トライアルIAスーパークラスライダー藤原慎也のダカール・ラリー挑戦。メカニックのサポートを受けられない2日間の「マラソンステージ」を終え、ハイルのビバークで通信が回復した。そこで語られたのは、不可解な計器トラブルによる砂漠の逆走、タブレットの故障、ドクターヘリが降り立つほどの大クラッシュ、そして「全治6週間」の診断を即座に拒絶した記録だった

存在しないポイントを探したステージ4

ビバークの電波が悪かったため速報コメントが得られず、コメント無しでレポートを書いたステージ4からまずは振り返る。マラソンステージ初日となるステージ4(アル・ウラ〜マラソン・ビバーク/SS 417km)。藤原を疲弊させたのは、難解なルートではなく計器の不可解な挙動だった。

「朝のリエゾン(移動区間)にある給油ポイントで、WP(ウェイポイント)6が通過扱いにならなかったんです。みんなと同じルートを通っているのにおかしいな、と思いながらSS(競技区間)に入りました」

その不安は的中する。SS走行中、今度はWP9が未通過と表示されたのだ。ウェイポイント不通過は重いタイムペナルティに直結する。藤原はコースを数キロ戻り、ポイントを探し回った。
「どうしても反応しない。結局、諦めて再スタートしました。その後は、いい感じのペースで走れましたね」この序盤のトラブルで、ステージ順位は99番手から追い上げる展開になる。

その後、200km地点の給油ポイントで確認すると、なぜかWP9は「通過済み」になっていた。システムのエラーだったのだ。
「あの逆走は何だったのか。体力と時間を浪費し、数十台に抜かれました。納得がいかず主催者に抗議しましたが、失ったタイムは戻りません。後半は、ステージ2で打ちつけた目の負傷が響いて、複視になってしまった。これでペースががっつり落ちてしまいました」

画像: 存在しないポイントを探したステージ4

結果的にステージ49位まで追い上げることができ、初めてのマラソンビバークへ。「バイクはエアフィルター交換してボルトの増し締めしただけ。18時30分には眠りにおちました。疲れてたんでしょうね。タフでした。途中22時くらいにトイレに起きたら、星空が凄くて。岩盤に寝そべってしばらく砂漠の星空を眺めてました」

ステージ19位の驚異的ペース、そして鎖骨骨折

翌日のステージ5(マラソン・ビバーク〜ハイル/SS 371km)は、序盤から砂地メインの高速コース。

画像1: ステージ19位の驚異的ペース、そして鎖骨骨折

さらなるトラブルが藤原を襲う。ナビゲーションの命綱であるデジタルロードブック(タブレット)の画面が突如真っ暗になり、ブラックアウトしてしまったのだ。

「50km地点あたりでしょうか。画面が消えてしまい、コースが全くわからなくなりました。仕方なく、前を走っていたHRCのサポートライダー、マルティン・ベンチュラを頼りに走ることしにしました」

そこで藤原は、トップライダーの凄まじい技術を目の当たりにする。ベンチュラはコマ図をうまく読むことで最短距離を直進してどんどんコーナーをショートカットしていった。高度なナビゲーション技術である。
「あれがプロの走り、スーパーナビゲーションなんだと思い知らされました。必死についていこうとしましたが、今の僕にはあのスピードと判断力で走ることはできず、100kmくらいついていったところで突き放されてしまいました」

画像: 「おまえ、いまナビしてないだろ?(笑)」とベンチュラに言われたらしいです

「おまえ、いまナビしてないだろ?(笑)」とベンチュラに言われたらしいです

ベンチュラのおかげで中盤にはステージ19位までジャンプアップ。突如速くなった藤原に対して、他のライダーが「お前今日速すぎるよ、クレイジーだぞ? 大丈夫か?」と声をかけるほどだったという。

あまりにこれまでと違ったペース、何が起きてもおかしくない状況の中で「隠れた壁にリアタイヤを弾かれ、高さ2mほど空中に放り出されました。地面について起き上がった時に肩に違和感があったんですが、折れているとは思えなかった。筋を少し痛めたかも、と思いました」。不幸中の幸いと言うべきか、スピードはそれほど出ておらず30km/hくらいだった。

画像2: ステージ19位の驚異的ペース、そして鎖骨骨折

とはいえ投げ出され、地面に激突した衝撃で呼吸ができず、その場にうずくまる藤原。クラッチレバーは根元から折れていた。藤原は工具を取り出し、砂漠の真ん中で修理を開始する。持っていた予備のクラッチレバーに交換。手際よく作業を済ませたが、ここで約10分をロスした。

その後、上空からドクターヘリが降下して着陸。軽く藤原の様子を診たそうだが、問題なさそうだとの判断であった。

下された診断と、新たな決意

ゴール後のビバーク。メディカルセンターへ向かい、CTスキャンを撮ったドクターは無情な診断を下した。
「『右の鎖骨が折れてるね。全治6週間。レースは勧めない(I don't recommend)』とはっきり言われました」

画像: 素人目に、ぽっきり折れてるようにしか見えない…

素人目に、ぽっきり折れてるようにしか見えない…

しかし、藤原の返答に迷いはなかった。
「I continue(続けます)」
即答した藤原に対し、ドクターは呆れたように笑い、患部をテーピングでガチガチに固定して送り出した。

満身創痍の中、藤原は一つの決断を下した。
「明日からは、もう順位を追うのはやめる。完走することだけに集中しよう」

現在の総合順位は42位。しかし、今の身体でもう一度転倒すれば、確実にリタイアとなる。
「もう一回、肩から落ちたら終わりです。ドクターにも次は止められるでしょう。だから、絶対に転ばないペースで、ただゴールすることだけを目指します」

画像: 計器回りは交換してもらったそう

計器回りは交換してもらったそう

画像: 下された診断と、新たな決意

レーサーとしての「速さへの欲」を捨て、ダカールを走り切るという「目的」のために。藤原は生き残るための走りを選択した。

トップ争いはKTMとホンダの激しいシーソーゲームが続く。ステージ5はルシアーノ・ベナビデス(KTM)が制し、総合首位はダニエル・サンダース(KTM)が奪還。2位リッキー・ブラベック(ホンダ)とはわずか2分02秒差の接戦となっている。

■ダカール・ラリー2026 リザルト(ステージ5終了時点)

Overall Ranking(総合順位)

1.D. SANDERS (KTM)
2.R. BRABEC (HONDA) +2:02
3.L. BENAVIDES (KTM) +5:55
...
42. S. FUJIWARA (HONDA)

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