1月17日、サウジアラビアのヤンブー。第48回ダカール・ラリーは、モータースポーツの歴史に永遠に刻まれるであろう衝撃的な結末を迎えた。15日間、8,000kmにおよぶ死闘の果てについた決着は、わずか「2秒」差。これはダカール・ラリー史上、最も僅差での優勝決定である。主催者はこの瞬間を、1989年のツール・ド・フランスに匹敵する「スポーツ史に残る大逆転劇」と評した。なぜ王者は敗れ、挑戦者は奇跡を掴んだのか。激動の後半戦を振り返る

前半戦の支配者、サンダース

今大会、間違いなく最強のライダーはダニエル・サンダース(KTM)だった。 昨年のダカール覇者であり世界選手権王者でもある彼は、序盤から圧倒的なスピードとナビゲーション能力を見せつけ、レースを支配していた。ステージ9の時点で、ライバルであるリッキー・ブラベック(ホンダ)に対し6分以上のリードを築き、すでに連覇が見え始めていた。 しかし、ダカールの魔物はステージ10「ビシャ」への道で彼を待ち受けていた。SS(競技区間)138km地点、サンダースは激しくクラッシュし、左肩を骨折してしまう。彼は痛みに耐えてフィニッシュまでたどり着き、この日だけで30分近くを失いつつも、それでもまだ総合優勝争いを続けていく。30分の差であれば、何かあればダカールラリーではひっくり返ることは十分にある。歴史がそう語っているのだ。

混沌の後半戦、ブラベックの完璧なシナリオ

しかしサンダースは負傷を抱えながら追い上げかなわず、終盤を迎える頃には優勝争いは2020年・2024年の覇者リッキー・ブラベック(ホンダ)と、KTMのルチアーノ・ベナビデスの一騎打ちとなっていた。 ステージ11ではベナビデスが総合首位に立つものの、その差は秒差。続くステージ12、ここでブラベックが勝負に出る。前日のステージで戦略的にペースを調整し、有利なスタート順を得ていたブラベックは、岩場と砂丘が混在する難コースで完璧なライディングを披露。ステージ優勝を飾ると同時に、ベナビデスに対して3分20秒という決定的なリードを築いた。 最終日を残しての3分20秒。通常、ダカールの最終ステージは100km程度の短距離であり、大きなミスがなければ逆転は不可能に近いタイム差だ。ブラベックは3度目の栄冠に向け、完璧なシナリオを描ききったかに見えた。

最終ステージ13、ヤンブーの悲劇

1月17日、最終ステージ13。ヤンブー周辺をループする108kmのスプリントステージ。 ブラベックは先頭(オープニング)でスタートし、コースを切り開いていく重圧の中にいたが、フィニッシュまで残りわずかとなる地点までは順調だった。3分20秒の貯金は、ウイニングランのために十分すぎるセーフティリードだったはずだ。

しかし、ドラマは98.4km地点、フィニッシュラインまで残りわずか7kmという場所で発生した。 先頭を走るブラベックが、痛恨のナビゲーションミスを犯したのだ。彼は正規のルートよりもわずかに左側へそれてしまい、正しいトラックに戻るために約3kmのループ(遠回り)を余儀なくされた。 一方、追う立場のルチアーノ・ベナビデスは、「決して夢見ることをやめなかった」と語る通り、奇跡を信じて限界を超えたプッシュを続けていた。 「最後の2つのコーナーもミスして危うくクラッシュしそうになるほど、限界ギリギリまで攻めた」と語るベナビデスの鬼気迫る走りが、ブラベックのミスと交錯する。

歴史に残る「2秒差」の決着

ベナビデスがフィニッシュラインを駆け抜け、息を呑んでモニターを見つめる中、ブラベックがゴールに飛び込んでくる。 タイム計測の結果、表示された総合タイム差は、あまりにも残酷な数字だった。 2秒。 わずか2秒差で、ルチアーノ・ベナビデスがリッキー・ブラベックを逆転し、自身初のダカール制覇を成し遂げたのだ。 KTMのピットが歓喜に爆発する一方、3度目の優勝を目前で逃したブラベックは、この苦い敗北を威厳を持って受け入れた。

3分20秒をひっくり返し、歴史的な勝利を手にしたルチアーノ・ベナビデスは、ゴール後のインタビューで興奮冷めやらぬ様子でその心境を語っている。

「まだ信じられない。でも、僕は夢見ることをやめなかった。今日はエネルギーとモチベーションに満ちた状態で目覚め、『自分に何ができるか』だけを考えて自分を信じた。それがこのダカール優勝の鍵だったと思う。2秒差で勝つなんて現実とは思えない。実は最後の2つのコーナーもミスして危うくクラッシュしそうになるほど、限界ギリギリまで攻めたんだ。正直、この瞬間を言葉にできない。これは僕の9回目のダカールだけど、夢見ることをやめず、信じ続け、目標のために戦い続ければ、どんなことだって可能だという証明になったと思う。今日もリッキー(ブラベック)がプッシュしているのが見えて負けていると思ったけど、最後の1キロまで終わらないと言い聞かせたんだ。最後に彼が小さなミスをし、僕がそれをものにした。本当に非現実的だ」

この勝利により、KTMはダカール・ラリー通算21回目のタイトルを獲得。ルチアーノ・ベナビデスは、兄ケビン・ベナビデス(2021年、2023年優勝)に続き、兄弟でのダカール勝者として歴史に名を刻むこととなった。 一方のホンダ(HRC)にとっては、悪夢のような最終日となった。トップカテゴリーでの逆転負けだけでなく、市販車ベースのRally 2クラスでも悲劇が起きたからだ。 ステージ11まで首位を走っていたホンダのプレストン・キャンベル(リッキー・ブラベックの師匠ジョニー・キャンベルの息子)が、最終盤でKTMサテライトチームのトニ・マレクに逆転を許し、4分37秒差でクラス優勝を逃した。 ホンダはRally GP、Rally 2の両クラスで勝利を目前にしながら、KTM勢の土壇場の底力に屈する形となった。

■ダカール・ラリー2026 最終リザルト(二輪部門) Overall Ranking

  1. Luciano Benavides (KTM) 49:00:41
  2. Ricky Brabec (HONDA) +0:00:02
  3. Tosha Schareina (HONDA) +0:25:12
  4. Skyler Howes (HONDA) +0:56:41
  5. Daniel Sanders (KTM) +1:03:15