あれは約3年前、2018年11月18日のことだった。群馬県日野カントリーオフロードランドで開催された日野ハードエンデューロ(G-NET2018最終戦)の、今ではもう使われていないG-NET最終セクション「Finish Hill」(現在の「ヤブ坂」の隣あたり)の頂上で、高橋博と山本礼人による壮絶なチャンピオン争いがあった。最後の坂を先に登った方がチャンピオンというシーンだ。結局、その戦いは高橋博が制し、2020年怪我により欠場するまで、高橋の黄金時代は続いた。

ワイヤーマウンテンの死闘

鈴木健二が今回、新型のYZ125を持ち出してきたことはライバル達を驚かせた。セルを後付けしたYZ250Xの方が、明らかに戦闘力は高いと思っていたからだ。しかしこのワイヤーマウンテンの鈴木の走りは、その考えを完全に覆してくれるものだった。

ワイヤーマウンテンはものすごい斜度のロングヒルクライムだ。最初は少し開けているが、中盤以降は木が生い茂り、ラインの選択が難しい。しかも、新設セクションでスタッフの試走でしか走られていないので、ラインはほとんどついていない。

頂上から見ていた観客の目に現れた順番は、鈴木、山本、水上、高橋、ZERO、といったところ。

鈴木をして、こんなことになる。これが難易度☆4ワイヤーマウンテンだ。しかしそれでも鈴木は一歩リードしており、一番上までコマを進めていた。

高橋、水上、ZERO、山本、かすかに大塚の姿も見えるだろうか。

鈴木がコーステープギリギリで見せたアクセルターン。

しかしなんと、ここで一歩抜き出たのは大塚だった。後方から一気にスタックしている集団に追いつくと、そこからほぼ直登ラインを見定め、2回目のアタック。ほとんどイゴらず(イゴる:主にヒルクライムやガレなどの難所で、バイクを押したり持ち上げたりしながら少しづつしか進む様子)にトップでこのワイヤーマウンテンを抜けていった。

この「イゴる」という言葉。ハードエンデューロレースの現場では知らない人がいないほど使われているのだが、読者の皆様の中には聞き慣れない方もいるかもしれない。いつもはなるべく避けて文章を書くように努めているのだが、今回ばかりはこの言葉を使った方が、よりリアルに記事を楽しんでいただけると、思い、解禁させていただいた。

この「イゴり」をする上で、ものすごく重要なのが、バイクの軽さと、セルボタンなのだが、鈴木のYZ125はこの「軽さ」という点で、とてつもなく優秀だったのだ。

大塚、鈴木が抜けていったあと、ワイヤーマウンテンで「イゴる」山本、高橋、水上、佐々木、メイドちゃん。ここから、山本、高橋は比較的早期にクリアし、前の2台を追っていった。