「TEAM MUSASHI」がアジアクロスカントリーラリー2026に向けて発足。このたび取材したのは、その発足会とラリー合宿だ。ベテラン岡本薫をのぞく2名は、ほとんどコマ図初体験。珍道中と言える練習会になってしまった

監督・池町佳生が招集した「異色にして最強」のライダーたち

2026年3月7日〜8日、兵庫県加古川市にて、アジアクロスカントリーラリー(AXCR)2026に参戦する「TEAM MUSASHI(チームムサシ)」の発足会および合同練習会が開催された。 昨年、同大会で総合優勝を果たしたレジェンドライダー・池町佳生を監督に据え、新たに3人のライダーがタイの過酷な大地に挑む。彼らはなぜ集まり、何を目標に走るのか。そこには「単なるラリー参戦」の枠には収まらない、強烈な個性とドラマがあった。

「ラリーという競技は、総合的な実力が試される大人のスポーツ。コンペティション(競技)としてのラリーの面白さを、今の日本のライダーに伝えたい」 そう語る池町監督は、ダカールラリーをはじめ数々の海外ラリーを渡り歩いてきた日本屈指のラリーストだ。そんな彼が今回日本代表チーム「TEAM MUSASHI」のライダーとして白羽の矢を立てたのは、見事にバラバラな経歴を持つ3人の男たちだった。各選手が会見で語った熱いコメントとともに紹介しよう。

釘村忠(42歳):ISDEゴールドメダリスト

エンデューロの最高峰「ISDE(インターナショナル・シックス・デイズ・エンデューロ)2019年ポルトガル大会」に日本代表として参戦し、日本人唯一のゴールドメダルを獲得した釘村。 「彼に足りないのはラリーの経験だけ」と池町監督が語るほどの圧倒的テクニックを持つ。 「違った視点からオフロードバイクの楽しみ方を吸収し、いろんな人に伝え、オフロード業界を盛り上げたい。まずはラリーを楽しみ、怪我せず完走して、結果的に(監督と)同じ優勝カップが隣に並べば」と、自身の経験値をオフロード界全体へ還元することを目論む。全日本エンデューロ選手権をオーガナイズするグリズリー代表。順当に行けば、自他共に認めるチーム内最速スプリンター。

大津崇博(25歳):ハードエンデューロの怪童

チーム最年少の大津は、過酷なセクションを走破するハードエンデューロ出身。過去にハードエンデューロ主催者でもあった池町監督が「17、18歳の頃から『あいつは伸びる』と一目置いていた」という圧倒的なポテンシャルの持ち主で怪童と評すべき若手ホープ。 これまではガムシャラな走りで壁を越えてきたが、今回の挑戦については「ラリーはバイクを壊して戻れなくなったら終わり。いつものガムシャラな走りをやめて、ちゃんと落ち着いてゴールまで行けるようにしたい」と、未知の競技に向けた冷静な闘志を燃やす。

岡本薫(57歳):監督の盟友である大ベテラン

そしてチームの精神的支柱となるのが、池町監督と19歳の頃から付き合いがあるという大ベテランの岡本薫選手だ。 エンデューロの経験も豊富だが、「自分にはラリーの方が向いているとずっと興味があった」と語る。「57歳とけっこうな歳になるが、今年も上位を目指して頑張れるんだというところを見せたい」と、年齢を感じさせない走りを誓う。

アジアの洗礼とコマ図の罠! 合宿でドツボにハマった釘村

土曜日は記者会見、会見会場の兵庫県ON THE HILLに宿泊して日曜に練習会を行う合同合宿。それぞれのバイクには、各自で用意したコマ図(ルートマップ)の巻き取り器とトリップメーター(距離計)が装着され、AXCRを想定したトレーニングが行われた。 池町監督からは「アジアのコマ図は実際の距離より短め(手前)に出るのが普通」であり、走りながら現地のクセを読み取るセンスが必要だと教えられた。さらに「立っている警官の道案内すらも信用ならない」という理不尽なアジアのトラップまで待ち受けているという。そして、どれだけ注意深く走っていてもミスコースは起こる。道に迷った時の絶対の鉄則は「コマ図と実際の風景が確実に一致している場所まで、どれだけ遠くても戻る」ことだという。

合宿はコマ図をハサミで切って繋げ、長いロールにするところから。本番はロールのコマ図が配られる

繋げる際にセロハンテープを使うのだが、貼り方ひとつとってもノウハウがある。岡本薫や池町監督がこれまで体験してきた失敗例を、丁寧に伝えていく

監督による座学、公開したいくらいおもしろい

池町監督お手製のコマ図は、132.82kmがゴール地点であった。まずもって、この時点でエンデューロマシンの場合はガソリン給油の必要がある距離だという罠が潜んでいる。86.94km地点にはCP(チェックポイント)を設置。ここまでのマックスタイムは120分に設定され、CPからゴールの132.82km地点までは100分の設定であった。CPには短いながらもナビゲーションスキルも問われるスペシャルステージ(タイム計測区間)も設けられた。土曜日には座学があり「以前、スタートしてすぐに右のコマ図だったんだけど、実際は左だったことがある。レースにもよりますが、コマ図ってそういうものです」と池町監督から話があった。これが大きな布石となった。

編集部イナガキも池町監督からマップケースを借りてプチ体験した。わくわく

迷う釘村&大津

スペシャルステージの釘村

ベテランの岡本にとっては何の問題もないコマ図だった。朝8:30に大津、釘村、岡本の順に1分間隔でスタートしたが、岡本は早々に二人より先にコマ図を進めていく。池町監督が仕掛けた罠にもすぐさま気づき、マックスタイムに余裕で間に合うタイムでCPへ到着。大津・釘村は途中で迷いに迷い、二人で話し合ったりしながらマックスタイムからおおよそ1時間遅れでCPにたどり着いた。岡本が6分台で周ってこれるスペシャルステージも、大津8分、釘村は迷いに迷い12分という結果である。

ヘビ、ってなんだ? コマ図を追っていくとわかる。オンルートであることも確認できる。ちなみに34.76kmのコマ図は池町監督の罠だった

さらに釘村はCPからゴールへのルートで大失態をおかしてしまう。 まず、長い長い林道を抜けたあとにガソリンがピンチに。ルート通りに進むとガソリンスタンドが無い、という罠にしっかり捕まってガス欠になってしまった。その後、30分もあればゴールに到着できるはずが、池町監督の罠がここでも発動。コマ図の指示通りに進む釘村だったが、あるはずも無いT字に行き当たってしまう釘村。鉄則に従い「確実に分かっているコマ図まで」戻っては走り直すという作業を、なんと3回も繰り返すハメになった。なんのことはない、池町がわざと間違ったコマ図を差し込んでいただけである。

「正解が分からなくて、どこで間違えたのか分からなくてモヤモヤして……ぐるんぐるん考えるから、めっちゃ疲れました」と苦笑いする釘村。 最終的には池町監督から「ここにいるからね」と救済の電話がかかってきて事なきを得たが、「本番で順位が良かった時にこれが起きたらめっちゃ悲しい。練習で経験できて本当に良かった」と語った。池町監督は「ラリーのコマ図での誤表記ってのはよくある事で、もちろんコマ図そのものが違う場合もあれば、自身の思い込みで全く違う方向を信じてしまう事もある事。そんな混乱した時の体験をして欲しかったんです」と話す。圧倒的なライディングテクニックを持つゴールドメダリストでさえ、一筋縄ではいかない。それが「ラリーのリアル」なのだ。

釘村はちゃんとしたマップケース&トリップメーターを調達したのだが

大津はお手製のマップケース&iPhoneのラリーアプリを使用。これでも楽しめてしまうのが、コマ図のおもしろいところだったりする

なぜ日本の「センサーライト・園芸用品メーカー」が冠スポンサーになったのか

こうした個性派揃いのチームを情熱で丸抱えするのが、今回冠スポンサーとなった株式会社ムサシだ。同社はセンサーライトや園芸用品を主力とするメーカーだが、そこには岡本篤社長のビジョンがあった。

販路拡大を目指す同社にとって、都市部だけでなく地方の農村部にも市場が広がる東南アジアの環境は自社のビジネスと合致する。しかし、理由はそれだけではない。 「海外で泥だらけになってヘロヘロになって帰ってくるライダーの整備を手伝い、一緒に飯を食う。そういう頭がひっくり返るような体験を社員にさせたい」と、自社の社員をラリーのサポート隊として現地へ送り込み、「超過酷な海外研修」の場として活用するというのだ。

株式会社ムサシの岡本篤代表。後ろにかかっているジャージはISDEポルトガルの時のもの。2019年の日本代表トロフィーチームをバックアップし、釘村とのリレーションが生まれた。自身もオフロードバイクに乗る

さらに岡本社長は、現代の日本のモータースポーツを取り巻く環境に強い危機感と怒りを持っていた。 「昔の日本企業はいろんな冒険やレースをスポンサードしていたのに、今はみんなやらなくなってしまった。これにはすごく腹が立っている。日本のライダーが世界へ通じる道を、細くてもいいから開け続けておきたい」。

目指すは「同じ優勝カップを並べること」

日本の企業が熱い思いで道を作り、ダカールを知るレジェンドが次世代の異端児たちを率いてアジアの泥と熱狂へ飛び込んでいく。 今年の「TEAM MUSASHI」の目標は、昨年池町監督が手にしたのと同じ「優勝カップを並べること」だ。

8月中旬、タイ国でおこなわれる大会の様子は、現地からSNS等を通じてライブ感たっぷりに配信される予定だという。また、Off1でも記事やSNSなどを通して現地から報道する予定だ。過酷な大自然と理不尽なトラブル、そしてコマ図の迷宮を前に、3人のライダーがどんなドラマを見せてくれるのか。熱き「TEAM MUSASHI」の挑戦から、今年の夏は目が離せない。