ビシャからアル・ヘナキヤを目指すステージ11は、総走行距離883kmというロングステージとなった。SS(競技区間)346kmの前後に長いリエゾン(移動区間)が設定されたこの日、藤原慎也を襲ったのは、コース上の難所だけでなく、極限の「睡眠不足」と「有刺鉄線」だった

午前3時起床、スタート直後の「有刺鉄線」

「昨日のステージで入った情報によると、ダニエル・サンダースさんが『鎖骨骨折仲間』になったそうです(笑) 」 (編注:サンダースはステージ10で鎖骨を骨折、残りのステージを走りきる宣言をしている)冗談交じりにそう語る藤原だが、ステージ11の一日は笑えないハプニングから始まった。 この日は総距離が長いため、早朝3時に起床。まだ暗闇の中、5時23分にビバークを出発した。SSのスタート地点には十分に間に合ったが、その直前の給油ポイントで事件は起きた。 「少し近道をしようとしたら、なんと有刺鉄線の張られた杭と杭の間に入ってしまって……。なんとか突破しましたが、朝から遭難レベルの危険な目に遭いました。ギリギリセーフです」 レースが始まる前から冷や汗をかかされた藤原だが、気を取り直してSSへと挑んだ。

今日は、攻める

実はこの日のスタート前、藤原からOff1編集部宛に「ここからどこまで追い上げられますかね?」とメッセージがあった。ステージ5での負傷から、リザルトよりも完走を目指すと気持ちを切り替えたはずの藤原だが、「僕だってダカールにツーリングしに来たわけじゃない。無理をしない程度に攻めていきたい」と短めに言う。肩の痛みが消えたわけでもないし、複視がおさまったわけでもない。しかし、レーサーならではの結果を残したいという、プリミティブな欲望が垣間見えた。

SS序盤はものすごいハイスピード区間が続いた。藤原は宣言通りここを全速力で駆け抜け、何台ものバイクをパスしていく。しかし、中盤から様相は一変する。 「中盤から終盤まではロック(岩)ばかりの中を走らされるコース設定で、とても走りにくくスピードも出せませんでした」 さらに、後方からスタートした4輪車が追いついてくる時間帯となると、状況は悪化。 「車の選手が後ろから追い抜いていくんですが、砂埃(ダスト)で全く前が見えないのに、足元は岩だらけという状況です」 視界ゼロの中で岩場を走る恐怖。それでも藤原は転倒することなく、冷静にマシンを進めた。

終盤にはサンドのトラックが現れたが、そこには植物が群生していた。 「植物の間を抜けていくのですが、それが痛いほどに硬いトゲを持った植生なんです。そのトゲの餌食になりながら、サンドの間をすり抜けていきました」 そして最後の最後、大きなフープス(連続した凹凸)が待ち受け、骨折している左肩に激痛が走ったが、なんとか耐え抜きフィニッシュラインを通過した。「自分なりに今の状態でできる最大限のレースをしてきました」と藤原。ライダーとして、レーサーとして「無事に帰ること」と「結果を出すこと」の葛藤を抱えながら、残り2ステージまでコマを進めた。

棘の群生

リエゾンでの居眠り運転、対向車線へ

SSを無事に走り終えた藤原だったが、苦しいのはそこからだった。ビバークまでのリエゾンは208km。早朝3時起きとレースの疲労が、睡魔となって襲いかかった。 「とても眠たくなり、居眠り運転をしそうになりました。気がついたら反対車線の真ん中を走っていて、『これは危ない』と思い少し休憩をしました」 しかし、リエゾンにもマキシマムタイム(制限時間)があるため、のんびりとはしていられない。藤原は眠気と戦いながら少しずつ前進し、なんとかアル・ヘナキヤのビバークへと帰還した。

立派な口ひげがトレードマークのハウズが、自身初優勝

左鎖骨骨折仲間のサンダースさん。総合4位を堅持…ばけものですね

トップ争いでは、スカイラー・ハウズ(ホンダ)が自身初のステージ優勝を飾った。総合順位では、ルチアーノ・ベナビデス(KTM)が安定した走りで首位を奪還。一方、前日まで首位だったリッキー・ブラベック(ホンダ)はナビゲーションの戦略的な駆け引きの中でタイムを失い、総合2位へ後退したが、その差はわずか23秒である。 また、前日のステージ10で左肩を負傷したダニエル・サンダース(KTM)は、痛みと戦いながらステージ13位で完走し、総合4位に留まっている。トップライダーもまた、満身創痍でゴールを目指している。

藤原慎也はステージ11を61位でフィニッシュし、総合順位は53位(Rally 2クラス42位)となっている。 「今の状態でできる限りのレースをしてきました。明日も頑張ります!」 残すステージはあと2つ。最終日ステージ13はわずか141kmしかないため、実質ステージ12を走りきればゴールのヤンブーはもう目の前だ。

■ダカール・ラリー2026 リザルト(ステージ11終了時点) Stage 11 Result

Overall Ranking(総合順位)

  1. L. BENAVIDES (KTM) 44:48:48
  2. R. BRABEC (HONDA) +00:23
  3. T. SCHAREINA (HONDA) +15:16
  4. D. SANDERS (KTM) +23:32

53. S. FUJIWARA (HONDA)