ホンダが北米で2027年型のCRF450Rを発表した。プレスリリースの一文目に「more than a decade(10年以上)」ぶりの全面刷新と書かれている時点で、定例4年に一度のモデルチェンジではないことが分かる

Honda
CRF450R MY2027

太らせて細くした新ユニット

トム・ビアルのCRF450RW。2月には2027モデルの先行投入的意味合いを持つこのマシンの写真が発表済みだ

今季MXGP開幕前2月に御披露目されたHonda HRC PETRONASのチーム体制には、新型のCRF450RWも含まれていた。かつての体制であれば、日本のホンダファクトリーも同じように先行モデルが開幕戦に投入されていたのだが、今回のフルモデルチェンジについては欧州のみで先行投入されていたことになる。

エンジン左サイドから見るとまるで別のエンジンだ

まずエンジン。ボアは96.0mmから97.0mmへと1mm拡大、総排気量は449.5cc。モトクロッサーは高圧縮化が進む傾向にあるが、今モデルではさらに旧モデルの13.50:1から13.8:1へと引き上げられた。これに伴って吸気バルブは40mm(+2mm)、排気バルブは32mm(+1mm)、さらに排気バルブはチタン化された。バルブはデカくなれば一般的に低速トルクが痩せるはずなのに、ホンダはカムプロファイルを大幅に攻めることでこれを潰す方向とプレスリリースに書かれている。

ユニカムの構造自体も進化したようだ。吸気側と排気側のロッカーアームシャフトを同軸に揃え、バルブトレイン全体を軽く・コンパクトに・剛性高くまとめてきた。クランクウェブはアンカー形状(錨型)からラウンド形状へ変更され、左右ジャーナルは「ボール&ローラー」から「ローラーのみ」に。要するに「燃焼圧を回転エネルギーに変換するロスを徹底的に減らす」という、教科書通りの改良である。

吸気と排気の話はもう少し踏み込みたい。新エアボックスはダクト形状を見直し、エアフィルター手前のカバーを廃止。フィルター自体もより気流の通り道に近い位置へ寄せられた。結果、吸気抵抗は約10%低減。一方、エキゾーストはヘッダーが3.4インチ(約86mm)、サイレンサーが3.0インチ(約76mm)長くなり、全長28.5インチ(約724mm)。これはAMAの新サウンド規制109.9dBに対応するためだが、ヘッダーとサイレンサーに一基ずつ計二基のレゾネーターを仕込んでパワーを犠牲にしない設計にしてある。

この結果、エンジンは最大幅で17mm細くなり、6ポンド(約2.7kg)軽くなった。450ccで2.7kgというのは率直に言って大きい。寝かし込みの軽快さに直接効いてくる数字である。

クラッチも見逃せない。バスケット径を7mm小さくして132mmに、プライマリードリブンギアは中央部を抜いたリング型へ。さらに、ラバーダンパーで作動するバックトルクリミッターを搭載してきた。これは構造としてはリアハブのクッションドライブに近い発想で、バックトルク発生時にラバーが変形することでクラッチ容量を可変させ、スリッパー的な動きをするとのこと。カム式スリッパーより圧倒的に軽量で、MXGPのレースで実戦検証済みだという。

ミッションは全段ロング化。一速の総減速比は18.954から18.173へ。シフトドラムのリード溝を3本から2本に整理し、ドラム幅を76.9mmから63.5mmへ。メインシャフトは14mm短く、ミッション総重量は1.1ポンド(約500g)、率にして15%軽い。シフトドラム単体でも46%軽量化と謳う。各ギヤの対応する範囲を広げ、ギアチェンジを減らす方向性は、現代らしい作り込みだ。

少し気になるのは、より攻めたスペックに見えることである。高圧縮化、ショートストローク化、高回転重視、そして低速を補うためのカムプロフィール。よりレーシングな仕様へと変化することで、CRF450RXに適用しづらくなる可能性はあるかもしれない。モトクロスは、FIMを中心に騒音規制が一層厳しくなることでパワーを引き出しづらいという背景がある。これに対応するためより上級者へ向けたキャラクターへ進化することで失われるはずのパワーを上乗せしようということなのだろうか。

「足し算と引き算」の妙

シャシーへ移る。メインフレームは部品ベースで約70%が新設計。それでいて重量は据え置き、縦剛性と捩り剛性は約10%増でこのあたりも上級向けへ進化したものと推察される。ヘッドパイプ周りのガセットを鋳造(従来は鍛造)に切り替え、シリンダーヘッドハンガーをスチールからアルミに置換して0.3ポンド減。

ジオメトリは、ステップが5mm後退、ホイールベースが0.3インチ伸びて58.7インチ、リアアクスル位置が0.5インチ上方、キャスターは0.2°寝かせて27.5°。リアステアでトラクションを掛ける現代モトクロスの作法と、直進安定性の両立を狙ったセッティングだ。トラベル量はフロント12.2インチ、リア12.0インチで変わらず。

フロントフォークはメインピストンバルブ構造を変更。スプリングレートは5.0N/mmから5.2N/mmへと一段硬く、内部の摺動部にはカシマコート。リアショックは50mmボディのまま内部肉抜きで1.4オンス軽量化、ブラダはレースチームの要請でラウンド型へ、サスペンションオイルはSS25からSS37に変更され、前後で銘柄が統一された。

スイングアームには喉肉盛り溶接なるもの(throat welding)を採用してメインパイプの外径アップ+肉厚ダウンを両立、0.9ポンド軽量化。D型断面化してわだちでの抵抗も減らしている。リアハブは新設計でアクスルベアリング間スパンを広げ、強度を上げつつ0.6ポンド軽量化。RKのフルマシニング製リアスプロケットは取付径160mm(+7mm)と、ジャダー対策と強度の両面で効いてくる変更だ。タイヤはDunlop Geomax MX34に格上げ、リアは新サイズの120/90-19。ブレーキはペタル化された260/240mmのローター、フロントキャリパーは30mm/27mmの2ピストンで、HRC Progressiveチームからのフィードバック由来とのこと。

現場の声がいちばん効く細部

最後に、細部を眺めてみたい。ここがいちばん「分かっている人が設計した」感じが出ていて、個人的には好きな部分だ。

燃料タンクはチタン製のまま容量を1.7ガロンから1.9ガロン(約7.2L)へ拡大。一方、スキッドプレートは廃止された(ウォーターポンプ部に小さなガードのみ)。CRF450RXのプレートを後付けできる、と但し書きがあるあたり、レース側の発想を強めた姿勢が透ける。

ボディワークはHRCワークスマシンに合わせた新形状で、ラジエーターシュラウド部で+2mm、シート部で+7mm幅広。「ニーグリップの効きと体重移動のしやすさ」を狙ったとあるが、これまでモトクロッサーが「細さ」を煮詰めてきたところ、「ちょうどいい太さ」を狙ったということなのだろうか。サイドパネルは左右シンメトリーになり、左側はクリップ留めから前後ボルト留めに変更。ハードに転んだ後でもパネルがめくれにくくなったはずだ。

メンテナンス性の改良は控えめだがわかりやすいものだ。リアブレーキローターのボルトがハブに直接ネジ込みになり1本のレンチで脱着可能、チェーンガイドは圧入ナット化、リアホイールカラーは丸形で脱落しにくくなり、クラッチホースの取り回しはタンクを外さなくてもメンテナンスできるように変更。エアフィルターはエアボックスのフタを廃止してサイドパネルから直接アクセスする形になった。どれも地味だがオーナーには嬉しいポイントだ。

電子制御は3モードのライドモード(Standard/Smooth/Aggressive)、3段階のHSTC、3段階のローンチコントロール。ライドモードはギアポジションセンサーで1-2速/3-4速/5速を見分けて個別の点火マップを出す仕組み。ハンドルバーはレンサルファットバー、クランプは180°回転可能で4ポジション、計26mm幅で前後位置を選べる。

サステナブル素材の話も出ている。フロントフェンダー、フロントナンバープレート、ラジエーターシュラウド、シートベースにリサイクル材を採用。ホンダの「Triple Action to Zero」イニシアチブの第一歩として、市販モトクロッサーがこのテーマに本気で踏み込んだのは少し驚いた。透明性の高い原料を選んだことで艶のある仕上がりも担保した、というあたりに作り手のこだわりが感じられる。

数字を並べると、エンジン-2.7kg、ミッション-0.5kg、スイングアーム-0.4kg、ハブ-0.27kg、スターター-0.45kg。車重は満タンで238ポンド(約108kg)。地味な王道で、しかし要所では大胆に攻める。これは「ホンダらしさ」の本来のかたちだと思う。

聞くところによると、ホンダでは海外メディアを事前に日本に招待し、この発表日にあわせて一斉に情報を解禁してPRするほどの力のいれよう。あとは日本のユーザーがこれをどう手に入れるか、そしてどう乗りこなすか。発売後の実車を早く触らせてほしい――というのが、現時点での率直な感想である。

2027 CRF450R 主要スペック

型式449.5cc 水冷4ストローク単気筒
バルブトレインOHC Unicam®/4バルブ/吸気40mm(チタン)・排気32mm(チタン)
ボア×ストローク97.0mm × 60.8mm
圧縮比13.8:1
燃料供給PGM-FI(46mmスロットルボディ)
点火TCI(トランジスタ制御)
始動プッシュボタン式セルフスターター
変速機常時噛合5速
クラッチ湿式多板(油圧式/バックトルクリミッター付)
最終減速#520チェーン(13T/51T)
フロントサス49mm ショウワ倒立フォーク(圧/伸調整可)/ストローク12.2inch
リアサスPro-Link ショウワショック(プリロード・圧/伸調整可)/ストローク12.0inch
フロントブレーキφ260mmペタルディスク/対向2ピストン(30mm/27mm)キャリパー
リアブレーキφ240mmペタルディスク/1ピストンキャリパー
タイヤDunlop Geomax MX34(F:80/100-21 / R:120/90-19、共にチューブタイプ)
キャスター/トレール27.5°/117mm(4.6inch)
全長×全幅×全高86.6×32.6×49.7inch
最低地上高13.1inch
シート高37.5inch(約953mm)
ホイールベース58.7inch(約1,491mm)
燃料タンク容量1.9gal(約7.2L/チタン製)
装備重量238ポンド(約108kg/満タン)
乾燥重量226ポンド(約103kg/燃料抜き)
カラーレッド(HRCトリコロール)
保証なし(競技車両)

※数値は米国仕様(2026年5月28日発表)。日本仕様および国内発売時期・価格は未発表。