アルパインスターのエントリー層向けブーツ、テック3&5をあらためて吟味。ミドルシリーズテック7やハイエンドのテック10に迫る実力を秘めていることに驚いた

プロテクト性能と動きやすさを天秤にかけなくてもいい時代になりつつある

オフロードバイクのブーツを選ぶときに大事なのは、自分の求めている用途に合うかどうかだ。高いものが性能がいい、と一概に言えないところがミソ。というのも、オフロードブーツはプロテクト性能、動きやすさという2つの相反する性能のどちらかを求めることになるからだ。概して高級なブーツはプロテクション性能が高く、リーズナブルなブーツはプロテクション性能に劣る分動きやすい。

上級者が全員ハイエンドブーツを選ぶかというとあながちそうでもないのが面白いところである。以前、「マディの全日本モトクロスではトライアルブーツを履く」という“ファクトリー”ライダーに出会ったことがある。操作性を重視するのだという。かえってそのほうがミスが少なくなり、怪我もしづらいという思想だ。安全性の考え方には、プロテクション性能を上げることで保護するパッシブセーフティという考え方と、動きやすさを重視して事故自体の可能性を下げるアクティブセーフティという考え方があるが、このライダーの場合は後者にあたる。

ところが近年ではこの相反構造が崩れつつある。ハイエンドブーツであるアルパインスターテック10は、インナーブーティの足首可動部にヒンジをいれることでブレース的な動きで足首がおかしな方向へ曲がって関節を痛めることを防止し、できる限りの動きやすさとプロテクションを両立させている。相反する二つの性能は、テクノロジーによって解決しつつあるのだ。

この2023年、じゃあエントリーライダーはどうすべきか、というと非常に悩ましい。お金があるならテック10を買え、と言えば済むのだろうか。エントリーモデルのテック3や、テック5はどうなんだろう?

ヒンジとバックルの数が、テック3/5の大きな違い

画像1: ヒンジとバックルの数が、テック3/5の大きな違い

ネオンカラーを効果的に配した、今回のテスト品。右がテック3、左がテック5だ。エントリーモデルであるテック3はオーソドックスな造りをしており、テック5・7・10は足首にヒンジを採用して縦方向の動きやすさを向上させている。テック3は構造上足首が動きづらいという反面、ベルトを4本から3本にすることで可動域を広げる狙いがあるのだろう。

alpinestars
テック3
カラー : ホワイト/ブライトレッド/ダークブルー
サイズ : 7 (25.5cm)・8 (26.5cm)・9 (27.5cm)・10 (29.0cm)
¥41,580(税込み)

テック5
カラー : ブルー/ホワイト
サイズ : 7(25.5cm)・8(26.5cm)・9(27.5cm)・10(29.0cm)
¥51,480(税込み)

※参考までにテック7 ¥65,780(税込み)、テック10 ¥101,640(税込み)

画像2: ヒンジとバックルの数が、テック3/5の大きな違い

アルパインスター独自の交互に締めるタイプのバックルは健在。素材はテック5がアルミ製バックル、テック3は樹脂製バックルだ。樹脂のバックルは剛性が足りず締めこみづらいことが多いのだが、さすがアルパインスターというべきか、これならアルミである必要がないのではないかと思うほどカッチリ止まる。ベルトの本数は主に足首部分で違いが出ている。2本でまんべんなく足首を締める形で設計されているのがテック5。テック3は足首全体を1本でカバーする。

画像3: ヒンジとバックルの数が、テック3/5の大きな違い

くるぶしに設けられたヒンジシステムは、テック5のみに搭載。この価格帯にしては、豪華な装備。ふくらはぎのパッドは硬めの樹脂でマシンにあまりグリップしないタイプ。この辺りは好みが分かれるところだが、積極的にバイクを足で操作するようなライダーであれば、もう少しグリップ感が欲しいところだろう。

画像4: ヒンジとバックルの数が、テック3/5の大きな違い

背面はほとんど変わらない構造。テック7・10に比べるとだいぶ樹脂が少なく、柔軟な合成皮革で動きやすさを重視しているようだ。

画像5: ヒンジとバックルの数が、テック3/5の大きな違い

ソールは共通。しっかりステップにグリップしてくれて操作性高し。

エントリーモデルのテック3でも質の良さは健在。イタリアのブーツは間違いが無い

例によってビギナー代表のジャンキー稲垣がインプレッションをする。ビギナーというけど、レベルが低いだけで「はじめたばかり」ではなく、20年選手だ。運動神経が悪いから全然上達せず、つい先日もモトクロスをはじめたばかりの後輩にさくっとタイムで抜かれてしまった始末。毎週埼玉県のモトクロスビレッジに通っていて、遠慮がちに中級クラスでフリー走行を楽しむしがない42歳です。

画像: エントリーモデルのテック3でも質の良さは健在。イタリアのブーツは間違いが無い

まずは、最もフレンドリーな価格帯のテック3から。低価格なブーツというのは、難があることも多い。ブーツ自体の厚みが邪魔して操作性が悪いものだったり、足首部分にしわがよってしまうことで靴擦れをおこしてしまうものもある。そもそも足首部分にヒンジがないエントリーモデルは、皮革がよれてしわになってしまうことは避けられないのだろう。しかし、テック3はこういった問題が皆無であることにまず驚いた。とても単純な話で、靴としてとてもよくできているのだ。原稿を書く前にイタリアの革靴職人について調べたりもしてみたのだけれど、彼らイタリア人の職人気質は産業革命にまで歴史を遡るもので、大量生産に向かない中世の都市国家体制に起因するという。そんなことがテック3にあてはまるかどうかは定かではないけど、イタリア人はディナーの皿があたたまっていないだけで帰るのだというから、足首が痛くなるようなブーツは工場長から投げ返されてしまうのだ。きっと。

テック7を個人的に長い間履いていたのだけれど、テック3はテック7にだいぶ似ている。ブーツ自体の形状がスリムで、マシンになじみやすい。シフトペダルを掻き上げる時には、つまさきが入りやすく、オフロードブーツになれないエントリーユーザーにはうってつけだろう。足首もテック7と同等に曲がってくれるため、とても操作がしやすい。全体的によく動き、軽いブーツだと感じる。ブーツの内側があまりグリップしないところも、エントリーユーザー向けに感じた。足の自由度が高いから、ステップなどに引っかかってミスして怪我するということも、そういう恐怖感を感じることも少ないはず。

プロテクション性能も他のハイエンドモデルと比べたら低い、というだけで正直なところエントリーユーザーだけにとどまらず、普段テック10を履いているが林道で少し軽くて履きやすいブーツを探している、くらいのライダーにもおすすめできる。エントリーというより、ライトブーツと表現したいくらいだ。モトクロスでも一枚壁を突破したい、今日は攻める! というモチベーションの高い日には、僕も普段履いているFOXモーションブーツを履きたい。そういう時はアタックポジションをとって土踏まずで乗らずに母指球のあたりで乗りらたい(ところがこれがめっちゃ難しいのだが……)、足首に負担がかかってしまうと思う。そこまでではない日ならテック3で十分だと感じた。もう少しレベルが高く、流す分にもガンガンジャンプを飛ぶようなライダーには、厳しいかもしれないが。

これは……テック7とどこが違うのだ。ベストバイと言うべきテック5のバランス感覚

画像: 「とりあえずテック5買っておけば間違いない」と言い切れる品質。アルパインスター テック3&テック5徹底テスト

次にテック5である。テック3、5、7、10と4つのモデルがあるうちの上から2つめに位置するブーツ。バックルを留めていくと、テック3とは明らかに異なるしっかりとしたホールド感がある。というか、新品であるにも関わらず、編集部で持っている既にこなれたテック7より履き心地がいいことに驚いた。

走ってみると、やはりテック3よりも剛性感がある。ふくらはぎは、バイクにほどよくグリップしてくれて、フープスに少しオーバースピードで突っ込んでしまった時にも、しっかりマシンを押さえ込めるし、操作感も申し分ない。先述したアタックポジションをとってみても、安心感がある。だんだん攻めても大丈夫そうだ、と自信がついてきて、この日一番のタイムアタックができた。そもそもテック7との差をあまり感じ取れないほどよくできているから、もし今日テック7とテック5のどっちかを買わなければいけない、と言われたら好みのカラーがあるほうを選んでしまいそうなほどだ。どうでもいいけど、オールレッドとオールホワイトのあるテック7がカッコイイと個人的には思う。

画像: これは……テック7とどこが違うのだ。ベストバイと言うべきテック5のバランス感覚

テック3ー5の差と、テック5ー7の差を考えると、テック3−5のほうがだいぶ広めにとってあるように感じた。この二つには明確な用途の差がある。Off1的にテックシリーズにキャッチを勝手につけるとすれば……

テック3「レーサーを買ったばかりの初心者から、ベテラン林道ライダーまで。履きやすいライトオフロードブーツ」

テック5「限りなく精度の高いモトクロス用エントリーモデル」

テック7「万人にマッチするミドルモデルのモトクロスブーツ」

テック10「大クラッシュをも想定した卓越したプロテクションを誇るハイエンドモトクロスブーツ」

というところでどうだろう。

前述した相反するプロテクション性能VS動きやすさの話、単に足首が動けば全体的に動きやすいという話でもなくなっているのだという結論で締めたい。初心者には初心者なりの動きやすさがある。現代のブーツは、そこまで勘案されてラインナップされているのだ。

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