメーカーを問わず参加することが可能だ。
WPサスペンションの現場相談を開始
ハスクバーナ奈良が主導する「WPサスペンションサービス」は、2026年からJNCC会場で試験的に導入される予定。WP装着車両(KTM/Husqvarna/GASGAS)を対象に、セッティング相談をその場で受け付ける。内容は無償相談・有償作業という形を想定、現地でのフィードバックを即座に反映できる点は、クロスカントリーのセッティングにおいて大きな価値を持つ。
WPサスペンションはスタンダードの車体についているものから、前後で80万円を超えるプロサスまでラインアップされているが、このサービスでは両方共に対応可能。プロサスの場合は、サスペンションの許容する幅が非常に広いため、思い通りのセッティングを出すことができる。高性能サスの実力を生かし切るなら、やはりWPプロショップの手を介するのが理想的。会場ではアジャスターの設定アドバイスにとどまるものの、ショップではシムスタックをいちから見なおして用途・スキル・好みに合わせたセッティングを出してくれる。なお、同ショップのサポートライダーである大重も、プロサスを2年前に導入して成績はうなぎのぼりとのこと。
レース中の「ワークスピットサポート」
レース中の給油やトラブル対応を支援する「ワークスピットサポートサービス」も2026年に拡充される。メーカーがJNCCと契約するワークスピットでなければ、テントの下でピットサービスを受けることはできないため、シリアスにレースに取り組むライダーには必須。KTM正規ディーラー経由で事前登録を行えば、専用ピットでメカニックサポートを受けられる仕組みだ。レース経験豊富なスタッフが対応し、転倒やマシントラブル時にも安心して再スタートを切れる環境を整えることが一般ライダーにも可能になった。
ホスピタリティテントをライダーに開放
KTMグループのパドックのホスピタリティテントは、ユーザーが快適にレース準備を行える拠点として開放される。車両保管や整備スペースとして利用でき、特に雨天時には作業環境の差が大きく出る。ディーラー経由での事前登録制で、チーム活動だけでなく個人参戦ユーザーにも恩恵がある。KTMがレース現場の「拠点づくり」を重視していることが伺える取り組みだ。
現場で頼れる「パーツ/ケミカルサポート」
レース中のトラブルに備え、KTMテントには主要なスペアパーツを常備。レバーやペダルなどの破損が発生しても、実費で現地購入が可能だ。また、MotorexとDaytonaの協力により、KTM・Husqvarna・GasGasユーザーは各種ケミカルを無償で利用できる。エンジンオイルやラジエタークーラント、チェーングリス、シリコンスプレーなどを現場で補充でき、特に長時間レースでの信頼性向上に寄与する。
XC-Wレンジ強化の背景——エンデューロに最適化した2シリーズをラインナップ
2026年のKTMは、XC-Wシリーズを大きく打ち出す方針だ。今まで日本で人気を博してきたエンデュランサーのEXCシリーズも継続販売するが、このEXCをベースとしながらもクローズドコース向けのXC-WシリーズはJNCCにうってつけ。EXC同様にXC-Wは初心者から中級者まで幅広いライダーにとって適性が高く、さらに値段もEXCよりも幾分抑えめで販売されるハズ。
KTM 250XC-W
KTMがXC-WシリーズをJNCCに重ねて訴求する背景には、「マシンの性能だけでなく、走りきるための環境づくり」をセットで提供する狙いがある。マシン、ディーラー、メカニック、そしてユーザーがひとつのサイクルでつながる——KTMの2026年施策は、その理想を具体的に形にしようとしている。