アドベンチャーバイクでサンド路面の苦しいクロスカントリーレースに出たら、どうなるか。JNCC第2戦・徳島。ハスクバーナNorden 901 Expedition、車重200kgオーバー、FUN-Aクラス。答えは7周後に出た
「狂気」と「ロマン」は、時に紙一重である
オフロードバイク界隈には、昔からごく少数だが確実に存在する「超ニッチ」な勢力がいる。本来であれば快適な林道ツーリングや大陸横断に供されるべき巨大なアドベンチャーバイクを駆り、あろうことかクローズドコースの過酷なエンデューロレースに参戦してしまう猛者たちだ。200kgを超えるバイクで砂と轍のコースを走るなど、常識的に考えれば正気の沙汰ではない。しかし日本最大級のクロスカントリーレース「JNCC」の会場でも、時折そんな場違いなバイクの姿を見かけることがある。彼らは盛大に転倒し、引き起こしに絶望しながらも、なぜか満面の笑みを浮かべているのだ。
ヒラタ自動車(エントリー名:ハスクバーナヒラタ自動車×ジムカーナMX)の平田武博も、そんな「あちら側」の住人として名乗りを上げた一人である。相棒に選んだのはハスクバーナのNorden 901 Expedition。エントリーしたのはJNCC第2戦(ノースショアトマホーク)FUN-Aクラスだ。
Norden 901 Expeditionと平田。FUN GPのAクラスライセンスを保持、いわゆる猛者です
しかし今回の舞台は徳島。ただの土や泥ではない、ライダーの体力を無慈悲かつ急速に奪い尽くす「サンド(砂浜)」である。ただでさえ重いアドベンチャーバイクが、砂丘のど真ん中でスタックしたら一体どうするつもりなのか。想像するだけで腰が砕けそうになる、かなりの変態度合いを誇る挑戦だ。
そもそも「Norden 901 Expedition」とはどんなバイクか
ハスクバーナのラインナップにおいて、このマシンは一見すると「アドベンチャー旅バイク」に映る。スウェーデンの小さな町・ハスクバーナで100年以上前に始まった歴史を受け継ぎ、「北(Norden)」からインスピレーションを得て開発された、世界を巡るためのバイクだ。世界を旅しながらラリーに参戦することで有名なリンドン・ポスキットが70か国・全245,000kmの旅でアンバサダーを務めていることも、そのキャラクターをよく表している。
排気系はアクラポヴィッチで武装
WP PRO COMPONENTSを投入。エンジンだけでなく足回りにも手が入った、パーフェクトなNorden 901 Expeditionである
オプションのワイドステップも、平田のライディングを助けてくれた
だが実態は、本格的なビッグオフローダーである。高トルクのパラレルツインエンジンは雪道も急峻なパスも問答無用に押し切り、深い砂地でも推進力を失わない。強靭なWPサスペンションは岩や荒れた地形をいなし、ライダーに圧倒的な安心感を与える。平田自身がレース後に「パワーは正義ですよね」と言い切っていたが、実際にその出力は桁違いだ。平田のマシンはサスペンションをWPのプロサスに入れ替え、平田自身のショップでセットアップしたこともあって完成度はさらに高いのだが、それにしても200kmを優に超える重さをごまかすことはできない。
スタートにまっすぐ並べるだけで一苦労(笑)
クラスの最後尾から悠々スタートする平田
ゼッケン14を背負った平田とNorden 901 Expeditionが、FUN-Aクラスに放たれた。周囲は軽量で軽快な純エンデューロマシンばかり。その中に、明らかに場違いな一台。まずもってスタート位置にマシンを立てるだけでも一苦労である。通常のJNCCのような土の路面ならまだしも、サンドで巨体……方向転換すら至難の業だ。
1周目、平田は11分台で駆け抜けた。平田の走るクラスFUN-Aは、90分の短いレースとは言え最高峰。レース中はビギナーに配慮した大人な走りをするが、スタートだけはクラス別なので遠慮などない。同レベルのライダーが一線上にならび、我先にと第1コーナーへ突っ込んでいく。さすがにこのクイックなスタートでクラッシュに巻きこまれるわけにはいかない、と平田はスタートから一呼吸おいて悠然と1コーナーをまわっていった。それでも最後尾とはいえ、幸先のいいタイムだ。
だが2周目、サンドが本性を剥く。タイムは一気に15分超。重いバイクが砂に沈む、物理の暴力。引き起こしで消費したカロリーは計り知れない。
そこから平田は、もがきながら砂と対話を続けた。3周、4周——消耗しながらも諦めない。そして5周目に順位を19位へ浮上させると、6周目にはついに1周目と同タイムの11分台を取り戻した。砂を攻略した瞬間だった。
疲労困憊のレース後
最終7周目も安定してまとめ、チェッカー。トータル1時間33分、FUN-A 19位。アドベンチャーバイクで、徳島のサンドを7周走り切った。リザルトの数字以上の達成感がそこにはあったはずだ。
デカイバイクで、サンドを走るということ
激闘を終えた平田は、息を弾ませながら語った。
「走ってて分かったんですけど、スピードがちゃんと乗ってるとすごい安定します」
Nordenの車体は、中途半端な速度ではただの重い鉄の塊に過ぎない。勇気を出してスロットルを開け、速度を乗せることで初めて真価を発揮する。「ちゃんと飛ばせるライダー、身体能力のあるライダーがちゃんと乗ったら、多分これはサンドでも相当走ります」と彼は言い切った。
ギア選択にも発見があった。
「初め、結構1速を使っちゃってたんですね。でもコーナーで1速使ってると気持ちよく走れない。2速の方が前へ進むしスムーズだし、結果的には最初から2速を使えばよかった」
巨大なトルクを高めのギヤで活かし、砂の上を浮くようにしながら進む。これは軽量バイクのサンド走行の基本にも通じるテクニックだ。パワーは正義——それはNorden 901 Expeditionにおいても真理だった。
一方で、こんな警告も忘れなかった。
「何でもないところが難セクションになるんで。普通のエンデューロバイクの目線で乗ってると、ぶっ飛びます。危ない」
軽量マシンならスッと避けられるギャップが、Nordenには致命的な発射台になり得る。だが、転倒を繰り返しながらも、驚くべきことにマシンは「無傷」だった。大きなスクリーンまで健在だ。周囲から「えっ、みんなこれつけたまま走るんですか!?」と呆れ混じりの声が上がっていたという。「割らずに帰ってこられてよかった」——Nordenのタフネスも、平田の受け身スキルも、どちらも称賛に値する。
最後に平田は、無傷のNorden 901 Expeditionを撫でながらこう言い放った。
「次は田中太一くんとか、プロフェッショナルな方に乗っていただいたら、もっといいところを走れそうですね。乗ってもらっちゃいましょう、次は」
自分が散々苦労したバイクを、今度はトッププロに委ねてその真のポテンシャルを引き出してもらおうという、清々しいほどの丸投げ宣言である。
アドベンチャーバイクでJNCCに挑むという狂気は、どうやら平田一人の挑戦では終わらないらしい。Norden 901 Expeditionの次なる生贄……いや、チャレンジャーが現れる日を、我々Off1編集部も固唾を呑んで楽しみに待つとしよう。 パワーは正義。変態もまた正義である。