史上初のオートバイによる北極点・南極点到達、チョモランマ(エベレスト)世界最高高度6005m達成、パリ・ダカールラリー二輪部門への日本人初挑戦など、これまで数々の挑戦を成し遂げてきた風間深志氏が挑戦する初めての日本一周ツーリングレポート。ついに最終回を迎え、日本一周を終えた風間氏はいま何を思うのでしょうか。

ついに完結!日本一周の果てに見る未来とは?

すでに夏の陽気となった7月初旬。朝6時に目覚めると快晴で気分は上々だ。
昨夜は長旅の疲れもあり、秋田でいつもより少し上級なホテルに泊まったのだが、その甲斐があったというものである。今朝は日本一周ツーリングの最終ゴールへと出発する朝なのだ。

朝食をすませ、7時半にフロントの秋田美人に見送られ出発する。350km先にある「龍飛崎(たっぴざき)」を目指して一気に……と行きたいところだが、その前に男鹿半島(おがはんとう)の中心にある「なまはげ館・男鹿真山伝承館」に立ち寄る。僕はなまはげに似ているとよく言われるのだが、そもそも「なまはげ」というものを詳しく知らない。どうせ近くを通るのなら、この際、勉強しておこうと思った。

かくして、なまはげの故郷は真山(しんざん)という名の、日本の原風景を絵に描いたような静かな山村だった。こんな平和で穏やかな村から「泣く子はいねぇが~」と、あの怖いなまはげが現れたのだろうか? そんな疑問をなまはげ館で解消してもらおうと訪れたのだが、なんとこの日は痛恨の休館日。うむむ、かくなる上は自分では調べず、またの機会に訪れることにしよう。

しかしここの風景は素晴らしい。オートバイで走っていると緑いっぱいの山間で生きる人々の暮らしの一端に触れたような気がして、心の底から「旅に出て良かった」と思える。旅の醍醐味は、こうした偶発的な出会いから生じる、一瞬の光芒にこそある。

そのまま能代(のしろ)へ向かう道中では風力発電の風車が無数に建っていて驚いた。これもいずれ地域を象徴する風景になるのだろうか……。

海を望む海成段丘の切り立った崖と、ひなびた浜辺の風景。
そんな日本海らしい場所でアフリカツインを止め、海を眺めていると背後に男がやってきて呟いた。

「ホンダか……」

乗られていたんですか?と僕。

「若い頃はずいぶん乗ったよ。昔のはなし」

いい海ですね。

「今日は濁ってるけどね。いつもはもっと真っ青だよ」

こんな素敵な場所で暮らしているなんて羨ましいですよ、いいですね。

「いまだけだよ。冬は寒すぎて口も開けられないよ(笑)」

オートバイで旅とかもされたんですか?

「町には暴走族もいたけど、俺たちは真面目な田舎の走り屋だったよ。ホンダ CBで毎日コーナーを攻めていたんだけど、あるとき彼女を乗せた仲間がコーナーを曲がり切れず崖下に転落して大怪我してね。それがきっかけでオートバイをやめたんだ」

もう乗らないんですか?

「いやさ、ここ最近また乗りたくなってさ。気持ちいいよねオートバイは」

オートバイで旅をしていると日本全国どこでも、おじさん達に声をかけられる。
旅をしているライダーの姿がどうやら男たちの気を引くらしい。「いつかオイラも風のように旅をしてみたい」と。

おじさんと別れた僕は、旅の幸福感をかみしめながら国道101号線を北上し、「鯵ヶ沢(あじがさわ)」を目指すのだった。

鯵ヶ沢は人口8000人ほどの町。ひなびた風景をイメージしていたが、訪れてみるとなかなか美しい海の町だった。町から五所川原(ごしょがわら)方面へ少し進むと、「メロンロード」という愛称をもつ農道が現れる。夏になるとメロンとウォーターメロン(すいか)の出店が立ち並ぶことから名付けられたらしい。ここを進むとついに津軽半島への最終章だ。

九州の小倉からここまで約1700kmを走破。最初は「重戦車」に感じたアフリカツインが、今となってはもう身体の一部と化し、意のままスイスイヒ~ラヒラに操れる。なんとも頼もしい相棒である。

どこまでも美しく長閑な津軽の風景を走っていたら13の河川が流れ込む「十三湖」にたどり着いた。湖岸の売店に掲げられた「しじみ汁、しじみラーメン」の看板に思わず目を奪われる。トイレと眠気覚しをかねてバイクを停め、売店でしじみ汁を一杯頼んだ。

白濁した温かい汁に沈む山盛りのしじみ。これがもう旨いのなんのって。大感動でお店を後にした。

国道339号線の「竜泊ライン」に入れば、これが最終最後の道。クライマックスロードである。半島をグイグイと登って下りると、ついに白い灯台が建つ龍飛崎へたどり着いた。

龍飛岬の駐車場で、ヘルメットを脱いでひと息ついていると、ここに来るまでの坂道を必死に駆け上がっていた「日本一周中」のチャリダーがやって来たので「お疲れ様!」と声をかける。

 「ありがとうございます。8日前に茨城を出て、ようやく龍飛岬に到着しました」

僕もいま日本一周ツーリングを完遂したと話すと意気投合。一緒に展望台まで歩くことになった。青い津軽海峡を見渡す展望台で写真を撮り合い、二人で『やったぜ!』と吠えるのだった。彼は24歳。これから一年をかけて日本を一周するという。予算は60万円。資金が足りなくなったら道中でアルバイトをするつもりらしい。

先の龍飛崎を後にした僕はオートバイを走らせながら色々と考えてしまった。

「自分は74歳(出発時は73歳)なので、彼とは50年もの年齢差がある。僕はいま日本一周を終えたが、彼はこれから日本一周が始まる。そして日本一周を終えたら、僕がそうだったように、彼もきっと世界に向けて走り出すのだろう」

日本一周ツーリングのゴールは思いがけず、人生の引き継ぎ式のような出会いの場だったな……いやいや、まだまだ僕は走りますよ。再び世界へ、ね。

日本一周ツーリング DATA

期間:第一章/2023年10月7日~10月15日
   第二章/2023年11月18日~11月27日
   第三章/2023年12月8日~12月13日
   最終章/2024年6月24日~7月2日

総走行距離:約8,800㎞

到達した極点:​宗谷岬、納沙布岬、尾花岬、白神岬、大間崎、魹ヶ崎、潮岬、毘沙ノ鼻、竹居岬、蒲生田岬、佐田岬、足摺岬。和布刈神社、鶴御崎、神崎鼻、佐多岬
※日本16極点制覇