徳島県小松海岸。1年に一度、わずか2日だけ開放されるこのプレミアムな砂浜は、時速100kmを超える超高速バトルが繰り広げられる「異次元」の戦場と化した。一体いつまでこの息が詰まるような接戦が続くのか……左右に大きく振られながらも右手を戻さないトップライダー達の心理の内側に迫る

波打ち際100km/hのドッグファイトとその代償

四国に拠点を持つオートバイショップ、ベイシストオートの黒木氏をはじめとした様々な有志の力により、昨年から徳島の小松海岸でJNCCが開催されている。これまでもJNCCのエントリー層向けレースWEXでビーチレースをおこなってきた経緯があるが、この徳島ラウンドほど広大なビーチを使ったレースは無かった。東日本からはだいぶ距離があるとはいえ、この希有なロケーションに今年も411台ものエントラントが集まった。

スタートは馬場大貴が飛び出た

スタート直後からレースを支配したのは、450ccのパワーを全開でサンドに叩きつける成田亮(GASGAS)と能塚智寛(Kawasaki)であった。全日本モトクロス選手権で12回ものチャンピオンに輝いた成田と、昨年現役を退いたばかりの能塚の対決はは1時間以上にわたり、ハンドルが触れ合うほどの接近戦を展開した。ラップタイムの詳細を見ると、両者は1周目から8周目まで互いに6分30秒前後を記録し続けており、極限の状態で体力を削り合っていたことが分かる。

成田はこの時の心境をこう振り返る。 「今回はGASGAS MC450Fで出ましたが、めちゃくちゃ性能がいいですね。能塚選手が直線ですごく速くて足も長い(笑)ので、後ろを走りながら少しイライラしていました。でも、45歳でも現役バリバリのライダーと抜きつ抜かれつの勝負ができることを証明できたのは、僕にとってもとても楽しいことでした。観客の皆さんにも、最高に楽しいレースが見せられたと思います」。

対する能塚も、レジェンドの衰えぬ闘争心に敬意を表しながら語った。 「去年もここで2位、今年の開幕戦も2位だったので、今回は絶対に勝つという強い気持ちで最初から飛ばしました。ですが、成田さんが本当にしつこくて(笑)。なかなか落ち着かせてくれませんでした。レース中はずっと誰かとバトルをしている状態で、今大会は終始心拍数が高めの厳しい展開となりました」。

二人を視界に捉え続けたステファン・グランキスト

この狂乱の数秒後方で、オーストラリアからJNCCに参戦しつづけているベテランのステファン・グランキスト(Triumph)はしっかりと二人のバトルを視界に入れていた。「さすがにトップ2が走らせていた450ccのモトクロッサーは圧倒的にパワーに勝る。特に直線では4スト250ccのエンデュランサーでは置いて行かれてしまうんだよ。でも、必死に耐えたんだ。このレースで負けるわけにはいかなかったから、どこかにチャンスがないか探り続けた」

グランキストはトライアンフのTF250-Eにオーストラリアから持ち込んだGET ECU SX1によるマップを投入し、さらに吸排気系にはモトクロス用のアクラポヴィッチを合わせた。できるだけパワーを引き出そうという作戦だ。「元々TF 250-Eは、250ccのエンデューロバイクとしてはパワーもトルクもしっかりあるバイクなんだ。スタンダードでも勝負できることは知っていたけど、今回は絶対に勝ちたかったからね。第1戦で課題だったサスペンションも、RG3が一生懸命やってくれて最高の設定になったよ。IRCのM5Bもいいチョイスだったと思うよ、この徳島の海岸はサンドだけでなく半分くらい硬い路面だから、パドル系のタイヤよりもアドバンテージが高かったはずだ」

今季よりトライアンフでは、ステファン・グランキスト、松尾英之、保坂修一らを擁する一大勢力に

開幕ではレースウィークの木曜に来日、十分なテストができなかったことを反省材料とし、この徳島はオーストラリアのエンデューロ選手権を終えた週の水曜には来日、入念にテストをおこなって必勝体制を作った。

勝敗を分けた「給油の1分」と「19周目の覚醒」

レース後半、勝負を決定づけたのはピット戦略と燃費の差であった。450cc勢がサンドでの高負荷走行により2回の給油を必要としたのに対し、グランキストは11周目のわずか1回で全21周を完走した。成田はこの差を冷静に分析している。 「今回は完全に作戦負けでした。グランキストは給油1回で持った。そこが大きかったですね。給油のタイミングが能塚選手と1周ズレていたんですが、僕がピットに入った時に能塚がここぞとばかりに追い越していくのが見えました。緊迫したレースで走っていて本当に面白かったですよ」。

2度の給油を強いられた450勢(写真は成田亮)

グランキストの真の恐ろしさは、2時間を経過した最終盤に現れた。19周目、多くのライダーが疲労によりタイムを落とす中、彼は序盤を上回る6分27秒369というラップタイムを叩き出したのである。 「後半、自分の体力が少し落ちてきたときに、マシンが勝手に前に進んでくれる感覚があったんだ。TF 250-Eが僕を助けてくれたんだよ。自分が無理をしなくてもマシンが進んでくれるから、あんなタイムが出せたんだね」。

グランキストの後ろに映る転倒しているライダーが、能塚。この瞬間、グランキストがトップへ浮上、勝負が決した瞬間だった

この猛追に焦りを見せたか、能塚は終盤の丸太セクションで痛恨のミスを喫し、その隙にグランキストがトップへ浮上。 「最後は自分のミスで離されてしまいました。非常に悔しいですが、応援の声もよく聞こえて、走っていて本当に気持ちの良いコースでした。次こそは勝ちたいと思います」。 このミスにより、ステファンとの差は決定的となる42秒へと拡大し、勝負は決した。

グランキストの勝利を支えるのは、名門RG3ジャパンの面々である

4スト250にマッチする120サイズのIRC M5B EVOをチョイスしたグランキスト

開幕戦の勝者、矢野の苦悩

徳島の砂浜に描かれたのは、トップ3の狂乱だけではない。その後方、総合4位を巡る渡辺学(Yamaha)と矢野和都(KTM)の攻防もまた、高い知略と技術がぶつかり合う見応えのあるバトルであった。

開幕戦での劇的な勝利を経て矢野は、序盤から明確に「トップ3」への入賞を視界に捉えていた。1周目を終えた時点で4番手、ハイスピードな直線区間ではトップを走るステファンに肉薄するほどのスピードを見せた。矢野は「それくらいの戦闘力は十分にある」と、マシンのポテンシャルへの驚きを語っている。

この矢野の背後で、ベテランの渡辺学は対照的な「待ち」の姿勢を貫いていた。序盤に矢野をパスして4番手付近をキープしながら、6分40秒〜50秒台の極めて安定したラップを刻み続けるその姿は、先行するライダーたちの疲労や自滅を冷静に待つ戦略的なものであった。

両者の知略が交錯したのは、レース中盤の11周目であった。 ラップチャートによると、給油のためにピットへ入った渡辺(L11:7分23秒)に対し、ピットストップを最小限に抑えた矢野(L11:6分47秒)がここで逆転し、4位に浮上する。矢野は300 XCの軽さを武器に、「後半の疲労感が450ccとは全く違う」と攻勢を強めたが、ベテラン・渡辺の牙城は簡単には崩れなかった。

14周目、再びペースを戻した渡辺が矢野を捉え、4位の座を奪還する。渡辺は最後まで大きく崩れることなく21周を完走し、表彰式では「前回も4位で今回も4位なので、あと3戦くらい走れば優勝できるかなと思っています(笑)」と余裕のコメントで会場を沸かせた。

矢野が開幕戦に、冗談のつもりで「成田さんに勝ったら、そのステダンください」と言ったステダン。第2戦で矢野の好成績を支えた。マジックの「成田」が笑える

一方で5位に甘んじた矢野も、その表情に曇りはない。 「2スト300ccという軽さとピックアップを武器に持つ300XCの本領を発揮していないサンドのステージで、このメンツ相手に5位でまとめられたのは収穫です。次戦の広島は石ころひとつまで知り尽くしているコースなので、100%勝ちにいきます」。

そして近年のJNCCでもっとも注目すべきは若手の台頭だ。まずはスーパー高校生、渡辺敬太(Beta)が総合8位に。ディープサンドの徳島で2スト125ccをここまで走らせていることは脅威。すでに最高位は4位で、トップ3に割って入るのも時間の問題か。同じく高校生でAAルーキーの小沢瞬(Honda)も15位と健闘。そして、中学2年生の橋本大喜(Yamaha)が16位とこちらも2スト125で好成績をおさめ注目を集めている。総合20位・COMP-R優勝の18歳楠原歩とあわせて20位以内に4名ものティーンネイジャーが上位を狙っている状況だ。

砂の上で繰り広げられたドラマは、ライダーそれぞれの確かな手応えと共に、難所の多い名コース広島テージャスランチでの再戦へと引き継がれることとなった。

会場には日本人唯一のエルズベルグロデオフィニッシャー、田中太一も来場!

COMP-GP 総合リザルト

  1. Stefan Granquist (TRIUMPH) 2:18:48.610 (L19: 6:27.369)
  2. 能塚 智寛 (Kawasaki) 2:21:09.752 (+2:21.142)
  3. 成田 亮 (GASGAS) 2:21:35.114 (+2:46.504)
  4. 渡辺 学 (YAMAHA) 2:24:02.590
  5. 矢野 和都 (KTM) 2:24:33.186