Pirelli Scorpion MX32 MID SOFT は、モトクロスの基準的タイヤとして特に欧州で扱われてきた同シリーズの進化版であり、柔らかい土質に強いという従来の方向性を保ちながら、締まった路面にも適応する性能を明確に押し広げたモデルである。旧型の“掘れた路面での強さ”をそのままに、浅い轍でもブロックがヨレず、硬めの土質でもトラクションを維持する点がポイントだ

旧型が得意とした掘れた路面での性能を継承しつつ、締まった路面への対応を拡大

ピレリはSCORPION MX32 MID SOFTをこのたび新設計したという。フロントタイヤは、ブレーキングの初期からターン進入に至るまでの安定性を確保する目的でトレッドパターンの配置や形状を見直し、縦方向と横方向の入力に対する反応を整理したことで、ライダーが求めるラインを正確にトレースしやすくなった。リアタイヤは、駆動力を効率よく路面へ伝達するためのブロック配置を新たに採用。スタート時の大きなトルク入力や立ち上がりで加速する局面において、ブロックが路面をしっかりと捉えることを重視した設計だと言う。コンパウンドにも改良が加えられ、柔らかい路面でのグリップ確保と耐久性を狙っているという。

公式に「幅広い地形適応性」が特徴として挙げられており、現代のモトクロスでは極めて標準的と言えるミディアムソフト系の中でも路面条件の変化に対して性能が保たれる設計であることが示されている。このたびドゥカティの新型モトクロッサーデスモ450MXに装着されたMX32 MID SOFTを体感した太田幸仁は、新型の変化を旧型との比較で次のように語った。

「旧型MX32は、柔らかい土質や掘れた路面では本当に強かったんですよね。深い轍に入っても抜け方が自然で、多少ラインを外してもタイヤがうまく戻してくれる。ただ、硬い路面だとブロックが入りづらくなる場所があって、そういうセクションでは“ここは得意じゃないな”と感じることもありました。

新型はその弱点がかなり改善されていて、柔らかい路面でも、締まった路面でも両方しっかりグリップします。ブロックが大きくなって、ソフトタイヤ、マッドタイヤに近い剛性が出ているんですけど、それがちょうど良く効いていて、旧型の良さを残しつつ、対応する土質の幅が広がった感じです。

スタートの出だしでもしっかりトラクションするし、最近のAMAスーパークロスみたいに最初の数メートルで勝負が決まる状況でも使えるトラクションがあります。深い轍でも、浅いラインでも、どこでも安心して入っていける。『タイヤに付き合わされる』感じがなくて、『自分が選んだラインに素直に乗っていく』方向になりました。総合的に扱いやすいタイヤだと思います」

現代の450モトクロッサーはエンジンと電子制御の進化でレブ域が使える回転域になっている。こうしたハイレベルな車体では、タイヤが過敏すぎると扱いづらくなるが、新型MX32 MID SOFTは立ち上がりが鋭すぎず遅すぎないフィーリングを演出してくれる。

柔らかい土質では土を深く噛み、表面が締まった路面ではトラクションを得やすく、コーナー出口でスロットルを早く開けても車体が暴れにくい。深い轍を使うライダーにも、浅いラインでスピードを保つライダーにも対応できる懐の深さが特徴である。

太田選手が指摘した「自分が決めたラインに素直に従う」という性格は、安定性と適応性を両立した新型の方向性を端的に表している。練習からレースまで一本でまわせる汎用性があり、特に450クラスのパワーを“我慢ではなく活かす”ための選択肢として有力だ。