TUESDAY / 250PRO SPORTS HEAT1
「生まれて初めて。こんなことが起きるとは」

7月29日の練習走行では、クラストップタイム。全米における前評判としても、今季最注目とされる下田丈は、いやでもメディアに囲まれる立場にある。スタート待ちにおいても、頻繁にカメラを向けられることになる。17歳、気負わず臨めというのが無理だろう。

42の札を見る下田。ああ…このときから…

いやなムードは、グリッドにつく前からあった。ヒート1のグリッドは、くじ引き順に選べるのだけど、そのくじを引いた瞬間の下田は、顔を珍しいほどにゆがませながら叫んだ。下田の引いたくじは、42番。42人グリッドだから、まさに「最悪」のくじを引いたのだ。思えば、ロレッタリンでいいくじを引いた覚えが無い。下田に言わせても「いつも、くじ運が悪い。去年は38番と40番、一昨年は11番と37番…」と全部覚えているくらい、悪い。「もう、大当たりですよね…。ある意味」と。

まさに「残り物」のグリッドへ滑り込んだ下田は、アウト側より。奇しくも、隣にライバルの一人ピアース・ブラウンが並んでいた。2年前に取材した下田より、だいぶ緊張感が見て取れた。居心地の悪さか…落ち着かないように見える。

思い切り初速が乗る…かと思いきやの失速

スタートゲートが降りた瞬間、持ち前の反応の良さで好スタート。ここで前にすっと出てくるはずが、下田は数メートルで失速。首を若干傾げながら再加速するが、時すでに遅く集団に巻き込まれてしまい、2コーナー目でコースアウト。最後尾からの立ち上がり…いや、それだけではなかった。4コーナー目では転倒車につまづきさらに失速。はっきり言って、最悪だ。下田は、レース後この様子を語りながら「そこでレースは終わりました」と吐き捨てた。

この時はまだ、スタートがロレッタリン期間中、ずっと下田を苦しめることになるとは、誰も気づいていなかった。

果敢に攻めこむ下田。薄い轍で、このバンク角。いかに攻めているかが、おわかりになるだろうか?

もちろん、下田は表彰台どころか1位を狙っているライダーだから、いかに最後尾からと言えどグイグイと追い上げを効かせる。決して諦めたりはしないし、1周につき10人ほどごぼう抜きしながら追い上げを加速する…が、当然だが一気にスパートをかけていくトップ陣の逃げに、その位置からでは到底届かなかった。体力もしっかりついて、同世代の中でもタレないと評価されてもいるが、結果は8位。一体スタートで何があったんだ、スタッフは下田を囲んだ。

ジェットも心配して声をかけてくる

2速スタート、ニュートラルにギア抜け

スタッフ達は、みんなスマホでスタートの動画を撮っていて、何度も繰り返し下田に見せながら研究する。下田の話と、スタッフ達の話を総合すると、原因は、2速からのギア抜けだろうとのことだった。シフトに触れることなく、ニュートラルに入ってしまった。

下田はモトクロス人生で初のことだったと言う。「何がおきたかわからなかったですよ」と。悔しがる下田に、チームメイトでライバルのジェット・ローレンスが「スタート前に、2速にしっかり入れて、少しクラッチをつないでおくんだ」と説明していた。レース後、下田はすぐにトレーナーのヤニングとスタート練習場に直行して、スタートの感覚を体に染みこませた。何度も何度も、スタートの所作を繰りかえす。「タイムアタック順で、グリッドしてほしいよ」と下田は漏らす。

下田は、今年から少し変わったスタート方法を取り入れている。というのも、見ての通りホールショットデバイスを思い切り下に下げている。その数値、50mm。フロントが上がってしまうことに対して、姿勢を思いきり前下がりにすることで対処する。下田を長年側でみているメカニック、キャメロンは「そう、丈はウィリーボーイなんだよ。どうしても、スタートでフロントが浮いてしまう。だから、他のライダーよりも低くしている。もう少し低くすることが出来るけど、今はこの位置で落ち着いているんだ」と説明してくれた。

そもそも、下田はスタートにも定評がある。「毎年、ロレッタリンは最初よくなくて、段々調子を上げていくんだよな」と下田の祖父は言う。

「ローカルレースでは、プロのトップクラスとあまりタイム差はない。でも、いまの段階でスピードが劣っていたら話しにならないですから。プロ(AMA)でどこまで戦えるか…、たぶん初戦では一桁には入ると思ってる」と下田は淡々と言う。

プロで通用する人間に育つだろう、と思っているとしたら、完全に認識は甘い。すでに「当然プロで通用する」ライダーだと自認している。だからこそ、この8位は歯がゆい。勝って当たり前、その位置にいま下田はいる。