SP武川
CRF110F改
ハイパーSステージボアアップキット125cc ¥135,300
ハイパーECU ¥59,400
ハイドロクラッチコンバージョンキット¥29,700
125cc化で得る厚み
2000年代に北米を中心とした大人のミニモトブームが起きた。ホンダCRF50FやカワサキKLX110が中心で、バックヤードのミニモトコースをフリーライディングする映像が人気を博し、パーツメーカーもたくさん生まれていたし、毎日のようにミニモトのレースがおこなわれていた。ハンドルやステップを大人向けに大きくし、エンジンはここぞとばかりにフルチューンされた。メーカー渾身のチューンドバイクにも何度か試乗しているのだが、実はあまりいい記憶がない。当時はFIではなくキャブレターだったし、ゴリゴリにパワーを追求したレスポンスのいいエンジンと、すさまじく短いホイールベースの車体は恐怖そのものであった。まぁ、過激さを低い目線で楽しめるコンセプトなのでそれで正解なのだろうけど。
今回のSP武川仕様のCRF110Fは、話しを聞く限りそういった過激なコンセプトとは無縁のようだ。ボアアップキットにより排気量は110ccから125ccに拡大。この効果はとても理解しやすかった。ちょうど当日、手元にあったCRF125Fととてもよく似た特性に仕上がっていて安心感があった。中低速トルクが明確に増し、ひとつ上のギヤでの立ち上がりに粘りが出た。3速から発進しても路面にトルクが負ける感じがせず、軽やかにスピードが乗る。純正の軽快な吹け上がりを保ちながら、路面抵抗を押し切る力が強まった印象である。 Hyper ECUによって燃調と点火タイミングが的確に最適化され、失火や息継ぎ感は皆無。全域で点火が安定し、アクセルを開けた瞬間からリニアに回転が上がる。
特筆すべきは高回転域の伸びである。純正ECUでは回転リミットが9,800rpmで制御されるが、Hyper ECUは10,500rpmまで許容する。これにより2速全開で引っ張った際の伸びがひとクラス上がり、直線でのつながりが明確に変化した。
子供のクラッチ練習車としても優秀!
言うなれば、モディファイドマシンというより、ホンダが作ったミニサイズCRF125Fのようである。低速トルクが豊かなので、試しにバイクに慣れていないうちの長男に乗せてみても、すんなり楽しむことができた。
ハイドロクラッチがもたらす“操作できる”感触
遠心クラッチ仕様だったCRF110Fにマニュアル操作を加えるハイドロクラッチキットの存在は大きい。クラッチレバー操作によってエンジンブレーキを自在に制御できるようになり、ターン進入時の荷重移動が明確になる。コーナー手前で前荷重をかけ、車体の向きを変えてからスロットルを開ける一連の流れが自然につながり、“走らされている”感覚が“操っている”感覚へ変わる。
クラッチのつながりはレーサー用マニュアルほど鋭くはなく、レバーは少し重さを感じるのだが、扱いやすさの中にしっかりとした制御感がある。操作に慣れるほど、立ち上がりでのトラクションコントロールが上達する仕様である。
クラッチをつけたからといって遠心クラッチが使えなくなるわけでは無いのも、おもしろい点だ。前述のうちの長男は以前、クラッチ操作を覚えられずKX65を手放すハメになってしまったのだが、遠心クラッチと手動クラッチが共存するこのバイクだと、クラッチを覚えるのになんの苦労もなかった。
ノーマル比較のグラフ的印象——出力・回転上昇・応答性
体感をグラフ化するなら、まず出力カーブは全域で“下から上まで一段高い”線を描く感じだ。ノーマルがなだらかに上昇して9,800rpmで頭打ちになるのに対し、タケガワ仕様は6,000rpm付近から力感が増し、そのまま10,500rpmまで緩やかに上がり切る。ピーク出力の差は約15〜20%ほど高く感じられ、特に7,000rpm前後の粘りが顕著だ。
SP武川が公表するグラフ
回転上昇のスピードをイメージすると、ノーマルはスロットル開度に対して「一呼吸置いて」回る感触があるのに対し、Hyper ECU+125cc化では入力に対して“等速で上がる”印象になる。レスポンスカーブでいえば、ノーマルがやや曲線を描くのに対し、チューニング仕様はより直線的で、低開度から高開度までの応答が均一である。
Hyper ECUの搭載によって、単なる出力向上だけでなく制御の“質”が変化した。燃調は±9%の範囲で1%刻みに調整でき、環境や仕様変更に柔軟に対応できる。SP武川製パーツの組み合わせでは、ほぼ初期設定のままで最適化されているが、空気密度が変わる夏冬や標高変化に応じた微調整も可能である。
この3点キットを装着したCRF110Fは、サスペンションがノーマルのままでも車体の反応が明確になり、操作入力が結果として返ってくる。小排気量ながら、荷重を感じ、スロットルを開け、向きを決めていく流れを学ぶには最適な教材と言えるのではないか。