山本礼人、佐々木文豊、岡庭大輔、奥卓也、横田悠、日本人5人のルーマニアクス挑戦を追いかける連載第3回。全ライダーが日本でのレース日程を全て終え、明日、ルーマニアクスに向けて出発する。果たして完走の確率はどのくらいあるのか?

今年ルーマニアクスに挑む5人のライダーのうち、最高峰のゴールドクラスに参戦するのは山本礼人と佐々木文豊、奇しくも同じ「アヤト」という名を持つ2人(岡庭、奥、横田の3人はブロンズクラス)。いよいよ出国を来週に控えた今回は、この山本と佐々木にスポットを当て、紹介しておく。

自転車トライアルからオフロードバイクへ

山本は幼少の頃、父親の影響で兄弟と一緒にモトクロスバイクに出会った。KX65を与えられたが、そのパワーが恐ろしく、10回ほどで乗るのをやめてしまったという。それから山本の興味は自転車に移っていった。父親の先輩だったトライアルレジェンドの伊藤静男氏に教えを乞い、次第に自転車トライアルのプロを目指すようになっていった。

中学を卒業して兵庫の自転車トライアル専門店に就職。住み込みで働きながらスキルを磨き、自転車トライアルのプロに向けて順風満帆のように思われた。が、山本は一緒にプロを目指すライバルたちのスキルの高さに圧倒され、1年ほどでその道を挫折。

そして実家に戻った山本は17歳の時、再びバイクに乗り始めた。背中を押してくれたのは、兄だったという。兄に言われて気乗りしないまま免許を取りに行った山本が家に帰ると、DT50が用意されていて、山本はすっかりバイクの魅力にハマってしまった。

DT200、KDX220、WR250(ハスクバーナ)と乗り換え、CGCやG-NETなどのハードエンデューロレースに出場するようになっていった。そして2018年、最後のヒルクライムで登り負け、惜しくもG-NETチャンピオンを逃した山本だったが、2021年にその才能が開花した。

「一番大きいのはビバーク大阪さんとの出会いです。まずGASGASがすごく良くて、フィーリングがとても良いのはもちろんなのですが、トラブルがないことでレースに集中することができました。また、代表の杉村さんに誘われたJECに出るようになり、そのレースに対するストイックな姿勢に影響を受けたのも大きいです。2021年は開幕戦のCGC奈良トラに向けて何回も奈良まで足を運んで乗り込みをして、ロックセクションが苦手だからローダウンしたり、サスのセッティングを変えたりしました。お恥ずかしながら、昨年(2020年)まではそんな発想すらなかったんですよ」

こうして山本は2021年、開幕から3連勝で初のG-NETチャンピオンを獲得した。

27歳という年齢にしては、山本の海外レース経験はかなり豊富だ。2015年にサハリン極東ハードエンデューロラリー(7位)、2018年にトルコSea To Sky(シルバーメダル)、2020年に台湾亀山ハードエンデューロ(優勝)と3回に及ぶ海外レース参戦をもち、成績も残してきている。

そんな山本が次に選んだ挑戦の舞台が、ルーマニアクスというわけなのだ。

「ギリギリ完走できるかどうか。できることを最大限やって挑みたい」

「ルーマニアクスではFIMタイヤ規制があるため、チャンピオンシップがかかっているG-NET戦以外ではFIMタイヤで走る練習をしています。G-NET戦で使っているSHINKOの540DCと違い、ライダーのテクニックがすごく重要で、ヒルクライム一つとっても、1つ1つの動作をすごく意識して行わないと登れないんです。今はそれがすごく良い練習になっていますね。そして海外のライダーは540DCの登坂力を知らないので、彼らが登ったことのないようなヒルクライムも、僕らは登っていると思うんです。そこに付け入る隙があるんじゃないかと考えています。

ハードエンデューロを始めたばかりの頃、田中太一さんに『お前は頭が悪いからもっと考えて走れ』と言われたことを今でも覚えていて、ラインをしっかり見たり、ヒルクライムを登る前に一呼吸入れて冷静になったり、そういう基本的なことを思い出しながらトレーニングを積んでいます。

ルーマニアクスは、ぶっちゃけ完走ギリギリのラインだと思っています。それほど、難しいレースです。だからこそ、真面目に取り組んでいます。全日本チャンピオンが行って、全然ダメでした、では恥ずかしいので、できることは最大限やって挑みたいと思っています!」

山本は7月10日に行われたトライアルの中部戦においてNBデビューを果たし、初めての大会にもかかわらずクラス4位でフィニッシュ。幼い頃、自転車トライアルで培ったテクニックと、ハードエンデューロで鍛えたフィジカルを存分に見せつけてくれた。

「自分はエルズベルグロデオよりもルーマニアクスの方が向いている」

佐々木文豊は神奈川県厚木市出身。そう聞くと、石戸谷蓮のような猿ヶ島育ちのエンデューロライダーかと思ってしまいがちだが、佐々木は高校生まではレーシングカートに取り組んでいたという。大学時代は車に夢中になり、就職して愛知県に引っ越してから、オフロードバイクに出会った。バイクを購入したのがたまたまアドベンチャー(CGCを主催する愛知県みよし市のバイクショップ)だったことで自然とCGCに参戦するようになった。「初めて出たCGCでは、さわやかクラスを周回できなかったんですよ」と語る佐々木だが、今やG-NET黒ゼッケンを不動のモノにしている実力者だ。

過去最高順位は3位(2021年CGC奈良、2022年Hidaka Rocks)、ランキングは2020年に5位を獲得している。モトクロスもトライアルも経験しておらず、ハードエンデューロ一本でここまで上り詰めてきたライダーだ。2018年、2021年にトルコSea To Skyに参戦しており、2021年にはシルバーメダルを獲得している。

「ルーマニアクスに出てみたいねって話はずっとしていて、Sea To Skyに比べると圧倒的にハードと言われていますが、Sea To Skyも完走しようと思うとエルズベルグロデオに似ているところがあって、スピードが必要なんです。2021年に僕が参加した時もすごい渋滞にハマってしまって、ゴールドメダルまであとCP1つというところで終わってしまいました。

SNSなどで世界のトップライダーのコメントを見ると、Sea To Skyやエルズベルグロデオを短距離走とすると、ルーマニアクスはマラソンに例えられています。ハードエンデューロラリーって言うくらいですし。

目標はもちろん完走ですが、結構厳しいと思っています。ゴールドクラスを完走すると、その年のフィニッシャーとして、ルーマニアクスの公式ホームページに一人づつ特設ページが作られて、写真と動画が掲載されるんですけど、去年のゴールドクラスフィニッシャーの中で最下位のライダーの走りを見ると、別にそんなに上手いわけではないんですよ。ただ体はすごくできていて、フィジカルはものすごいあるんだろうな、って。だからテクニックよりもスタミナが重要なレースなんじゃないかと思っています。

ルーマニアクスでは1日100kmを4日間連続で走ると言われています。100kmっていうのは走ったことがないので、どうなっちゃうのか自分でもわかりませんが、実はいつものG-NETでは体力は余っていて、後半調子がよくなってきた頃にレースが終わっちゃうんです。僕はトライアルの練習を全くやっていないので、そういうのは不得意なんです。難しいステアやヒルクライムに何度もチャレンジするようなレースはあまり好きじゃない。だからエルズベルグロデオよりも、ルーマニアクスみたいなずっと山の中のちょっと難しい移動路が続く方が向いていると思うんです。

本当は今回、シルバークラスに出るつもりだったんですけど、エントリーしようと思ったらもう枠が埋まってしまって、ゴールドクラスにしたんです。本当は僕はシルバーくらいがちょうどいいんじゃないかな、って思ってるんですけど……。

レンタルサービスのバックアップがすごく良くて、毎日メカと相談してタイヤを変えるか、ムースをどうするか、など対応してくれます。やはりパンクのリスクはあるのでムースにするか、でもムースだとどうしてもグリップしない時はグリップしないので、まだ迷っています。Sea To Skyで海外のメカに教えてもらったタブリス+ハーフムースみたいなのもリクエストすればやってくれるので、その辺は安心しています」

サンドラ・ゴメスを基準に分析するルーマニアクス
山本・佐々木の完走の可能性は?

2021年のルーマニアクス、ゴールドクラスでは50台エントリーがいる中で完走が31台。そう言われると、思ったよりも完走率が高く感じられるが、そもそもゴールドクラスにエントリーしている50人というのが、世界のトップオブトップ。

例えばギリギリ完走の29位にはスペインのレディスライダー、サンドラ・ゴメスの名前がある。「なんだレディスライダーでも完走できるなら、なんとかなるんじゃ?」と思うなかれ。サンドラは今年のエルズベルグロデオでCP17まで進んで85位に入っていて(藤原慎也は113位、石戸谷蓮は127位)、アイアンロード・プロローグでは101位を獲得している(鈴木健二は103位)ライダーなのだ。

#11 Competitor - Red Bull Romaniacs 2021

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単純に全日本ハードエンデューロ選手権G-NETの成績だけを基準に考えるのならば、山本と佐々木は藤原や鈴木と同レベルで戦うトップライダーだ。あとはエルズベルグロデオとルーマニアクスのレースフォーマットの違いや、各々の得意・不得意なセクションなど細かい条件はあるものの、このサンドラの成績を指標にさせてもらえば「山本・佐々木がルーマニアクスを完走できる可能性は、確かにある」と言っていいだろう。

Red Bull Romaniacs 2022 Team Japan
左から佐々木文豊、横田悠、岡庭大輔、奥卓也、山本礼人

日本チームは7月23日に羽田空港から飛び立ち、26日にプロローグ、27日〜30日が決勝レースとなる。先に告知していた通り、Off1では現地からもSNS、記事にて各選手の様子を発信する予定なので、ぜひ注目して欲しい。