3回にわたる連載も今回が最終回。2025年夏に行われた髙木碧選手と父・髙木氏、テクニクスの小倉氏、そして熱田孝高氏によるキックオフミーティングを皮切りに始動した「碧プロジェクト」。オフロードピット那須でテストを重ねた後、2025年8月15〜17日にスウェーデン・ウッデバラで開催された「2025 YZ BLU CRU FIM Europe Cup SuperFinale(ブルークルーカップ スーパーフィナーレ)」にも参戦している。第3回はそのブルークルーカップの結果、そしてD.I.D全日本モトクロス選手権最終戦での優勝を通して見つかった「碧プロジェクト」の答えに迫る。
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◾️第1弾
◾️第2弾
Technix×高木碧 世界で戦えるサスセット作り vol.2 ウッデバラを想定した広大なコースでテスト
youtu.beスウェーデンの悔しさから、SUGO優勝へ
2025年8月15〜17日、「碧プロジェクト」が目指した「2025 YZ BLU CRU FIM Europe Cup SuperFinale(ブルークルーカップ スーパーフィナーレ)」がついに幕を開けた。髙木は2024年に続いて2度目の出場となるが、前年はほぼストックのままのマシンで出場していたため、サスペンションをはじめ万全の状態に仕上げたマシンでの出場は今回が初めて。髙木にとっては大きな自信となった。
全38台が出走したYZ125クラスで、髙木は予選を13位で通過。トップライダーとのタイム差は7.121秒と僅差で、決勝レースに期待がかかった。しかしレースの世界はそう甘くなかった。髙木はスタート直後に他ライダーとの接触があり転倒、この時にスロットルホルダーが壊れ、そのままリタイア。満を持して持ち込んだTechnicsサスペンションの性能を発揮する間もなくレースが終わってしまった。

写真左:熱田孝高氏、中央:髙木碧選手、右:テクニクスの小倉氏
それでも「碧プロジェクト」で得た収穫は大きく、その後に繋がったとテクニクス小倉氏は言う。
「スウェーデンに向けては4つの仕様を用意していきました。レースとしてはスタート後にリタイアとなってしまい、サスの良し悪しを語れるような状況ではなかったですが、現地の路面状況が予想と違っていて、それに対するセッティングのズレが発覚したことは収穫でした。
また、碧選手はD.I.D全日本モトクロス選手権IB OPENクラスに参戦していたため、ブルークルーカップ以降も全日本に向けてサスペンションのセッティングを詰めていきました。名阪スポーツランド(第5戦)、オフロードヴィレッジ(第6戦)、スポーツランドSUGO(最終戦)と、最終的に9つの仕様を試しました。その中でフロントは8番目の仕様が一番良かったということで、それをスポーツランドSUGOで行われた最終戦で使ってもらいました。結果、最終戦ヒート1で2位、ヒート2で優勝を獲得し、総合優勝で終えました。プロジェクト的には完璧と言っていい締めくくりでしたね」
なお、碧仕様のベースになったのは2026年型YZ125のスタンダードサスペンション。スプリングレートは純正をそのまま使い、「ジャンプ着地での踏ん張り」と「連続ギャップでの突き上げ感」をどう両立させるかに絞ってダンパーの中身を詰めていった。しかし、開発初期は狙いが行き過ぎてしまったという。

Spec No.「AOI 08F」。8仕様目

「最初はサスペンションがとにかく“つながりよく動く”ようになることを意識しすぎて、全体的に硬くしてしまっていたんです。IB OPENクラスで勝つにはそのくらいのしっかり感が必要だろうという思い込みもありました。ただ、名阪で実際に乗ってもらうと、硬すぎる点やバランスの悪さについてのフィードバックを多くもらいました。
そこで、いったん自分の中の前提をリセットして、中間域の減衰を整理し直しました。奥をただ硬くするのではなく、『中間でしっかり支えつつ、奥はちゃんと使い切る』方向に切り替えたんです」
こうして煮詰められ、最終形として選ばれたのが「8仕様目」だった。髙木は2st125を駆り、4st250ccや450ccマシンとの排気量の差をものともしない速さでトップチェッカーを受け、碧仕様サスペンションのポテンシャルを証明してみせた。
“勝てる”だけじゃない。誰が乗っても怖くないセットを目指して

「このプロジェクトの始まりは、『碧選手がBRU CLU Cupで勝てるサスペンションを作る』というところからでした。我々としても世界で戦えるYZ125のサスを作りたいというのが一番にあって、BRU CLU Cupに向けて仕様を変えながらセッティングを積み上げていきました。ただ、それだけではなくて、“勝てるサス”であることに加えて、一般のお客さまにも碧仕様のサスペンションの乗り味を味わってもらうことを目標に置いていました」
小倉氏は、開発の狙いをこうまとめる。
「スタンダードのYZ125のサスは、正直どこをどう調整するか悩むくらいよくできているんです。だからスプリングもあえて純正を使いました。そのうえで、『ジャンプ着地の踏ん張り』と『連続ギャップでリアが勝手に伸び上がって前転しそうになる感じ』をどう消すか、というところに集中しました。
大事にしたのは、“ただ硬い”とか“ただしなやか”ではないことです。勝てるレースを支えられるサスでありつつ、1日中乗っても手の皮がむけない、怖い思いをしない、というところまで含めてセットしたかった。モトクロスは基本的に趣味で楽しむ人が多いスポーツですから、『1日楽しく走れた』『いい練習ができた』という感覚は、トップライダーでも一般ライダーでも同じだと思うんです」

碧仕様マシンに乗る熱田氏
その思想は、実際にテストを担当した熱田孝高氏のコメントからも伝わってくる。
「ベース仕様からアジャスターを上下に振ってテストを繰り返しました。前後とも5クリックくらい、かなり極端に振ってみました。緩めたときはトラクションが良くなって、ちょっとサスが柔らかく感じるところもあるけど、そういう乗り味が好きな人には合わせやすい。逆に締めたときは、“今日はタイムを出しにいくぞ”という感じで、動きがすごくシャープになります。もちろんその分疲れやすくはなりますけど、動きがすごくリニアに返ってきて、思った通りに走らせやすいです。
テストを重ねて、最終的には髙木選手が最終戦で勝ったときの仕様が一番バランスがいいなと感じました。サンドなら締める、ハードパックなら少し抜く、といった調整もアジャスターで素直に効きます。彼と僕は体重差が20kg以上あるんですよ。それでも弱く感じないし普通に走れてしまう。小倉さんが掲げていたプロジェクトの目的の通り、懐が広いパーフェクトなサスに仕上がったと言っていいと思います」
髙木碧「サスがわかるようになった」、勝てる仕様と感覚を育てたプロジェクト

髙木選手
では、当の本人である髙木選手は、このサスペンションの変化をどう感じていたのか。
「ブルークルーカップでは結果が残せず、言葉にならない悔しさでした。その後、全日本モトクロス選手権の後半戦(第5戦以降)に向けてサスペンションを作り始めました。
これまで、サスペンションは作ってもらったものを父と一緒に現地の状況に合わせていく、というやり方だったので、ベースとなる1つの仕様をいろんなコースに当てはめて走る形でした。なので、あるコースでバッチリ合っても、別のコースに行くと合わなかったりして、“どのコースに寄せて作るか”という点でいつも悩んでいました。また、このプロジェクトに取り組むまで、自分自身もサスペンションの硬さやバランスなどわからない部分も多かったです」

何種類ものサスペンションを付け替えてテストしていく。これまでとは異なる「碧プロジェクト」の工程を経て、サスペンションに対する見え方が変わったと、続ける。
「サスペンションがわかるようになったと感じたのは、ジャンプの着地よりもコーナーですね。コーナリング時にバイクが寝やすいかどうか、起こしやすいかどうかが一番わかりやすくて、そこから『あ、今のはちょっと硬いな』とか、『もう少しフロントが入ってほしいな』とか、具体的な感覚で話せるようになってきました。
シーズンの終盤には仕様の方向性が固まって、最終戦のスポーツランドSUGOに合わせた仕様で練習を重ねました。モトクロスヴィレッジに行って朝イチ乗ると『うわ、めっちゃ硬い。すごい滑るな』とすぐわかるようになって、アジャスターで調整しながらこれくらいならグリップするなという、自分のリズムで走れるポイントが見えてくるようになりました。
全日本では排気量の大きいマシンとの混走なのですが、作り上げたサスペンションで、最終戦総合優勝を獲得することができて、スタートで前に出ることができれば125ccでも450ccに勝てるという手応えを強く感じました」
ライダーがプロジェクトを通してサスペンションを理解していく一方、小倉氏はサスペンションに対する考え方をアップデートしていく。最終戦のヒート優勝は、その共同作業に対するひとつの答えと言えるだろう。
ノービス目線で見る「碧仕様」
──Off1編集長稲垣のインプレッション
最後に、この連載の“おまけ”として、ノービスライダーの編集部稲垣が実際に碧仕様YZ125に乗って感じたことを、そのままに近いかたちで紹介しておきます。テクニクスとプロライダーの言葉に比べれば、あくまでサブの立ち位置ですが、読者のみなさんに近い視点として参考になるはずです。

編集部稲垣
「まず、スタンダードの2026年型YZ125に乗ってみて、『ノーマルでほぼ問題がない、よくできたサスだな』というのが前提にあります。旧型のYZ125は、ノービスの僕からすると“とにかく難しいバイク”でした。アルミフレームの剛性が高くて、車体が軽すぎるため、路面から浮いてしまうイメージが強かったんです。
自分が普段乗っているYZ250FXは、サスも柔らかくて、何もしなくても地面にベタっと張り付いているような接地感があります。一方でYZ125は、“まず車体を地面に押し付けること”がすごく難しい。ブレーキとアクセルで押し付けたいのに、その時間が短くて、コーナーの途中で浮いたり沈んだりしてしまう。浮いているときにパワーバンドに入ってしまうと、一気にギクシャクして、リアが振り回されてしまう。
ところが2026年モデルのYZ125は、その“シビアさ”がかなり減っています。パワーバンドに入っていなくてもボコつかずに走ってくれて、ギリギリでもついてきてくれる範囲が広い。エンジンが扱いやすいおかげで、サスペンションの性能を前より3%(編集部注:個人の感想です)くらいは多く引き出せているんじゃないか、という感触があります」
そのうえで、碧仕様のサスペンションに乗り換えると、まず“押した時の感触”から印象が変わったと言います。
「止まっている時にハンドルを手で押したときのフロントの感触は、『減衰がガッチリ効いているな』という印象でした。最近のモディファイサスに多い、“手で押すと意外と動かないけど、走るとしなやかに動く”タイプで、『ああ、これよくあるパターンだな』と。標準の減衰位置(前後13クリック)でモトクロスヴィレッジを走ってみると、ストック車よりも前後のピッチングモーションが明らかに少なくて、姿勢を作るのがすごく楽になります。僕にとって分かりやすかったのは、S字後半の左コーナーのわだちで、いつもなら車体が浮いたり沈んだりしてラインを外しそうになるところで、“わだちをトレースすることだけに集中できる”ようになりました」

そこから5クリック締めた仕様と、5クリック緩めた仕様も試乗。
「5クリック締めたときは、“硬くしたのに手や腰にはあまりネガが出ない”というのが驚きでした。車体姿勢の変化量だけがグッと減って、“サスが暴れないことで、タイミングが圧倒的に取りやすくなる”という感じです。ノービスの自分はクラッチもアクセルも雑なんですが、それでもサス側が余計に動かない分、結果的にリズムが合わせやすくなる。モトクロスヴィレッジで走る限りは、このくらい硬めでも全然アリだなと思いました。
逆に5クリック緩めると、車体姿勢の変化が大きくなって、第1コーナーの大きなバンクなんかでは“しっかり沈めて曲げる”感覚がつかみやすくなります。とはいえ、僕のスピード域ではギャップで困るようなことはなくて、フープスの深いところに入ったときだけちょっと失速するかな、という程度。ここはセッティングというより乗り方で解決できる部分なんだろうな、という印象でした」

最後に、碧仕様サスの“肝”だと感じた点を、稲垣はこうまとめます。
「一番大きかったのは、“セッティングの幅が広いのに、ギャップのいなし方が極端に悪化しない”ことです。どういうことかというと、これまでは“5クリック動かす”というと、手への当たりや腰への突き上げと直結して、『楽か・しんどいか』でしか評価できないことが多かった。でも碧仕様では、クリックで主に変わるのは『車体姿勢の作りやすさ』で、ギャップへの対応力はベースの段階でかなり担保されている。
結果として、“サスのセッティング=ギャップ対策”ではなく、“サスのセッティング=車体姿勢をどう作るか”にフォーカスできるようになるんです。ノービス目線で言うと、『ギャップはサスのベース性能に任せてしまって、クリック調整はコーナリングと姿勢づくりのために使う』。そういうふうにサスペンションとの付き合い方を整理してくれるのが、この碧仕様YZ125の一番の“乗りやすさ”だと感じました」














