8月12日|ハイスピードと、ナビの迷宮
LEG3のコースは、大津にとって願ってもない性格だった。「けっこうハイスピードのラリーで、自分に向いてるなと思っていました」。だが、序盤から順風満帆だったわけではない。1本目のSSは、木が生い茂った区間に道が無数に枝分かれする、典型的なレベルの高いナビゲーション。ここでトップ集団すら迷った。抜け出したのはベテラン、岡本薫である。大津はこの1本目で岡本に10分の差をつけられ、「これは厳しいかもな」と一度は覚悟した。
流れを引き戻したのが、次の高速SSだった。2〜3kmにわたってダートの直線が続く区間。路面には縦穴が口を開けるが、大津はアクセルを緩めなかった。「緩めたらダメだと思って、止まるところまで回して、伏せて走りました」。取材班もその路面をかなり注意深く見たが、練り込まれた赤土に地味との四輪が刻んだ縦の轍が刻まれ、さらにタイの炎天下でアスファルトのように固くしまっていた。ハンドルがとられるだろうし、何かの拍子に弾かれることもあるだろう。伏せてスロットル全開、の恐ろしさは想像に難くない。そこへ、冒頭のジャクリットが+20km/hで抜き去っていく。しかし総合タイムは2時間34分57秒。2位につけたそのジャクリットに、1分42秒の差をつけての優勝だった。速さで負け、タイムで勝つ。ナビゲーションと路面を読み切る「もう一つの速さ」が、この日は上回った。
岡本薫、23秒の攻防
派手なのは大津の優勝だが、この日いちばんラリーの本質を体現していたのは岡本かもしれない。14番手・トップから14分遅れのスタートから、SS前半でその差を消し、一時はトップに立った。「間違えるところなく、ひたすら。気づけばトップに14分差以上をつけていた感じでした」。後半、一箇所だけ道を見つけられず10分をロスし、そこへ追いついた泉本拓也と二人でコースを探す一幕もあった。それでもデイ4位で賞金を持ち帰る。
岡本の視線は、単日ではなく総合にある。チームとしてはLEG1マシントラブルでデイリタイアしてしまった大津の総合順位(LEG3後 23位)は望めない。池町監督も「大津はどこかで勝ち星を得て、爪痕を残してほしい」と言う。一方岡本は、まだ上位を目指せる位置にいるのだ。「目標は総合3位。1位のジャクリットは離れちゃったんで、速さで追いつくのは厳しい。でも、このラリーは結局ナビなんです。今日も最初はナビの勝負で、ジャクリットも詰まってた。だからナビゲーションゲームには、まだチャンスはある」。手応えは確かだ。岡本にとって初めての海外ラリーだが日本での厚い経験がしっかり生きている。積み上げてきたことに、大きな意味があったのだ。「やっと、アジアのラリーがだんだん分かってきた」。LEG3終了時点で、岡本の総合は4位。3位のスウィジャク・ドントリナックとの差は、6日間の累計でわずか23秒である。速さではなく、ミスをしない者が上がっていくラリーの残酷さと面白さが、この23秒に凝縮されている。
チームとしても、いい位置につけている。総合はスマティ・トラクルチャイが2位、岡本が4位、泉本が5位。TEAM MUSASHI勢が、トップ5に3台を送り込んでいる。首位ジャクリットのスピードとナビの正確さは別格だが、上位を厚く固めるムサシの戦い方は理にかなっている。ラリーとは、チーム戦なのだ。大津のLEG3優勝は、その総合争いに「もう一枚」を加えるための、力強い追い上げの一歩。なにせ、LEG4は前日トップの大津が先頭を引く。つまり、ジャクリットと前線で戦うのは大津で、岡本は淡々と追い上げ体勢を維持すればいい。「明日は1番手で走れるので、思うがままに。迷って誰かと一緒になると1〜2分の差が消えて、一緒にゴールしたら負けになる。だから逃げの形で、轍をつけずにコーナーを滑らさず曲がって、逃げに走ります」。前を走る者がいない一日を、どう使い切るか。
いよいよレースは後半へ突入する。