インプレッション記事が非常に好評な新型YZシリーズ。メディア試乗会では非常にディープな話を頂戴したので、かみ砕いて解説しよう

画像: 2023MY YAMAHA YZ450F/YZ125X/YZ250X 辻健二郎インプレッション youtu.be

2023MY YAMAHA YZ450F/YZ125X/YZ250X 辻健二郎インプレッション

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YZ450Fは後方排気発売以来、史上最大のモデルチェンジ

49年の長さを誇るYZシリーズの歴史の中で、これまで多くの革新的なモデルチェンジがおこなわれてきた。ダブルサスからシングルサスへ、2ストから4ストへ、鉄からアルミフレームへ。昨今で言えば後方排気エンジンへ刷新された2009年が最大の仕様変更だったと言える。2023年モデルでは新たな機構を取り入れることはなかったものの、史上最大規模と呼べるほどの全面刷新がおこなわれている。

YZ450Fプロジェクトリーダーの石埜敦史氏は技術説明会の中、いたずらっぽい笑顔でこう語る。「今回は変わってないところのほうが少ないので、“逆”フィーチャーマップを作ってみました」。映されたパワーポイントの資料には「ハンドル、グリップ、クラウンハンドル/アンダーブラケット、FRブレーキ/ホイール、排気バルブ、ピストンピン/リング、スロットルボディ、リンク」とだけ書かれている。そう、つまり新モデルの車体全体で新しくなってないのは上記のパーツだけなのだ。なお、グリップは30年間変わっていないらしい。いろいろとお茶目だが、その開発姿勢は抜群に前のめりだ。

+500rpmのために10年以上続いたクランクケースを刷新

画像1: +500rpmのために10年以上続いたクランクケースを刷新

磨き上げられたように見えるこの新型エンジン、あまりメカに興味がない人が見たら「クラッチカバーのデザインが変わりましたね」とだけ言うのかもしれないが、実際は見えてるものすべてが新しい。まず、クラッチカバーの位置がだいぶ上がっていることに注目したい。これはロードバイクによく見られる手法で、エンジンの前後長を短くするためにクラッチ、クランク、ファイナルの3軸の位置関係を最適化すると、クラッチ軸が押し寄せられて上に位置する。この変更は当然クランクケースから刷新しなくてはならない部分だ。

画像2: +500rpmのために10年以上続いたクランクケースを刷新

クランクケースの表面に着目してみよう。旧型のクランクケースは砂地っぽい仕上がりなのに対して、新型はつるっとした磨かれた表面になっている。これは表面の仕上げの違いによるものではなく、新世代のより剛性が高いアルミ合金を使っていることで生じている違いなのだそうだ。今回のエンジン仕様変更では、500rpmレブリミットを高め、5%ものパワーアップを実現している。そのためにはこの素材変更が必要だったとのこと。

画像3: +500rpmのために10年以上続いたクランクケースを刷新

そのパワーを受け止めるためのギヤも、大型のものに変更されている。

画像4: +500rpmのために10年以上続いたクランクケースを刷新

クランクも刷新されている。クランクウェブを大径化した上で、肉抜き加工されておりクランクマスの最適化がおこなわれた。

画像5: +500rpmのために10年以上続いたクランクケースを刷新

さらには大端部にメタルで摺動するプレーンベアリングを採用した。これまではローラーベアリングが入っていたが+500rpmに耐えうるために仕様を変更したとのこと。なお、プレーンベアリング自体は新しい機構ではなく特に4気筒のロードモデルなどで利用されるものだ。このプレーンベアリングは玉や棒などの稼働部分をもたないため、採用するにあたり潤滑性能を上げる必要があった。

YZシリーズは2014年型でドライサンプ→ウェットサンプへと仕様変更した経緯があった。この14年のタイミングでは別体のオイルタンクを取り払うことで軽量化する狙いがあったが、この2023年型では再びドライサンプへ仕様変更。これは、プレーンベアリングを採用するための潤滑性能確保のために他ならない。なお、23モデルのオイルタンクはクランクケース内に納められている進化版だ。

画像2: MY23 YZシリーズを地球の裏側まで掘り下げる
画像3: MY23 YZシリーズを地球の裏側まで掘り下げる

エンジンの上部に目を移してみても、開発コンセプトのひとつでもある高回転型化へのこだわりが見られる。新型のカムシャフトホルダーをみていただくと、あきらかにその受けが小さいことがみてとれるが、ここもボールベアリングからメタル軸への仕様変更がおこなわれている。

扱いやすさとパワーの源

まだまだエンジンについての掘り下げが続く。

画像4: MY23 YZシリーズを地球の裏側まで掘り下げる
画像5: MY23 YZシリーズを地球の裏側まで掘り下げる

吸気バルブを37→39mmへ大径化。

画像1: 扱いやすさとパワーの源

吸気ポートをNCスロート加工、旧型のわずかな段付きを削り取ることでよりスムーズな吸気を実現した。

画像2: 扱いやすさとパワーの源

その吸気変更にともなって、エアクリーナボックスは小型に。形状も変更され、前側ダクトから吸気していたシステムを後方の隙間から吸気するシステムに見直されている。エアフィルターも平らなものから立体的になり、吸気面積を増やしつつ、整備性も向上させている。

これらの変更によってエンジン自体は-1100gの軽量化を達成し、エンジンの総幅は8.5mm短縮化。軽くコンパクトで、レブリミットが高く、パワーを5%アップした新世代のエンジンができあがった。画像6: MY23 YZシリーズを地球の裏側まで掘り下げる

新生ヨンゴーが強烈に曲がりやすいワケはフレームにある

インプレ記事中でも触れているYZ450Fの曲がりやすさは、フレームの大胆なレイアウト変更にある。見た目は小変更に見えるシャシーだが、実際には従来とはまるで違う、設計思想が進化したものになった。

画像1: 新生ヨンゴーが強烈に曲がりやすいワケはフレームにある

その設計思想が端的に現れているのがヘッドパイプとメインパイプの接続位置だ。メインパイプを15mm下げることで、エンジンを抱えるフレーム本体のゆりかご、つまりはダブルクレードルのねじれる位置自体を下げたのだという。かつ軽量化によって、ロール方向の慣性は約2%低減。この2つの要因があわさってコーナリング時の寝かし込みやすさ、マシンが起き上がってくる強さを抑えており、非常にスムーズなコーナー特性を持っているのだ。

画像2: 新生ヨンゴーが強烈に曲がりやすいワケはフレームにある

見た目は新旧取り違えそうなほど酷似しているものの、内部リブの再設計、リアアームの剛性見直し、エンジン懸架プレートの新設計(2枚のプレートを使って摩擦を利用する新アイデア)などによってまったく別のバイクに仕上がっている。

画像3: 新生ヨンゴーが強烈に曲がりやすいワケはフレームにある

面白いのは最終的な剛性バランスの仕上げ方だ。写真はメインパイプの裏側なのだが、いくつか孔があけられており、この孔が剛性バランスの仕上げで開けられているとのこと。モトクロスではエンジンハンガーに孔をあけることで剛性チューニングをする手法がメジャーだが、これと同じ発想だと言えるかもしれない。メーカー側で最適な剛性を探るために解析とテストライダーのフィーリングを合わせこんで幾通りもの孔をテストすることで最終仕様に持ち込んだという。モトクロッサーの開発は、ロードバイクよりも解析とテストライダーの感覚をマッチさせることが難しく、繰り返し実走テストをおこなうことが非常に重要だと開発陣は口々に言う。その難しさや信念が、この孔に象徴されているのだ。

YZチームとは

画像: YZチームとは

今年、メディア向け試乗会を開催した国内メーカーはヤマハだけだった。

スポーツランドSUGOで行われた試乗会の技術説明では、YZシリーズの開発メンバーがずらっと並ぶ。開発チーム全員が自分の担当してきたセクションについて話をしたくてうずうずしている。僕らも話しを聞きたくてうずうずしているし、乗ってみたくてうずうずしているから、その場の熱気は端から見たら異常なんだろう。気がつくと声がうわずっていることしばしば。

YZチームの面々は実は知った顔が多い。毎年こうして試乗会が開催され、そのたびに顔を合わせることもあるのだが、全日本モトクロスなどの仕事の場だけでなく、JNCCやJECなどでライダーとして顔を合わせることが多いからだ。2ストロークのYZ-Xを担当した福岡直樹氏もその一人で、鈴木健二のエルズベルグ挑戦には休暇を取ってメカニックとして帯同した。今年は自身がルーフオブアフリカに参戦するのだと息巻いている。YZシリーズ企画&マーケティング担当の小川尊史氏は、大学生の頃からJECにどっぷり浸かったライダーでエンデューロ仲間からもおなじみの顔だ。ここには書き切れないほどに、YZチームは「日本のオフロードファンの仲間」で構成されている。

この23年モデルはすでにディーラーでは受注を締め切ってしまった。なぜなら売れすぎて生産可能台数を上回ってしまったからだ。昨年YZ125を編集部でも購入したのだが、これはバイクがよかったこともあるけれど、オフロード仲間が精魂込めて作りこんだ車両だから、というところに心を動かされたことに他ならない。

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