トライアンフのSCRAMBLER1200 XEがモデルチェンジを果たし、XCに代わり新たにXが追加された。神奈川県の採石場で開催された試乗会では、SCRAMBLER1200 XEの秘めたるオフロード性能を存分に味わうことができた

世の中に「オフロードバイク」と呼ばれるカテゴリーが存在しなかった歴史は長い。現在のように舗装された道路の割合が多くなかったことも、理由のひとつだろう。では、それ以前にオフロードを走っていたバイクはどんなものだったかと言うと、それこそがスクランブラーなのだ。オンロードバイクをベースに高く幅広のハンドルバー、アップマフラー、足の長いサスペンションなどを装備したバイク、代表的なものでいえばトライアンフのトロフィーTR5などがアメリカを中心に一大ムーブメントを巻き起こしたのだ。

その後、スクランブラーと呼ばれていたバイクはよりオフロードを走りやすくするために独自の進化を果たし、オフロードバイクというジャンルの確立に至った。しかし一方で、スクランブラーが持つクラシカルなスタイルを好む層も一定数いたため、メーカーから「スクランブラースタイル」のオンロードバイクが定期的に発売されたきたことはみなさんご存知の通りだ。これら、スクランブラースタイルのバイクは実際のオフロード走行性能は二の次で、ファッション的な要素に応えるために市場に投入されていたといってもいいだろう。

ところが、トライアンフのSCRAMBLER1200は例外だ。さすがスクランブラーのご先祖様であるTR5を作った本家というべきか、特にXEは過酷なオフロードセクションを走破することができる本気のスクランブラーとして仕上げられている。

XとXEのキャラクターの違い

そんなSCRAMBLER1200が今年モデルチェンジを遂げた。これまでは「XC」と「XE」の2モデルだったラインナップが、このタイミングで「X」と「XE」になり、これまでより明確にキャラクターが分かれている。

「XE」はこれまで通り、がっつりオフロード走行も視野に入れたモデルで、「X」はオンロード向けだ。今回ラインナップ落ちした「XC」がもし存在したとしたら、その立ち位置はXとXEの中間に当たるといえるだろう。

画像: TRIUMPH SCRAMBLER1200 XE ¥2,088,000

TRIUMPH
SCRAMBLER1200 XE
¥2,088,000

画像: フロントに21インチタイヤを装備するSCRAMBLER1200 XEは、スクランブラーモデルとは思えないほどシート高が高く870mm。身長175cmの僕が跨っても、かろうじて両足のつま先が地面に触れる程度だ。

フロントに21インチタイヤを装備するSCRAMBLER1200 XEは、スクランブラーモデルとは思えないほどシート高が高く870mm。身長175cmの僕が跨っても、かろうじて両足のつま先が地面に触れる程度だ。

SCRAMBLER1200 XEのオフロード性能の高さは、フロントフォークのホイールトラベル(サスペンションによって動くホイールの移動量)が250mmとなっていることを見ればわかりやすいだろう。この数値だけではピンとこない人のために他モデルと比較すると、アドベンチャーモデルの中でもオフロード性能の高さに定評のあるKTM 890ADVENTURE Rが240mm、ヤマハ TENERE700が210mmで、ホンダのオフロードバイクであるCRF250Lが260mmだ。こうして比較してみるとスクランブラーモデルで250mmというのが、相当な数値であることがわかる。もちろんサスペンションストロークが長ければオフロード性能が高い、という単純なものではないが、重心や最低地上高の高さに繋がり、一つの目安になることは間違いない。

さらにSCRAMBLER1200 Xに比べてハンドルバーが65mm長く作られており、リバーシブルタイプのハンドルバークランプで遠さと高さを調整することができ、スタンディングなど幅広いライディングポジションに対応可能だ。また、クルーズコントロールを標準装備しており、高速道路を使っての長距離移動の快適さも兼ね備えている。

画像: XとXEのキャラクターの違い
画像: SCRAMBLER1200 Xは、XEと比べると余裕の足つき。シート高はXEよりも50mm低い820mmとなっている。

SCRAMBLER1200 Xは、XEと比べると余裕の足つき。シート高はXEよりも50mm低い820mmとなっている。

対してSCRAMBLER1200 Xはサスペンションのホイールトラベルが170mmとなっており、シート高はXEよりも50mm低い820mm。大型バイクの操作に自信のない初心者や女性ライダーでも扱いやすいサイズ感に仕上がっている。こちらは価格も186万2千円と手頃で、ビッグオフ入門編としては実に狙い目なモデルになっていると言えるだろう。

マイルドかつリニアなスロットルレスポンスが
リアスライドをイージーにしている

画像1: マイルドかつリニアなスロットルレスポンスが リアスライドをイージーにしている

今回、編集部・伊井がSCRAMBLER1200 XEに乗らせてもらった。“オフロード向けって言ってもスクランブラーだし、余裕でしょ”と軽い気持ちで跨ったところ、シートやハンドルなどがあまりにオフロードバイク的なサイズ感で思わず笑いが込み上げてきた。なるほど、これはまさしく僕らの大好きなオフロードバイクだ。

画像2: マイルドかつリニアなスロットルレスポンスが リアスライドをイージーにしている

僕はいわゆるフラットダートが大の苦手で、林道でよくある砂利の緩いコーナーなどでもおっかなびっくりバイクを寝かさないように道なりにトレースすることしかできないのだが、「オフロードプロ」モードにしてスタンディングでのリアスライドに見よう見まねでトライしてみると、初めて乗るバイクにも関わらず、少しだがリアを滑らせる感覚を味わうことができた。

1200ccとは思えないほどスロットルの開け始めがマイルドで、かつスロットル開度と出力の上がり方がしっかり比例しているためマシンの挙動が予測しやすく、リアを滑らせることに対する不安感がほとんどないのだ。それどころか、車体に慣れればもっといけるような気さえしてくる。いつも乗っているエンデューロバイクに比べると倍以上の重量があるはずなのに、イージーに振り回せる。そしてリッター超えのビッグバイクをそんな風に操れていることに対する満足感が実に心地よい。もちろんスライドさせたくない人はトラクション・コントロール有りの「オフロード」モードを選択すれば、しっかりグリップさせて走ることもできるので安心してほしい。

画像3: マイルドかつリニアなスロットルレスポンスが リアスライドをイージーにしている
画像4: マイルドかつリニアなスロットルレスポンスが リアスライドをイージーにしている

試乗会ではエンデューロライダーの石戸谷蓮選手のデモラン&フォトシューティングも行われていた。SCRAMBLER1200 XEは乗る人が乗ればもっと自在にスライドできるし、ジャンプだってこなせるということが目の前で証明された。

しかし新型TIGER900の例を見ても、今回試乗したSCRAMBLER1200にしても、トライアンフというメーカーは、つくづく実直なバイク作りをするメーカーだと感じる。それでいて2500ccのトリプルエンジンを搭載したROCKET3のような良い意味でクレイジーな側面も持ち合わせており、実に面白い。更に公式ホームページにはすでに新しく発売されるSCRAMBLER400 Xの情報も公開されており、こちらも追って試乗インプレッションをお届けする予定となっているので、楽しみにしていてほしい。

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