20年逃げ続けてきたネックブレース、ついに導入。ATLAS エアーライト×ディフェンダーハイブリッドを、JNCC広島テージャスランチとJEC東日本 成田MXPで実戦投入してみた

20年買わなかった理由

ネックブレースが世に出てから、もう20年近くになる。LEATTが2006年にリリースし、各社が追随して販売を始めてから、いつの間にかオフロード装備の標準的な選択肢として定着してきた。ニーブレイスほどのシェア率はないだろうが、たとえばOff1編集部の元全日本ライダー伊澤女史は、物心ついたときからネックブレースをつけていて、ヘルメットなみに「モトクロスやるときはネックブレース」の習慣がついている。

僕はというと使わない派を貫いてきた。理由はシンプルで、頭から落ちたことが一度もないから。派手にコケるほど突っ込めない永遠のビギナーには、ビギナーなりの安全保障が働く。攻めきれないから派手にコケない。これが僕を守ってきた、なんとも消極的な理屈である。これまで起きていないことは、起きないはずだ(そんなわけない)。

3年前にニーブレイスを導入した。モトクロスコースを頻繁に走るようになって、「あ、これいつかやるな」と思ったからだ。その1年後にしっかり膝の靱帯を傷めたので、これは大正解だった。多くの人が言うように「こんなしょうもないことで靱帯を傷めるのか!」と思った。それ以来、首も同じように「こんなしょうもないことで首を折るのか!」と思いたくないなと考えるようになった。

機は熟したのである。

なぜATLASにしたか

世に出ているネックブレースは数多いが、僕が選んだのはATLASだ。理由は単純で、ATLAS製のプロテクターと組み合わせる前提で設計されているから。

オフロードのプロテクター×ネックブレースは、相性問題が極めてシビア。××××の胸部プロテクターに××××を乗せるとライディング中ズレる、××××の胸部プロテクターに乗せると後ろが浮く、××××に乗せると前が浮く――こういう話を、僕は20年聞き続けてきた。組み合わせの正解は説明書にも書いていない。だから、最初からセット設計されているメーカーで揃えるのが、いちばん悩まなくて済むというわけだ。

ATLASは、ネックブレース・胸部プロテクター・肩部プロテクターのすべてを自社で設計している珍しいブランドだ。組み合わせは公式に推奨されていて、ズレないし、浮かない。この組み合わせを買えば良い、という安心感がある。

ATLASの中でも種類は色々あるが、僕が選んだのは、エアーライトとディフェンダーハイブリッドの組み合わせだ。

ATLAS エアーライト ¥47,300

エアーライトは、2026年に登場した、ATLAS ネックブレースのエントリーモデル。重量はMサイズで550g、上位のエアー(¥55,000)とたった30gしか変わらない。なお、名前につく「ライト」が指すのは重量のことではなく、手に取りやすい価格と仕様のことである。

エアーには首が長い人向けのオプションパッドや、アルミパーツによる前後の角度調整機構が付くが、エアーライトはそれを思い切ってカット。フレームの根本構造はエアーとまったく同じで、価格を¥55,000から¥47,300に下げた。サイズ調整機構が無いため購入前に店頭でフィッティングする必要があるが、ほとんどの人にとってはエアーライトで十分。少なくとも、僕にとっては十分だ。

ちなみに簡易モデルのATLAS ヴィジョンも試してみた。ヴィジョンは守備範囲を絞っていて、エアーライトよりさらに首の可動域が広い。上下に首を振る動作でネックブレースが干渉することがほぼ無く、難所でリアタイヤの位置を確認したい時など、確実にこちらの方が楽だ。ただし、エアーライトの方が、いざという時の保護性能は明らかに上。かなり悩ましいところだったが、せっかくつけるなら保護性能を重視しようと思った。

ATLAS ディフェンダーハイブリッド ¥27,500

ディフェンダーハイブリッドは、前面がDEFENDERハードシェル、背面が柔軟なAdapted Impact構造というハイブリッド型の胸部プロテクター。CEレベル1で、MFJ国内競技規則に対応している。

ハードシェルの前面と柔軟構造の背面、という組み合わせがミソ。前面は転倒時の異物(岩や枝)から守る固さがあり、背面はライディング時のしなやかさを優先している。これまで僕が使っていたFOXフレームルーストもライディング時のしなやかさが優秀なプロテクターだったが、ディフェンダーは背面の素材がハイテクだ。なお、ディフェンダーはルーストより少し厚みがあり、上からジャージを着ると若干お腹のラインが出やすくなった。もっとお腹をへこまさなくては、と思う次第である。

ATLASのプロテクターの設計思想は、「ネックブレースをプロテクターの外側に乗せる」というもの。ネックブレースをプロテクターの下に着用するユーザーもいるが、ATLASのセットは外側に乗せるのが基本である。

また、ディフェンダーシリーズにはネックブレース固定ストラップが付属する。ブレース側面に引っ掛ける小さなパーツで、走行中にブレースが浮き上がるのを物理的に止める仕組みだ。最初は手間に感じるが、これがあるとないとでは全然違う。ストラップで下に押さえつけておくことで、ネックブレースの煩わしさを相当打ち消してくれると感じた。

なお、ジャージの下にプロテクターを装着して、そこからストラップをネックブレースに接続するとジャージによっては首元が引っ張られてしまうので、その場合は身体に押さえつけるクロスストラップを使えばいい。

テージャスランチで90分、ブレースの存在を忘れて走った

導入して最初に持ち込んだのは、3月のJNCC広島テージャスランチだった。

スタートグリッドに着いた時、僕は人生で初めての感情を経験した。

「あれ、これ攻めてもいいんじゃないか?」

ネックブレースの煩わしさは皆無だったが、今日はプロテクターがしっかり入っているという事実が攻めていい根拠のように感じられたのである。装備で気持ちを上書きするとは、こういうことか。

マジでバイクを発射する5秒前な稲垣

PHOTO/JNCC

ところが、レースが始まって序盤数分で「攻める気」は消滅した。テージャスの読みにくい路面と、僕のいつもの怯えが、装備の重さを軽々と上回る。45歳になっても、人は装備で気持ちを上書きできるが、技術と度胸までは上書きできない。これは今回の発見である。

それより特筆したいのは、ネックブレースの存在感である。

スタート時に突っ込んでいける気がするのは、大きなアドバンテージ。だいぶ前で出れてるじゃん! と思いきやそのピンクの人は稲垣ではありません。後ろのほうにいるピンクが稲垣です

PHOTO/JNCC

正確に言うと、存在感が無い。

90分のレースの中で、ネックブレースが煩わしいと感じる瞬間が一度もなかった。ジャンプ、コーナリング、立ち上がり、ピットイン――どの動作でも、装着していることを忘れている。途中で「これ本当についてるのかな?」と疑って首を下にかしげてみたら、ちゃんと顎の下に存在を主張する形でフレームに当たる。あ、ついてるのね、と確認して安心する、というレベル感だ。

成田で背中から岩に転んで、装備の意味を実感した

次に持ち込んだのは、4月のJEC東日本、成田モトクロスパーク。

広島ではガードをジャージの上に出したが、成田では内側にいれてみた

成田はエンデューロコースとしてはわりと牙が出るタイプで、岩が露出した区間が点在している。特にガレ場は僕にとって鬼門だ。なんせガレが超苦手なのである。一体誰があんな場所に岩を置いたのか。小一時間問い詰めてやりたい。

3周目、ガレ場でラインを読み違えて、バイクが左にふっと傾き、そのまま倒れた。派手なクラッシュじゃない。激しいハイサイドでも、豪快な前転でもない。ただただ低速で、左に、情けなく倒れただけ。ポテゴケである。ただ、こういうガレの上はポテゴケでもそれなりに痛い。なんせ岩の上に転がるのだから。

マジでなんなの…

PHOTO/Hiromu Inoue

たぶん、これまで使っていたFOXフレームルーストだったら背中にそこそこの痛みが走っただろう。身体もその痛みにかまえたのだけれど、今回はまったくの無痛だった。ただ、ノープロテクションの肘はしっかり痛かったので、この背中のAdapted Impact構造はかなり優秀だと実感した。

おまけに、ライディング時はその存在を忘れていたネックブレースが、転倒してみるとしっかり首の可動範囲を抑えてくれていることがわかった。もちろん首を傷めるような転倒ではないのだけれど、「お! だいぶ守られてるな!」と思える。

そしてもうひとつ、強調しておきたいことがある。

転倒した後、バイクを起こして再スタートしたが、ネックブレースもプロテクターも装着位置がまったくズレていなかった。僕はそのまま立ち上がってバイクに跨り、何事もなかったかのようにレースを続けることができた。転倒時に装備がズレないというのは、レース中のロスタイムをまったく気にしなくていいということだ。これは想像していた以上に大きなメリットだった。

テージャスで90分間ブレースの存在を忘れて走れたこと、成田で背中がまったく痛くなかったこと、転倒後に装備が一切ズレなかったこと――それぞれが装備への信頼に直結している。

煩わしさを可能な限り排除した上で、いざという時の保護性能を妥協しない。これがATLASの設計思想であり、僕がエアーライトとディフェンダーハイブリッドを選んだ理由でもある。次にネックブレースを買う人がいたら、僕はこの組み合わせを薦める。