トライアンフがエンデューロ市場へ本格参入し、TF250EとTF450Eを発表。英国の老舗がオフロードに挑むとあり、注目が集まっている。115万6千円(TF250E)からという戦略的な価格設定も話題だが、オフロードバイクとしての真価はいかに。スペインでの国際試乗会で、その実力と細部に込められた思想を確かめた

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TF250E

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TF450E

エンデューロ専用設計、4スト250ccらしからぬ“フィジー”なフィーリング

画像1: エンデューロ専用設計、4スト250ccらしからぬ“フィジー”なフィーリング

試乗当日は、あいにくの雨上がり。バルセロナ近郊のテストコースは、粘土質の土が水分を含み、滑りやすく気を遣うマディコンディションとなっていた。身体も路面状況に対してややこわばりがちな、マシン評価には少々厳しい状況だ。

そういった手厳しい状況だったからというのもあるかもしれない。最初に跨ったTF250Eは、第一印象からして従来の250cc 4ストロークエンデューロバイクのイメージを鮮やかに裏切ってくれた。「これほどまでに“走る”のか」と正直、驚いた。スロットル全閉から中開度くらいまでのツキがよく、思った以上に前にマシンが進む。バンバンとスロットルを煽ると勢いよくトルクの弾丸が射出されるようで、トライアンフの開発陣はこれを「フィジー(弾ける)なフィーリング」だと形容した。近年の250cc 4ストロークエンデューロバイクは、環境規制への対応などから、やや穏やかで、扱いやすさに重きを置いたキャラクターのマシンが多い。しかし、このTF250Eは、スロットルを開けた瞬間に明確な「前に進もうとする意志」を感じさせる、パンチのあるエンジンフィールが際立っていた。さらに印象的だったのは、過敏すぎない絶妙なバランスだ。マディ路面でスロットルを慎重に開け、そこからさらに少しスロットルを開け足すと、力強いトルクが即座に、リニアに立ち上がってくる。前日のプレスカンファレンスでは、「こんなにフラットなトルク特性ですよ」とパワーグラフを目の前にして説明を受けたのだが、そのなだらかなトルク曲線が脳裏に浮かんだ。ちょっと開けすぎたくらいなら足下を掬われることはない。意図して開けてやれば、自由自在にリアを振ることができる。その滑る・滑らないの閾値がとても掴みやすいのだ。

画像2: エンデューロ専用設計、4スト250ccらしからぬ“フィジー”なフィーリング

このフラットなトルク特性は、低回転域から高回転域まで持続する。そのため、タイトなシングルトレイルが続くセクションでも、一つのギアでカバーできる速度域が非常に広いと感じたのもよかった。特に2速、3速のギアの守備範囲が広く、シフト操作を頻繁に行う必要がない。本来であればシフトダウンが必要かと思われるようなタイトターンや、急な登りでも、TF250Eは粘り強く路面を捉え、ライダーを力強く押し上げてくれるし、長く続くストレートでも息切れすることなく高回転までエンジンを引っ張ることが出来る。このギヤ選択の自由度の高さとコントローラビリティは、小難しいシングルトレイルのライディングにおいて大きなアドバンテージだった。

この卓越したエンジンフィールの背景には、トライアンフの徹底したエンデューロ専用設計がある。開発陣は、モトクロッサーTF250X/TF450RCと並行しながら、ゼロベースでエンデューロマシンを作り上げたと胸を張っていた。エンデューロのライディングやレースに特化してエンジン内のコンポーネントを特定し、再開発したのだと言う。たとえばモトクロッサーと比較して約30%ほど慣性力を増大させたクランクシャフト。クランクウェブの形状も作り直したとのことだが、モトクロッサーらしいフィジーなフィーリングを失わず、しかしコントローラブルさを手に入れているところは、このチューニングのさじ加減に寄るところが大きいだろう。30種類以上ものプロファイルをテストしたという専用カムシャフトと、イタリアのアテナ社と共同開発したECUマッピング、このあたりがいい方向に働いているのでは、と想像した。

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TF250Eで感じたレスポンスの好印象は、TF450Eに乗り換えると逆転した。いや、むしろ250の手軽さに450が近づいたと言うべきか。450ccエンデューロといえば、その有り余るパワーゆえに乗り手を選び、特にテクニカルなセクションではライダーに高いスキルと集中力を要求する、というのが一般的なイメージ。しかし、TF450Eのトルクの出方は決して唐突ではなく、SOHCエンジンならではの一瞬の「タメ」を感じさせつつ、非常にスムーズに立ち上がるものだった。このフィーリングは、どこか往年の名車、ホンダXR400RやXR600Rを彷彿とさせるが、比較にならないほど現代的に洗練され、コントローラブルかつパワフルになっている。特筆すべきはエンスト耐性の良さである。試乗コースには、ステアケース状のロックセクションや、タイトターンが連続するテクニカルな区間も含まれていたが、TF450Eは3速ホールドのまま、アイドリングに近い回転数で走っていても、エンジンがギクシャクすることなく粘る。もちろんスロットルを開ければ、まさに「大きなトルクの波」に乗って猛然と加速する。試乗中、意図的に低いギアで回転を落とし込んでも、不用意なスロットル操作をしてしまっても、エンジンがストールしたのは僅か2~3回程度だったと記憶している。乗っていて非常に楽だ。この自他共に認める初中級の僕が、250ではなくこのまま450で楽をしていたいと思ったほどだった。

TF-Eシリーズのエンジンの素性の良さは、前述したような主要な変更点だけでなく、細部へのこだわりにも支えられている。ピストンは、F1などのレーシングエンジンにも部品を供給するコニック製の軽量鍛造ピストンを採用。これにより往復質量を低減し、軽快な吹け上がりと耐久性を両立している。シリンダーヘッドも、モトクロッサーと基本構造は共有しつつエンデューロの要求に合わせた細かな修正が施されているという。トレールを楽しむようなライダーにとっても配慮しているのだろうか、メンテナンスサイクルも長めだ。モトクロッサーがサービス寿命を40~45時間としているのに対し、TF-Eシリーズは実に90時間という長いサービスライフを実現している。材料仕様の見直しや、エンデューロユースはモトクロスほどレブ域を使わないことなどを考慮した結果だという。これは、一般的なサンデーライダーであれば1年以上、あるいはそれ以上の期間、大きなメンテナンスの心配をすることなくライディングを楽しめることを意味する。コンペティションモデルでありながら、このランニングコストと手間を軽減する配慮は、多くのライダーにとって福音となるはずだ。

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シャシーとの対話が生む、オンザレール感覚と路面追従性

軽量なアルミニウム製スパイン&ツインクレードルフレームは、モトクロッサーと基本構造を共有しつつも、エンデューロに特化した数々の改良が施されている。

画像1: シャシーとの対話が生む、オンザレール感覚と路面追従性

試乗してまず感じたのは、フレームの過度な硬さがなく、むしろ適度なしなやかさが感じられる点だ。これが、荒れた路面でのギャップ吸収性や、コーナリング中の路面追従性の高さに貢献している。エンデューロモデルにおけるシャシーの最大のトピックは、スイングアームがモトクロッサーよりも10mm延長されている点だ。TF450Eでハイスピードのストレートを駆け抜ける際も、車体はドッシリと安定し、ライダーに大きな安心感を与えてくれる。それでいて、タイトターンでの切り返しも決して重ったるくなく、むしろライダーの意思に素直に反応してくれる。ちなみに個人的に気になったのはフラットなロングコーナー。僕個人の乗り方の癖なのかもしれないが、バンクなどに頼れないフロントタイヤが逃げてしまいそうなコーナーは非常に苦手で、どんなバイクであってもフロントをほとんど使わず(使えず?)に曲がってきた。しかしTF250Eではフロントタイヤがしっかりと路面を捉え続け、明らかにエッジが効いているような安心感があった。これほどフロントタイヤを信頼できたのは初めての経験で、非常に印象的だった。まさにオンザレールなフロントタイヤだった。なお、試乗車および新車に履いているのはミシュランのエンデューロミディアム2。このミディアム2はだいぶ長いこと記事でテストしていたし、そのまま今もフロントをミディアム2のままで走っているが、そういう感覚は特にないから車体に起因する特徴だと思う。

画像2: シャシーとの対話が生む、オンザレール感覚と路面追従性

サスペンションは前後共にKYB製を採用。フロントフォークはモトクロッサーの310mmに対し、300mmトラベルとなっている。この10mmの短縮は、重心をわずかに下げる効果と共に、エンデューロバイク特有の前寄りになりがちな車体姿勢に対応するためのものだとメーカーは説明する。手で押してみるとかなり柔らかめのサスペンションに感じたのだが、実際に乗ってみるとしっかりコシがあって、多くの場面で適切な姿勢を維持してくれる。手で押した感覚通りにビギニングは柔らかいので、多くのライダーにとって好印象なハズ。ガレたフィールドでも疲れづらいだろう。車高に関しては、一般的なエンデューロバイクと同程度。身長180cmの筆者で、オフロードブーツの踵までは接地しないが母指球がしっかり地面を踏める程度だ。エンデューロバイクに慣れた方なら問題ないだろうが、足つき性を重視する方はローダウンが必要かもしれない。オプションで20mm低いローシートが用意されているとのことだ。

ライダーを支える細部への配慮と先進の電子制御

ハンドル左側のスイッチボックスはトライアンフがこのTF-Eシリーズのために専用設計したという。ウインカー、ホーン、ヘッドライトのハイビーム/ロービーム切り替えスイッチが一体化されているが、欧州のエンデューロバイクに見られる汎用品のような取って付けた感は皆無だ。非常に質感が高く、クリック感も明確で、操作性に優れているだけでなくコンパクトで壊れにくいはず。グリップはODI製のロックオングリップで、これも高品質なパーツと言えるだろう。ブレーキおよびクラッチのマスターシリンダーは前後共にブレンボ製で、操作性、制動力共に申し分ない。

画像: ライダーを支える細部への配慮と先進の電子制御

電子制御も充実している。アテナ製のエンジンマネージメントシステム(EMS)は、ローンチコントロール、クイックシフター、トラクションコントロール、そして2つのエンジンマップ(モード1:フルパワー、モード2:わずかにパワーを落としたソフトなマップ)を統合。これらはすべてエンデューロでの使用のために開発され、エンジン特性に合わせられている。モード2は、レーサーのソフトモードとしては標準的なレベルで、レスポンスは穏やかになるものの、パワー感はしっかりと維持されている。試乗会場では、マイルドなモード2の方が乗りやすいと感じる参加者が多かったように見受けられた。TF450Eに関しては、筆者自身もモード2の方が扱いやすかった。トラクションコントロールも搭載されているが、これはレーサー向けのセッティングであり、アドベンチャーバイクに搭載されるような、スリップを完全に抑制するタイプではない。介入はごくわずかで、その効果を明確に感じるには意識を集中する必要がある。トラクションコントロールをオンにしてもマディ路面で完全に滑らなくなるわけではなく、レスポンスの角が取れ、タイヤの空転を検知して点火を制御するが、スロットルを無駄に開ければ当然スリップする。あくまでも「じわじわと滑る」感覚であり、一般的なエンデューロバイクやモトクロッサーのトラクションコントロールの範疇に収まっていると言えるだろう。トライアンフのTF-Eシリーズのモード切り替えやトラクションコントロールは、総じて介入が控えめで、非常に自然なフィーリングに仕上げられている。2速から6速へのシフトアップ時に機能するクイックシフターは、パワーシフトのタイミングで操作するとスムーズに作動した。こちらもレーシングクイックシフターといった仕上がりで、いつでもシフトがスコスコ入る市販車のものとは趣が違う。

トライアンフの本気度が市場に与えるインパクトと、TF-Eシリーズの総合評価

これらのマシンが、ジョニー・ウォーカーやイヴァン・セルバンテスといった世界トップレベルのエンデューロライダーによる、過酷な走行テストを経て世に送り出されたという事実は、単なる耐久性の証明以上の意味を持つ。開発プロセスでは、ベンチマークバイクを300時間走行させ、各コンポーネントが故障するまでテスト。その結果を分析し、他社製品で見られた弱点を改善することで、「300時間走行しても故障しない高い耐久性」を実現したという。その中にはスイッチ類なども含まれていて、当然バイクをひっくり返したり投げたりしているから、日本のハードエンデューロ好き勢にも満足してもらえるタフネスさだと思う。

画像1: トライアンフの本気度が市場に与えるインパクトと、TF-Eシリーズの総合評価

トライアンフTF250Eの価格は115万6,000円、TF450Eは129万6,000円(いずれも発表時の税込価格)。公道走行可能なエンデューロバイクとして、他社と比較しても非常に競争力のある価格設定であり、これがトライアンフのエンデューロバイクが一躍注目を集めた大きな要因だ。新興メーカーが市場に参入する際、初年度モデルの完成度に課題が残ることは少なくないが、今回のトライアンフTF-Eシリーズに関しては、初年度モデルでありながら、エンデューロバイクとして非常に高い完成度を誇り、まさにユーザーが求める性能をピンポイントで実現していると感じた。単に個性を主張するのではなく、多くのエンデューロファンに「これは良い」と思わせる普遍的な魅力を備えている。

TF250Eは、従来の250cc 4ストロークエンデューロのイメージを覆し、本格的なレースでも十分に戦えるポテンシャルを秘めている。一方のTF450Eは、450ccの圧倒的なパワーを持ちながら、驚くほどフレンドリーで扱いやすい。どちらのモデルも、それぞれの排気量クラスにおいて、新たなベンチマークとなり得る存在だ。オフロードバイクへの新規参入を考えている方、あるいは既存のエンデューロバイクからの乗り換えを検討している方、いずれにとっても、このトライアンフTF-Eシリーズは自信を持ってお勧めできる一台である。トライアンフというブランドがオフロードの世界でどのような歴史を刻んでいくのか、その第一歩となるTF-Eシリーズから目が離せない。

画像2: トライアンフの本気度が市場に与えるインパクトと、TF-Eシリーズの総合評価

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