Off1ちゃんねる「YAMAHA WR125R ファーストインプレッション」
youtu.beYAMAHA
WR125R
¥539,000
なぜ125なのか
原付二種のフルサイズ(21×18インチ)オフロードバイクが、国内で新車として登場するのはいつ以来だろうか。調べてみると、スズキ・ジェベル125が2000年までラインナップされており、実に25年ぶりということになる。
125ccフルサイズオフロードは国内だとややマニアックな存在だが、実は欧州ではモーターサイクルスポーツの入口としてもっともポピュラーなカテゴリーのひとつだ。多くの欧州ブランドから、イタリア・ミナレリ製をはじめとする4スト125ccエンジンを搭載したフルサイズトレールが発売され、それらが本格オフロードへの導線として機能してきた。
こうなった背景には欧州の免許制度がある。A1免許と呼ばれる16歳以上向けのカテゴリー、つまり高校生から乗れる排気量帯として125ccが制度的に位置づけられているのだ。実際、FANTICの2024年モデル「125cc Enduro/Motard」は登録台数1875台を記録し、公表されているFANTIC車両の中で最多販売数を誇っている。Betaなど他ブランドでも同様の傾向が見られ、特に二輪人気が根強いイタリアでは、4スト125ccはいまだにドル箱ならぬ“ユーロ箱”のカテゴリーである。
この文脈を踏まえると、今回のWR125R導入は日本市場の変化と無関係ではない。かつては売れなかった500ccクラスのミドル排気量車が活況を呈し、国内規制の緩和によって欧州仕様と同一スペックで販売されるモデルも増えてきた。その流れにつれて、125cc市場も欧州と同じような役割を日本国内で担い始めているのではないか。これまで特殊な存在だった原付二種フルサイズオフロードが、現実的な選択肢になりつつある。
これが日本のワンツーファイブだ
ヤマハWR125Rのメディア試乗会は、福島県モトスポーツランドしどきで開催。テストライダーはおなじみ宮城県のバイクショップ、ストレンジモーターサイクル代表の和泉拓に担当してもらった。小さな車輌から大きな車輌まで、186cmの巨体で乗りこなす、マルチタレントなライダーだ。
WR125Rに搭載された水冷125ccエンジンについて、和泉は「面白いのが、3000回転以下のトルク感は全然ないのに、エンストする気配が微塵もない」とファーストインプレッションを説明した。実際、1速どころか4速で発進してラフにクラッチを繋いでも、マシンはトトトトト……と粘り強く進んでいく。これについて和泉は「トルクではなく『粘りがすごい』という表現が正しい。よくこういった粘りのある特性をトルクがあるという人が多いんですが、実際のトルクがあることとエンスト耐性はあまり関係がないんです。トルクがある450はエンストしやすい傾向にあるでしょう? このエンジンはとにかく粘りがすごい」と評している。
この特性は、オフロード初心者にとって最強の武器になる。
和泉は「初心者がやりがちなのが、アクセルを開けた途端にレスポンスよく出たトルクに驚いて閉じ、今度はエンブレの強さでさらにビックリしてしまうこと。これを繰り返しやってしまうのがオフロードバイクのギクシャク感の正体なんですが、低回転のトルクがなく粘りがあることで、アクセルを開けた時にいい意味で変化が少ない。さらにエンストもしない。この特性が初心者にとって最高にいい」と指摘する。低回転域で大きなリアクションが起きないマイルドな特性だからこそ、ライダーは安心してアクセルを開け閉め出来るのだという。
さらに、純正のギア比がかなりショートに設定されている点も見逃せない。
「1速アイドリングでクラッチを離せば人間が歩くくらいの速度、時速4〜5kmで進む」と和泉は語り、「半クラッチを使わずに『二輪二足』で難所をクリアできる。これは最初からエンデューロに出られるセッティングです」と高く評価した。
一方で、高回転域もしっかり作り込まれている。
「タコメーターを見ていたら、1万2000回転まで綺麗に回りますね。VVA(可変バルブ)の恩恵か、絶対的な速さはなくとも、ずっと全開で回しきれる楽しさがある。110ccのカブをすごく上質にしたようなエンジンの良さがある」と和泉。
スペック上の「重さ」を消し去る、秀逸な車体バランスと剛性
カタログスペックにある「車両重量138kg」という数字。125ccクラスとしては決して軽くはない数値に、多くのライダーが眉をひそめるかもしれない。しかし、和泉の評価はそれらを一蹴するものだった。
「スタンドから引き起こす時など、物理的に持ち上げれば確かに重さを感じます。しかし、いざ走り出して乗ってみるとその重さを感じないんです」
その軽快感の源泉は、しっかりした車体とクラスを超えたサスペンション性能にある。WR125Rは正立フロントフォークを採用しているが、これについて和泉は「カートリッジ式でもないのによく動き、着地の衝撃もしなやかにいなしてくれる」と高く評価する。
「ファンライドマシンのTT-R125LWEでこのコース(しどき)を走ると、バンクに張り付いた時やジャンプで底付き感があるんですが、同じシチュエーションでもWR125Rは底付き感がないことが多かった。サスペンションがストロークする際の動きの質が非常に高いですね」
さらに特筆すべきは、トレール車が苦手としがちな「リア周りの剛性感」だ。
「昔のトレール車は、振られた時にリアがバタついたり、大きなお釣り(反動)をもらったりしがちでした。しかしWR125Rはフレームがピシッとしていて、振られてもスッと収まる。巨大なリアフェンダーやマフラーがついているのに、飛んでも重さを感じさせない剛性があります」
そして、この絶妙な車体バランスを証明する要素として、和泉は意外なポイントを挙げた。
「車体バランスの良さを端的に表しているのが、めちゃくちゃウイリーがしやすいという点です。アクセルのツキにドンツキがなくマイルドでフロントを上げやすく、上がった後のバランスも秀逸。さらにフロントを落とした時のフォークの動きが良いので、手にガツンとくる反動がない。何回もやりたくなるくらい気持ちいい。重たいバイクやバランスの悪いバイクではこうはいきません」
138kgという数字は、あくまで装備を含んだ「質量」に過ぎない。走りの中に現れる「重さ」は、マスの集中化やサスペンションの出来によって払拭されている。
「外車勢とは違う」国産トレールとしての矜持
前述した通り、近年125ccフルサイズオフロードといえば欧州メーカーの独壇場だった。しかしWR125Rは、それらとは明確に異なるキャラクターを持っている。
和泉によれば、「外車勢の125ccは結構レーシーで、そのままレースに持ち込めるような尖ったモデルが多いが、対してWR125Rは守備範囲がものすごく広い」という。
また、特筆すべきはその品質だ。
「外装のチリの合わせ方、ボルト一本一本のワッシャーの入り方、ガタのなさ……。乗っていて『あぁ、ちゃんとした国産車だな』という安心感がある」と和泉は語り、アジア生産の逆輸入車にありがちなチープさが全くないと評価した。
「どのタイヤが履けるのか」という点は、こういったトレールバイクを選ぶ際にマニアックなオフロードファンにとって気になるところだ。125ccクラスのトレール車では、スイングアーム長や幅の問題で履けるタイヤが制限されることが多い。この点について実車を確認した和泉は、スイングアームとタイヤ前端のクリアランス、そしてチェーン引きの調整代に余裕があることを指摘する。「FIMエンデューロタイヤの120サイズや、定番のIRCトライアルタイヤであるツーリストも物理的には入りそうですね。スプロケットでファイナルを調整すれば、ハードな遊び方も視野に入ります」と分析する一方で、意外な推奨セットアップを口にした。
「ただ、このエンジンパワーだと、路面を食いすぎるタイヤは逆に走らない可能性があります。例えばIRC M5Bのようなタイヤは絶望的に合わないでしょう(笑)。パワーを食われて前に進まなくなりますね。むしろIRC GP-610のような、適度に滑ってくれるタイヤの方がエンジン回転をキープできて、車速を乗せやすい」
ハイグリップタイヤで路面を掻くのではなく、適度なスライドを許容しながら高回転を維持する。パワーがないからこそ「タイヤにこだわらなくていい=維持費も安く、オンロードも快適」という逆説的なメリットが生まれるのだ。
さらに細部を見ていくと、50万円を切る価格帯とは思えない作り込みが見えてくる。
例えばハンドル周り。「トップブリッジ一体型ではなく、ハンドルポストが別体式になっているのはこのクラスでは珍しい。これならスペーサーでの高さ調整や、オフセット変更もやりやすい」と和泉は言う。
また、シュラウドからサイドカバーにかけてのフラッシュサーフェス化(面一化)も徹底されており、ブーツが引っかかる要素が皆無だ。「タンク位置が低く、シートの前の方に座った時の収まりがいい。ボディアクションを妨げないこの造形は、一世を風靡したWR250Rよりも、むしろモトクロッサーのYZに近い雰囲気すらありますね」
ハンターカブの対抗馬にもなり得るポテンシャル
和泉は「20代の学生やエントリー層はもちろん、レーサーを持っているエキスパートライダーのセカンドバイクとしても最適ですね」と語る。維持費が安いため、自走で林道や河川敷へ行って練習したり、スプロケットを変えずにウイリーの練習機にしたりと、遊びの幅は無限大だ。「音も静かなので周囲に気を遣わなくてよさそう。なので、僕が買うとしたらマフラーすら替えないと思います」
さらに、ツーリングバイクとしてのポテンシャルにも注目する。
和泉は「燃費は恐ろしく良さそうなので、航続距離でも勝負できる。サスペンションがいいから長距離も疲れないでしょう。最近は北海道ツーリングに行くとハンターカブだらけですが、WR125Rはその強力な対抗馬になるはず。林道を含めたロングツーリングなら、Vストローム250なんかとも競合できるスペックですよ。変にいじり回す必要がない。ステップをワイドにして、レバーを変えて、僕ならリムの色を変えるくらいで完成する(笑)」
125ccに手を抜かない、これがヤマハの解答か
最後におなじみノービス界を代表して、OFF1編集長・稲垣の所感を語らせてもらおう。昨年、YZ250FXがモデルチェンジした時に、マッピングをセローレベルの最弱にしたらラップタイムが最速だったという伝説を持つ僕である。WR125Rメディア試乗会に来ていた鈴木健二さんにも「これ(WR125R)、もしかしたら稲垣さんのしどきのベストラップ更新しちゃうかもよ?」と言われる始末。これでしっかり更新したらネタにできたのだが、さすがの僕もYZ250FXのほうが速かったです(YZ250FX 2:38、WR125R 3:06)。
閑話休題。僕なりに結構本気でしどきを攻めてみたんだけど、とても多くのことをそのラップの中で感じ取ることが出来た。まず、車体の剛性バランスがとても素晴らしいこと。僕が乗ってきたオールドスタイルのトレールバイクは、その多くがリアセクションがフロントの動きについてきていなくて、お釣りをもらうような感じだった。WR125Rはそういった車体の弱さを一切感じないのがまず素晴らしいところだ。和泉さんが言うように、サスペンションの動きも上質で底付き感があまりない。これはある意味残念なことなんだけど、しどきの本コースで底付きを感じる箇所は、3箇所しかなかった(もっと飛べや)。今までのトレールでは考えられないことだ。
モトクロスコースで乗っている限りは、車重はYZ250FXと同じくらいに感じる。パワーがない分、立ち上がりなどで物足りなく感じるところもあるけれど、少なくとも車重が138kgもあるようには思えない。オフロードバイクの新車リリースがあると、数値を見たユーザーがSNSなどに「車重が重すぎる」と書き込むのを目にするが、データ上の車重と実際に乗った感触とではかなり違うということを伝えたい。YZ250FXとYZ450FXは4kgしか差が無いけれど、乗り比べてそれだけしか差が無いと思う人は少ないだろう。エンジンのイナーシャ、爆発間隔や車体のバランスなど様々な要因から人は「重さ」を感じる。WR125Rは138kgあるが、かなり軽い。ただ、和泉さんも言っているように、引き起こし時はそれなりに重いことは付け加えておきます。
車体に似合わないモトクロスコースでの所感はこれくらいにするとして、林道や舗装路で感じたこともしっかり述べておきたい。まず、エンジンについては125ccなりのパワー感で、トルクも高回転域もそれなりである。ここを誇張してもしょうがないし、Off1を読んでいる方々からすると、TT-R125LWEあたりと比べてしまうんじゃないかと思うので、正直に言っておきたい。ただし、質感や過渡特性は素晴らしかった。がさつさを微塵も感じさせない回り方で、このエンジンにはフリクションロスが存在しないのか、と思うほどだ。また、スロットルの開閉に遅れることは一切ないのに、レスポンスは穏やか。むしろレスポンスとはなんなのかを考えさせられた。機械としてスイッチに忠実だが、出力自体は穏やかだということだろうか。同じクラスのフルサイズ125ccバイクは様々乗ってきたが、まるで同じクラスとは思えないほどに上質だ。これなら、YZF R-1やテネレなどの大型バイクを持っている人が、セカンドバイクとして選んだときに「やっぱ小排気量は安っぽいな」と思うことはないはずだ。四輪でも二輪でも、小排気量のスポーツ車は回して楽しいことが正義だと思う。掌中に収まるスピードの中で、高回転を維持しながら走ることができる楽しさ。なんせ、2スト125ccのような神経質さは皆無でストレスなくぎゅいーーーんと回り、レーサーではなかなか味わえない「レブ」に気持ちよく当てながらぎゃんぎゃん走ることができる。それも日常的に。これほどまでに、これを買ったら幸せになれるだろうなと、日常を想像出来るバイクもないかもしれない。通勤で、通学で、近所へのツーリングで、林道で、いつもスポーティなライディングができる相棒。うーん欲しくなってきた。