JNCC第8戦、サンドバレー八犬伝が開催。千葉県の採石場・千葉石産株式会社の敷地を借りて作られたサンドコースは走りごたえ十分。去年の映像を見てエントリー台数は跳ね上がり、エントリー総数は665台という近年のJNCCでは稀に見るマンモスステージとなった

2年連続、八犬伝で決めた年間チャンピオン

2022年のJNCC第8戦は、サンドバレー八犬伝。昨年に引き続き、千葉県君津市にある採石場の敷地を借りて行われる奇跡のレースが実現した。2009年のJNCCパンゲア淡路島にてエントリー台数700台越えを記録したが、この八犬伝はそれに匹敵する665台が集結。

金曜までの雨の影響でコースコンディションはマディ。FUN-GPでの凄惨な様子から、COMP-GPはレース時間を30分短縮。状況によってはラストラップの周回を待たず、競技時間終了とともにその場でレースを閉じる可能性すらあることがアナウンスされた。

ランキングトップの馬場大貴には、最終戦であるAAGP森羅を待たずして、今大会でのチャンピオン獲得が期待された。

AAライダー紹介では集まった観客にハイタッチしながら外周を大きくまわり、スタート位置へ。

会場を提供してくれた千葉石産(株)の棚倉会長から「おかげさまで天気に恵まれ、本当に助かりました。サンドバレー八犬伝ではなく田んぼバレー八犬伝になってしまうかと非常に心配してました。このコースを作るにあたり、スタッフの方や地元の住民のみなさまにたくさん協力していただきました。非常に盛大な大会になり、嬉しく思っています。最後まで完走できるように頑張っていただきたいと思います」との言葉が。なんと会長自らブルドーザーを運転し、コースを造成している。

「君が代」が流れ、2分間の暖機運転が終わると、60秒の静寂が訪れる。毎戦恒例の演出ではあるものの、チャンピオンがかかった大会では、いつにも増して緊張感が高まる。

そんな緊張の中でもしっかりホールショットを決める馬場。続くのは矢野和都、小木曽俊輔、鈴木涼太、小島太久摩……。

前半セクションを終え、後半セクションへ向かう先頭集団。馬場、矢野、鈴木、成田亮、小林雅裕。この5人がレース前半でバトルを繰り広げた。しかしこのあと、馬場はコースを見失い、トップを矢野に明け渡すとウッズの入り口でも成田のマシンに阻まれ、順位を落としてしまう。

1周目の剣士ヒル(土曜日開催のエキシビジョン「剣士のヒルクライム」で使用したヒルクライム)をトップでクリアしたのは成田。続いて矢野。

2周目の剣士ヒル、引き続きトップで集団を牽引する成田。すぐ後ろには小林、馬場が迫る。このあと、小林が成田をパスするが、3周目には馬場が再びトップを奪い、独走体制に持ち込んだ。

その後は危なげない走りでハイペースを維持したままゴール。

チェッカーと同時にスタッフによるシャンパンを浴びる馬場。昨年に続き、最終戦を前に年間チャンピオンを決定させた。

馬場大貴
「スタート前は少し緊張しましたが、チャンピオンのために無難にまとめようという気持ちはなくて、一戦一戦勝つだけという意識を強く持ちました。おかげでホールショットを獲れたんですけど、後半のコースを下見してなくて、コースを見失って抜かれちゃって、ウッズ入る時にも成田さんに詰まって行けなくて、そこで6番手くらいまで落ちちゃいました。

その後もトップには立ったものの、なんかマシンが走らないな……と思っていたら、いつの間にかマップスイッチのボタンを押しちゃってたみたいで。4周目くらいに気づいてマップスイッチを戻したらすごく走りやすくなりました。

3周目くらいから剣士ヒルが掘れて登るのが厳しくなってきたのでエスケープを選んでたんですけど、後ろとの差は開いていったので、他のライダーもやめてたのかな。そしたら成田さんだけ剣士ヒルを登っていたみたいで、だんだん近づいてきたので、成田さんに抜かれたら僕も(剣士ヒルに)行こうと思っていました。後ろが離れたからペースを落とそうかとも思ったんですけど、リズムが崩れるのが嫌だったので、まだプッシュできる余力を残しつつ、ペースを維持して走りました。

お客さんや友達がたくさん来てくれているこの八犬伝で勝ちたかったので、とても嬉しいです。また、兄弟でエンデューロのチャンピオンを獲れたことが一番嬉しいです。

今後の目標としてはTEAM887として、モトクロスでももっと活躍して、僕らの影響力をもっと大きくして、ビギナーや裾野を広げていく活動をしていきたいんです。個人のライダーとして高みを目指すというよりか、後進の育成や業界の発展のために頑張りたいです。YouTubeとかもそうですけど、モトクロスもエンデューロをひっくるめて『楽しい』を発信していきたい。それが巡り巡って自分たちのためにもなる、そういうサイクルを作っていきたいと思います。

僕はJNCCのフル参戦を続けますし、(弟の)亮太と一緒にもっと強く887をアピールし続けていきたいと考えています」

弟の馬場亮太は2018年、全日本モトクロス選手権の予選ヒート中に負った怪我の影響で現役を引退したが、今年はJEC全日本エンデューロ選手権にフル参戦。釘村忠との接戦を制し一足先に全日本チャンピオンを決めていた。なお、馬場大貴は2022年5月、元ファクトリーライダーであり、スズキファクトリーの監督まで勤めた日本を代表するモトクロスライダーであった亡き父・馬場善人氏が立ち上げたサスペンション・エンジンのメンテナンスショップ「BABANA SHOX」の社長に就任している。

小池田猛や鈴木健二、渡辺学ら、30代後半から40代のモトクロスを引退したライダーが中心に活躍してきたJNCCやJECにとって、20〜30代前半の馬場兄弟の活躍は新しい時代の到来を予感させるに十分なもの。その影響力はレース業界に留まらず、今や日本のオフロードシーンに欠かすことのできない宝になったと言えるだろう。

2位に入ったのはBlueリゾート箕輪に続き小林雅裕。

小林雅裕
「なんとか勝ちたかったんですけど、大貴速かったです。僕は大貴みたいにチャンピオン獲るぞってやってなくて、単発でもいいから1位が獲りたくてずっと続けてきました。次もあるので、頑張っていれば報われると思って次も頑張ります。同じチームの田中教世さんに色々とアドバイスもらいながら一緒に練習させてもらって、前回よりもトップとの差が小さくなってると思います」

そんな小林は2014年の極悪コンディションの阿蘇で初優勝を果たして以来、優勝から遠ざかっている。

3位は田中教世。スタートで出遅れからの剣士ヒルで大スタック……1周目40番手だったものの、その後は安定した走りで徐々に順位をあげ、中盤からはずっと3位をキープ。

田中教世
「スポット参戦しかできないんですけど、3位に入れたのはすごく嬉しいです。サポートしてくれるthsレーシングに感謝しています。来年もどこかでスポット参戦してトップ争いができるように頑張りますので、よろしくお願いします」

一時はトップの馬場を15秒差まで追い込んだ成田亮だったが、9周でレースを離脱。

成田亮
「クラッチレバーがスカスカになっちゃって、コンロッドがカタカタ言う音が聞こえてきたので辞めました。ウッズがうまく走れなかったり、剣士ヒルをずっと登ってたんですけど、みんな途中から登ってなかったみたいで……3回くらいスタックして無茶な開け方しちゃったので、そう言うのが祟ったんだと思います」

久しぶりにJNCCに参戦した矢野和都は、総合6位に入る走りを披露。

セロー700ことTENERE700改で参戦した和泉拓もきっちり完走し、COMP-R81位。

FCX、FUN-GP、エキシビジョンなど
JNCCは観客からキッズ、初級ライダーまで楽しめる

今大会から土曜日に開催されることになったキッズレースFCX。本戦に負けず劣らずエントリーが多かった今大会は電動クラスと50ccクラスが別開催。

50ccではホームストレートにできたフープス状の溝をアクセル全開のまま通過する迫力の走りを見ることができた。

日曜日の午前中に開催されたFUN-GPは360台が出走。

FUN-Cクラス、FUN-Dクラスがスタートすると最初の坂では渋滞が発生した。

こちらのフープスでも常に渋滞。爽やかに走れるモトクロスのようなセクションから、こんなハードエンデューロまで幅広いシチュエーションが楽しめた。

そこらじゅうで埋まってるライダーと、それを助ける観客の姿が見られた。過酷なコンディションによるエンジントラブルでマシンを置いてレースをリタイヤするライダーも多かった。

そんなレースを制したのはモトクロスレジェンド、田渕武。昨年はCOMP-GPに出場したものの「3時間も走れない」(※本人談)と、今年はFUN-GPにエントリー。見事に総合優勝。

FUN-WAAクラスは久しぶりに出場した石本麻衣が制した。なんと総合でも11位に入り、クロスカントリーライダーとしての経験値の高さを示した。

JNCC初出場、先日のWEX箕輪50minで総合優勝したレディスライダー野口夏希がFUN-WBクラスを制した。

渡辺敬太、山田嵐士ら若手ライダーも表彰台に立ち、賑やかなレースとなった。

GETプリンセス、剣士のヒルクライムは戸田学人が完全制覇

土曜日、天気がイマイチだったせいか観客はまばらだったが、エキシビジョンとして「剣士のヒルクライム」が開催。日曜日のCOMP-GPでも使用する剣士ヒルの別ラインを使い、頂上にはレースクイーンも立った。エントリーしたライダーが2本づつアタックして一番高い位置まで登れた者が優勝というルールだ。なお、事前テストではAAライダー内嶋亮がチャレンジしたが登頂できていなかった。

レディスライダーからFUNライダー、そしてCOMPライダーの順にアタックするも、ほとんどのライダーは半分も登れず……しかもアタックするたびに路面は荒れ、難易度を増していく。

渡會修也

神馬匠

鈴木涼太

小林雅裕

鈴木健二

多くのチャレンジャーが倒れる中、成功したのは

新型のYZ450Fでチャレンジした馬場大貴が2トライ目でギリギリクリア。最後は押したものの、ルール上はOK!

そして成田亮も2トライ目で完璧にクリア。さすが!

しかし唯一、2トライとも成功させたCOMP-Aライダー、戸田学人が文句なく優勝。結局登れたのは450ccのマシンだけだった。

戸田学人
「2速で行きましたね。ハードエンデューロもやってるのでヒルクライムは得意な方だと思います。あとAAライダーの松尾選手が作ってくれたエキパイを使っていて、純正よりもレブ方向に向けて穏やかなエンジン特性になっていて、全開にしやすいセッティングになっているのも大きかったと思います。2回目のアタックではより難しくするためにコースを狭められてしまいましたが、ライン取りを工夫して登ることができました」

大会前日のエキシビジョンをしっかり盛り上げてくれた。

なお、サンドバレー八犬伝は来年の開催は未定。会社の敷地を借りていることや地域近隣住民の方々への配慮など、さまざまな状況次第。来年も開催されるかどうかはスケジュール発表を楽しみに待とう。