川井麻央選手は全日本モトクロス選手権レディースクラスで2020年にチャンピオンになったのを皮切りに、2022・2023・2024年と合計4回チャンピオンを獲得しています。ホンダ CRF150RⅡを駆り、他を寄せ付けない速さでトップを走るその実績から「絶対女王」とも呼ばれるようになりました。特に2024年シーズンは開幕戦で大きなポイントを失いながらも、その後のレースで優勝を重ね、チャンピオンを勝ち取るという強靭なメンタルと実力を証明。2025年シーズンも開幕戦から第4戦まで無敗で、チャンピオン防衛に向けてポイントランキングをリードしています。

そんな川井選手は2025年の前半戦をどう振り返るのか? どんな夏のインターバルを過ごしたのか? 後半戦に向けた思いをインタビューしました。

前半戦を振り返って

Off1.jp編集部 伊澤(以下:編):インターバル中お時間いただきありがとうございます! よろしくお願いします。

川井麻央(以下:川井):よろしくお願いします!

編:まずは前半戦を振り返っていきたいのですが、今シーズン前半の開幕戦から第4戦までで一番印象深いのはどの大会でしょうか? ‎

川井:広島で行われた第4戦中国大会ですかね。東福寺さんが亡くなり、やっぱり精神的に一番つらかったです。

編:レースの1週間ほど前に逝去されたとのことで、かなりショックを受けましたよね……。

川井:東福寺さんが病気をしてからの入院期間が長く、その間にも大会はあったので、東福寺さんがいない全日本を経験していました。それがあってか、今でもショックは大きいですが、なんか変な感じです。

編:会えない期間も東福寺さんとは連絡を取ったりしていましたか? ‎

川井:会いに行ったり電話したりと、結構連絡を取っていました。シーズンが始まる前の事前練習で九州に行ったときや、レース前にも電話したりしていました。 ‎

編:何かアドバイスはあったのでしょうか。

川井:そうですね。バイクや走り方についてというよりは、気持ちの作り方とかメンタル面のアドバイスが多かったです。ライディングよりも、レースに向けての気持ちの持っていき方や考え方について教えてもらっていました。「チャンピオンを取ったらこう考えたらいい」とか「自分のときはこう考えていた」というようなことをたくさん教えてくれて、V9チャンピオンの言葉は重く刺さることが多く、私にとって今でも支えになっています。

今でも聞きたいことはいっぱいありますし後悔はないわけではないですが、しないように入院中も連絡を取ったりしていたので、今やらないといけないことなどを判断してしっかり前に進めています。

画像1: 前半戦を振り返って

編:チーム(T.E.SPORT)としても相当タフだったと思います。‎

川井:みんなそれぞれショックを受けていましたが、レースをしないという選択肢はチームの誰も考えていませんでした。東福寺さんが「レースはやってほしい、ちゃんとやってほしい」と言っていたからです。 ‎

編:とはいえ、精神的にかなりきつい状況だったと思います。‎

川井:そうですね、第4戦当日は走っているときこそ集中できましたが、メンタルは結構揺らぎました。それこそアップ中に突然涙が出てきて止まらなくなったり、不安というわけではないのに涙が出てきて、自分でも驚きました。レースが始まれば涙は止まって、気持ちを切り替えて走りに集中できましたが、終わった後は思わず感極まりました。

編:その状況下で見事優勝を飾り、東福寺さんのウエアを着て表彰台に登った時の表情からは喜びと安心感など様々な感情が読み取れて、すごく印象に残っています。

開幕戦から第3戦を振り返るとどうでしょう?‎

川井:そうですね、第2・3戦は自分の得意なコースでしたし、余裕のあるレース展開だったと思います。特にオフロードヴィレッジは地元で、他の会場よりも多くの知り合いが見に来てくれるので「勝たないといけない」というプレッシャーもありますが、勝ったときの喜びはそれ以上に大きいです。今年のレースは完璧でしたね。スタートからホールショットを決めて、最初から単独走行に持ち込むことができて、後方のライダーの位置を確認する余裕もありました。

一方で開幕戦はめちゃくちゃ緊張しましたね。自分もシーズンオフに練習をしてきましたが、周りも同じように練習してくるので、みんながどのくらい力をつけてきているのか測り知れないんです。そういう不安や緊張はありました。 ‎

画像2: 前半戦を振り返って

編:不安や悲しみなどがある中でも冷静に、余裕を持って勝てているのはさすがです。後半戦ももちろん連勝を狙っていますか?

川井:レースは全部勝ちたいと思いますが、正直言うと、勝てると思っているレースはそんなに無いんです。今シーズンもたまたま上手くいって、優勝できていると思っています。 ‎

編:なるほど……、それは意外です。具体的にどういうことでしょうか? ‎

川井:事前練習で他のライダーとのタイムを比較して、自分の方がスピードがあると感じることもあります。ただ、レースでは何が起こるかわからないんです。もちろん競り合えば勝てるという自信はありますが、単独で走れる可能性もあれば、スタートで失敗して追い上げきれないという可能性も十分にあると思っています。そういう不確定要素があるので、絶対に勝てるとは思えないんです。 ‎

編:「絶対女王」「川井選手は強い」と言われることも多いですが、ご自身ではどのように感じていますか? ‎

川井:何が起こるかわからないというのが正直な気持ちですし、自分は強い! と自信満々には思っていません。実際、余裕だと思って挑んで負けてしまったときの方が辛いので、自分で強いと思わないことで気を引き締めているところはあるかもしれません。 ‎ ‎

編:去年(2024年)を振り返ると、開幕戦ノーポイントから追い上げて、最終戦にまでもつれ込んだチャンピオン争いを制しました。この勝利は、川井選手にとってもかなり自信につながったのではないでしょうか。

川井:1戦目を落とし、ノーポイントでのスタートで、みんながすでにポイントを取っている中でぼんやりポイントを落とすことはできないプレッシャーはありました。でも結果的に勝ててチャンピオンを獲れたので、自分は少しミスしても追い上げられるんだなと、自信になっています。かなりタフなシーズンでしたが、他の人が経験できないような成長の仕方、強くなる経験をしたと思います。あの出来事があったから今の自分があると感じています。 ‎

休養と乗り込みのメリハリをつける、川井選手のインターバル期間

編:前半戦最後の大会、第4戦を終えた6月中旬から夏のインターバルが約3ヶ月ほどありました。どのように過ごしましたか?

川井:全日本が終わってからは毎週のようにイベントがあってかなり忙しかったですね。自分はインターバルやシーズンオフにはしっかりと休みたいので、今回のインターバル期間の前半はイベントと、休養に時間を充てていました。

編:これまで取材をしてきた中で、川井選手は長く休める期間には旅行に行くなど、モトクロスと離れてしっかりとプライベートの時間を確保している印象があります。このインターバル期間にはどこか行かれましたか? ‎

川井:沖縄に行きました。めちゃくちゃ楽しかったです。家族旅行として結構前からプランを立てていて、シーズン前から決まっていた予定だったので、シーズン前半はこの旅行を楽しみに頑張れました。

編:リフレッシュできましたか? ‎

川井:すごくリフレッシュできました。景色も海も超綺麗で、今年中にもう一回くらい行きたいと考えています。

第5戦に向けて

画像: 第5戦に向けて

編:インターバル期間の前半はイベントと休養、ということですが、後半はかなり乗り込んできたのでしょうか?

川井:お盆休みを利用して、かなり練習してきました。週に4回くらい走った時もありました。自分としては今年が一番名阪を乗り込んでいる気がします。

編:第5戦がいよいよ始まりますが、会場となる名阪スポーツランドは得意ですか? ‎

川井:実をいうとこれまで名阪で勝ったことがないんです。過去のレースを振り返るとラストラップで抜かれたり、バイクの調子が悪かったりと、相性が良くないんです。なので今年こそは勝ちたいという思いもあって、これまで以上に乗り込みをしています。

編:川井選手から見る、名阪のコースの特徴は何ですか? ‎

川井:名阪は他のコースと違って、コーナーの立ち上がりが登りになっているセクションが多いです。そこで失速しやすいので、練習ではその失速をリカバリーできるようなテストを重ねました。乗り込みの成果もあって、ある程度まとまってきています。 ‎

編:後半戦最初のレースということで、かなり意味のあるレースだと思います。‎

川井:シーズン的に言えば、ポイントランキングをリードしている立場ですし、名阪で無理して勝たなくてもチャンピオンに近づくことはできると思っています。シーズンを見越した勝利というのはもちろんですが、それよりも、一度も勝ったことのない名阪で勝ちたい、という気持ちがあります。 ‎

編:名阪での練習は誰かと一緒にしているのですか? ‎

川井:チームで行くときは、チーム員(ジュニアやIB・IAライダー)がいるので、一緒に練習しています。チーム員がいない時は、あらかじめ誰か一緒に練習できる人を見つけて行くようにしています。 ‎一人だとわからないことが多いので、誰かがいる方が練習になります。

編:他のレディースライダーとの交流はありますか? ‎

川井:よく話しますよ。地元が近いライダーも地方の選手も、コースで見かけたら話すようにしています。‎

編:第5戦から川上真花選手が復帰してくる予定です。昨年の活躍からトップ争いが期待されているライダーですが、川井選手はどう見ていますか?

川井:川上選手は練習で同じコースを一緒に乗ることもありますが遅いなとは思わないです。怪我明けで全日本に参戦すると決めた以上、どの選手にも"怪我してたから"、"怪我してるから"というハンデはないと思います。彼女のような選手がいると、私も油断できないのでありがたいです。

編:他の選手の存在はやはりモチベーションになるんですね。 ‎

川井:もし自分が転倒したり、マシントラブルがあったりしたら、誰が勝ってもおかしくないですし、そういう相手がいるからこそ私も気持ちが入ります。 ‎

編:最後に、後半戦に向けて意気込みをお願いします。 ‎

川井:シリーズチャンピオンを目指して、まずは名阪スポーツランドでの優勝を手にしたいです。第6戦以降は自分の好きなコースなので、第5戦で勢いをつけられるよう頑張ります。

前半戦を終え、第5戦に向けて入念に準備を重ねてきた川井選手。名阪スポーツランドでの初優勝はなるか。このインターバルでさらに成長したその走りに注目です。

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