3年の開発期間を経てついに発売されたゴールドウインのコンペティションパンツ/ジャージ。突き抜けた性能を持つプロダクトをいかに製品化までこぎ着けたのか、その経緯を探る旅に出よう

モトクロスとトライアルの平均姿勢を狙ったらどうだろうか、と

自社ブランドにとどまらず、スピード、ノースフェイスなど多くのスポーツジャンルで活躍する機能性スポーツウエアを展開するアパレルメーカー、ゴールドウイン。”自然との調和”をテーマにスキー、トレイルランニング、トレッキングといったジャンルで商品を提案してきたメーカーだからこそ、自然のフィールドにより密接に関係するオフロード競技をモーターサイクルカテゴリーの核として設定した。

今回、オフロードウエアの開発を先導することになったゴールドウイン企画グループ伊藤氏も、自身がエンデューロレースに取り組んでいるオフロードライダーだった。オフロードバイクスポーツとひとくちに言っても、その内容は多岐に渡る。スピードを競うスプリントレースであるモトクロス、低速でのバイクコントロール技術を競うトライアル、スピードだけでなくレースマネジメントやメカニックに関する技術など総合力を競うエンデューロ……。もちろん、競技に参加していなくても、スポーツとしてオフロードライディングを楽しみ、腕を磨く層もいる。だからこそ競技を限定せず、”コンペティションウエア”というコンセプトで開発をスタートさせた。伊藤氏はまず、オフロードバイクにおけるライディングポジションの多様性に注目し、スタンディングとシッティング、どちらでも性能を発揮できるウエアにしたいと考えた。伊藤氏自身も、エンデューロライダーとしてJEC、JNCC、ハードエンデューロではケゴンベルグにも参戦している経験から、着座、立位、中腰とレース中に様々な姿勢が求められることを、身にしみて理解していたからだ。そこで、トライアルとモトクロスという、この一見両極端なように見える競技のトップライダーからフィードバックを得ることを思いついた。

画像: モトクロスとトライアルの平均姿勢を狙ったらどうだろうか、と

モトクロスのライダーとして開発に起用されたのはbLUcRUレーシングチーム鷹から全日本モトクロス選手権IA2クラスに参戦している中島漱也だ。IA2の若手ライダーの中では特に身体の動きが大きく、データを解析するにも好都合である。トライアルからはヤマハのベテランIASライダーである野崎史高が起用された。彼らライダーの体にGPSを内蔵したモーションキャプチャー用のマーカーを約10個ほど装着してライディング時にどんなフォームをとっているかを記録、富山にあるゴールドウイン社テックラボで分析した。モトクロスは埼玉県のオフロードヴィレッジ、トライアルは茨城県の真壁トライアルランドでログをとったという。

例えば、特定のセクションを通過する際、膝はどのようにどれだけの量で曲がっているのか。角度は、時間は、速さは……様々な観点からログを解析すると、モトクロスは時間あたりの可動回数は多いのに対し、トライアルはウエアが伸びて負担がかかっている時間が長いことがわかった。つまり、動きの量や可動域の広さではトライアルの方が大きいのだそうだ。姿勢別の割合で言うと、トライアルは膝が曲がっているより直立している時間のほうが長く、モトクロスはその逆だった。そのような解析を複合的に解釈した上で「ウエアの使用シーンを再定義したのです」と伊藤氏は言う。

画像: トライアルで最も時間が長い基本姿勢

トライアルで最も時間が長い基本姿勢

画像: モトクロスで最も時間が長い基本姿勢

モトクロスで最も時間が長い基本姿勢

そうしてゴールドウインのテックラボにより試作されたスペシャルウエアは、ふたりが参戦する今年のレースにそれぞれ投入されている。実際、モトクロスレースで着用する中島のパンツの方がより膝が曲がったカットになっていて、ふたりが並んで直立すると見た目にもその差がわかりやすい。

トライアル野崎のフィードバック「涼しさ、そして本当の動きやすさを追求」

トライアルIAS野崎が基本的なコンセプトとしてまずゴールドウイン側に提案したのは、涼しいウエアであることだった。

画像1: トライアル野崎のフィードバック「涼しさ、そして本当の動きやすさを追求」

 

「僕らが戦う全日本トライアル選手権は、寒い時期に開催されることがほとんどないですから。あとトライアルって風を切って走るシーンがあまりないんですね。だから冷却効果がとにかく欲しかったのです。まず、背中が汗でぴたっとなることが多かったので、背中部分は完全メッシュにしてもらいました。表側もメッシュでいいのですが、あまりにセクシーすぎちゃう(笑)のと、泥が飛んできた時に内側に入ってきちゃうと不快なので、メッシュではない素材を選ぶことになりました。ゴールドウインはスポーツウエアの会社ですから、いくつも素材の候補があったんですが、絞り込んで3パターンくらい試してみたんですよ。最初は冷却効果と伸縮性を重視していたんですが、そうすると弱すぎてちょっと木にひっかけただけで穴がすぐに開いてしまったんですね。強度をあげてみると今度は動きづらくなったんで、その中間くらいの素材に落ち着きました。

画像: トライアルは動く範囲が非常に広く、思い切り腰を引くことや、思い切りしゃがんだりすることもある

トライアルは動く範囲が非常に広く、思い切り腰を引くことや、思い切りしゃがんだりすることもある

それと、動きやすさを実現するために、できるかぎり無駄なものを省きつつ伸縮性の高い素材で、とお願いしました。腰のファスナーすら省いたほどです。最近の最上級モトクロスウエアはトライアルにも使えるような柔らかくてタイトな商品があるので、このあたりは参考にしてほしいと話をしました。たとえばパンツの裏地が当初は擦れがちだったので、トレッキングパンツにも採用されている素材を使うことで内側で滑るようにしてもらいました。これがめちゃくちゃ調子が良かったんです。トライアルの場合は座らないので、そこまで強度を求めていなかったのですが、製品版は林道を楽しむようなライダーもユーザーとして想定していたので、うってつけの素材でしたね。

画像2: トライアル野崎のフィードバック「涼しさ、そして本当の動きやすさを追求」

お尻回りなどたるんでほしくない場所は、ぴたっと身体に張りつくようタイトに作ってもらいましたが、ライディング時のフォームをセンサーで調べた時に伸びて張りがでてしまうような箇所は、余裕を持たせたカッティングになっています。だから、直立すると全体がタイトにはなっていないんですよ。ジャージの上部分は、特にわかりやすくたるんでいますよね。どの動きをした時にも、ストレスが一切無い。そういう完璧なサイズで作ってもらっています」

モトクロス中島のフィードバック「背中の張り感が、ストレスにならない」

モトクロスライダーの中島もやはり動きやすさを重視するが、野崎とはまた違った観点でフィードバックしてきた。

画像1: モトクロス中島のフィードバック「背中の張り感が、ストレスにならない」

「とにかく動きやすくて、通気性がいいという基本条件は野崎さんと同じですね。トライアルと違うところで言うと、たとえばジャージに最低限のパッドというか薄いスポンジが付けることで、前走車の跳ね上げた石でダメージを受けにくくしてもらいました。あと、パンツの外側には滑り止めがついていて、マシンのホールド感を上げています。

ライディング時の動きやすさはモトクロス用に特化してもらっています。カット自体は、ログを取った中で最も平均的なフォームに合わせることにしました。ちょっとありきたりではあるんですが、初心者にバイクの上に立ってもらって『こういうフォームで乗ってください』と教える時のフォームになりました。ジャージは他のウエアと違いがわかりやすいかもしれません。この平均的なフォームをとった時に、背中の生地が張るのがわかりますか? その張りのストレスがかからないように、背中部分を大きめに作ってあるんです。だから直立すると、背中部分がちょっと余るんですよ。実は一回だけ、ゴールドウインのウエアを忘れて練習にいってしまったことがあって、友達に違うブランドのウエアを借りたんですが、この背中の部分がかなり気になってしまって乗りづらいなと思ったほどです。一度この自分のスペシャルウエアを着たら、もう手放せないですね。僕はこのウエアの一番のいいところは、この背中部分の余裕だと思っています。

画像: こうした前傾姿勢時に、背中が突っ張ってしまうのが常。採寸の妙で、ストレスのない仕様に仕上がった

こうした前傾姿勢時に、背中が突っ張ってしまうのが常。採寸の妙で、ストレスのない仕様に仕上がった

パンツは余分なパーツがついていないのが特徴的です。普通のモトクロスパンツってもっとゴワゴワしてることが多いですが、このパンツの生地は柔らかくてとても動きやすいですね。感覚的にはまるで何も着ていないような感じで、スパッツを着て走っているかのようなフィーリングですね。あと膝の内側部分が、他のウエアに比べて薄いのに段違いに丈夫です。テスト段階では破けることも多かったのですが、裏地にコーデュラナイロンを貼ってもらったら圧倒的に強くなりました。この部分はニーブレースのプラスチックが裏側で擦れてしまうので、表の強さより裏の強さが必要だったんですね」

画像2: モトクロス中島のフィードバック「背中の張り感が、ストレスにならない」

市販品に落とし込まれたハイファンクション

中島と野崎の二人はレースではスペシャルを着用するが、練習用のウエアとして市販品も提供されており、実際に頻繁に着用している。

野崎「とてもいい仕上がりになったと思っています。画期的なウエアになったなと。ジャージの涼しさは特筆モノですね、最終的には冷感素材は使っていないんですが、むしろ夏場の練習時には速乾性のあるこの生地の方が実際に涼しい。疲労軽減にも繋がります。

画像1: 市販品に落とし込まれたハイファンクション

ちなみに僕らのスペシャルウエアとは違っていて、撥水性があるのもとてもいいと思う。マディコンディションで不快になることも多いじゃないですか。レース中の雨くらいなら弾いてくれるはずです」

中島も「僕はレースでも市販品を使ったりしていますね。スペシャルウエアと遜色ない動きやすさだし、着心地がとにかくいい。競技をやっている僕らのようなライダーだけでなく、いろんなライダーにおすすめしたいです」と太鼓判を押す。

画像: 強力な撥水性を持つパンツ

強力な撥水性を持つパンツ

開発の伊藤氏は言う。「二人がおっしゃる通りで、いろんなライダーにいろんな着方をしてもらいたいと思っています。下だけでも、上だけでも自由にいろんなウエアと組み合わせてみてください。

それと、ゴールドウインの基本理念として、商品をより長く愛用していただき、かつ環境へのダメージを抑えるためにウエアをリサイクル素材で作り、修理も無償で行っています。このウエアを着ることで、着用するライダー一人一人の環境への考え方が少しずつ変わって行くことを願っています。自分たちが自然の中を自由に走り楽しむ事の責任を考えてもらえたら、と。自然の中でバイクを走らせる事は自然に少なからずダメージを与えます。この自然の中で私たちの世代を超えて、次の世代にもこのアクティビティを繋げていく。そのためにどんなことができるか。ふと考えていただければ幸いです」

画像2: 市販品に落とし込まれたハイファンクション

Goldwin
Competition Jersey
¥15,400(税込)
カラー:スカーレット、ナイトネイビー、フロスティブレー、ダークスレート

画像3: 市販品に落とし込まれたハイファンクション

Goldwin
Competition Pants
¥32,450(税込)
カラー:スカーレット、ナイトネイビー、フロスティブレー、ダークスレート

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