JEC東日本地方選の勝沼ラウンドは、全日本戦よりも厳しいんじゃないかって言われるくらいの難関で知られている。その理由ってのが、勝沼の地質にある。勝沼の土壌は関東ローム層でカチカチの硬質、とにかくローフリクション。そりゃキャンバーが地獄になるわけです

去年の苦い思い出、二度と繰り返さない

画像: 去年の苦い思い出、二度と繰り返さない

2024年、僕は東日本エンデューロ選手権勝沼大会に参戦し、見事に激沈した(参照「ボクのヨンゴー日記 vol.5 極悪のマディ勝沼で無事心を開放骨折」。その時はヤマハYZ450FXでなぜか「俺はいけるぜ」と根拠のない自信を持ち、しかもFIMエンデューロタイヤで臨んだ。FIMエンデューロタイヤ(以降、FIMタイヤ)は上級者だけが扱える、つまりタイヤをしっかり潰せる者だけがタイムを出せる、みたいなことを言われているタイヤである。この難しい勝沼で、そのFIMタイヤを自分がどう使えるのか、身の程知らずにも試してみたいと思ったのだ。今にして思えば、勝沼は初中級者向けにタイヤの縛り、規制をなくし「何でも履いていいよ」という措置をとってくれていたというのに……。もちろん結果は惨敗。テストどころかルートでどたばた倒れてほとんど攻められず、当然テストでも何度も転倒、タイムも本当にひどかったという苦い思い出しかない。「もう最悪、本当に恥をかきに行っただけだったな」というようなレースであった。

あまりにも悔しくて、レースがあった次の週にバイクをYZ125に乗り換え、タイヤもモトクロスのミディアムハードタイヤをわざわざ新品で履き、フリー走行でタイムを計りに行ったほどであった。それくらい僕は勝沼に傷ついていた。

今年こそリベンジ!…のはずだった

今年は新型YZ250FXに乗っているのだから「こんなイージーなバイクで俺が戦えないわけがない!」と息巻いて、勝沼大会に臨む。まるで成長していない……のはさておき、去年泣かされた滑りやすい路面に対し、“悪魔のブロック高”を持つIRC M5Bを前後に履いて、絶対的なグリップを狙うという布陣。しかも今年の勝沼は雨が降らない予報だった。「こんなん絶対完走できるでしょ!」と、リベンジする気満々で乗り込んだわけである。

画像: 事務所の土間を貼るところからやってます

事務所の土間を貼るところからやってます

画像: スタジオに2立米の土砂をいれたり…日々まじで疲れた

スタジオに2立米の土砂をいれたり…日々まじで疲れた

いちおう不安材料も書いておくと、この勝沼大会の前後に我が株式会社アニマルハウスの引っ越しがちょうど重なっていた。毎日毎日35度くらいの気温の中、エアコンもなく引っ越し作業をしていて、体力がめちゃくちゃ削られていたのだ。ただ、勢いというのは恐ろしい物で「これはもしかすると、暑さに慣れてきたのがリベンジに有利に働くんじゃないか?」とも思っていた。1週間前には勝沼の路面に似ている千葉県のコースに遊びに行き、「まぁこれくらいなら問題ないだろう」というところまでマシンを詰めた。準備は万端だった。

ところが、レース前日土曜日の時点でちょっと不穏な空気がSNS界隈に漂い始めた。

勝沼の主催者側にいる、鈴木里美さん(通称”楽さん”)が「今年も厳しい」と投稿してみたり、レジェンドエンデューロライダーの鈴木健二さんの「ヘルメットのバイザーが吹っ飛ぶくらい転けた」とか、今年のISDE(インターナショナルシックスデイズエンデューロ)に出場するほどの腕前の持ち主である馬庭さんの「何度もずり落ちた」といったポストが拡散されていたのだ。

画像: 今年こそリベンジ!…のはずだった

ちなみに僕は引っ越しが忙しかったので土曜日の下見はキャンセル、当日朝に勝沼に向かった(なめてる証拠ですね)。会場入りしてから聞いたところ、難しいと言われているコースは僕が参戦するNBクラスでも使用するルートだった。ちなみにそのコースにはまだレースで実際に使ったことがないキャンバーもあるらしい。しかし、僕は今までキャンバーでずり落ちた経験がないためキャンバーに対する苦手意識はそれほどない。もしかすると、自分にとってはアドバンテージになるかも知れないな、などとほくそえんでいると、楽さんがやってきて僕の苦手な丸太が入り口にあるよ、と言う。さっそくてくてく歩いて下見に行ったのだが「俺のこと舐めてんのか? こんなの丸太じゃねぇよ!」というくらい小さい丸太で、タイヤが極悪最強タイヤM5Bなこともあり、ますます「これはさくっと完走できるのでは?」という確信が深まった(フラグ)。

画像: PHOTO/長男。ウイリーの瞬間とか撮れるとうれしいよね、わかるよ

PHOTO/長男。ウイリーの瞬間とか撮れるとうれしいよね、わかるよ

いいところ見せられそうだな、と思った僕は長男と次男を餌付けし「アルバイトだよ」と言ってコースサイドで写真を撮らせることにした。もちろん、写真を撮ってもらうことより、この厳しいレースを乗り越えるためのギャラリーが確保できるという効果もある。なお、結婚当初に散々山の中を連れ回された妻はもう呆れてついてくることはないので、エアコンの効いた家のリビングでぐだぐだしている休日の子供を外に連れ出すという重要任務も兼ねている。

「これ、お父さん初表彰台あるかもよ?」というような謎の自信に包まれた僕を、息子たちが不安げな表情で見上げていた。

勝沼独自の特別ルール「簡易オンタイムエンデューロ」

レース当日の話をする前に、勝沼のJECについて、特別ルールを紹介しておこう。JECはオンタイムエンデューロ競技のため、決められた時間にルート上のタイムチェックを通り、「時間通りのスケジュール(オンタイム)」でテストをこなす必要がある。それらをこなした上で、テストの積算タイムがリザルトになるのだが、僕らNBや初中級クラスのライダーにとっては、そもそもそのルートをオンタイムで走るということ自体が難しい。そんなわけでルートで疲れた体で臨むテストはさらに厳しいものとなる。上級者にとってはルートはさほど難しくないため、ルートで休んでテストで5分くらいの全力走行を行うという、ある意味インターバルのあるスプリントレースなのである。しかし、勝沼はその上級者たちにとってもルートがそれなりに難しいため、独自のルールとして「簡易オンタイムエンデューロ」というものを採用している。

簡易オンタイムにもルートとテストがあるのだが、タイムチェックの時間が決まっていないのが特徴だ。スタートしたら自分のペースでルートを走り、たどりついた時点でテストに入ればよい。一周して本部に帰ってきたら、好きな時間に再度ルートに入り、周回を重ねていけばよいため、休息を取ることもできる。一見複雑に見えてしまうタイムコントロールや、時間に追われてミスしがちな初級者には通常のオンタイムの入口としてとっつきやすいルールになっているのだ。

キャンバー地獄

さて、そんなこんなで自信満々のままNBクラスの後方のスタート位置につく。今回はルートが難しいと言われていたこともあり、規定周回数6周だったNBクラスはスタート時点で運営から「では5周にしましょう。5周していればOKですよ」というアナウンスがあった。

意気揚々とスタートして1周目、10分くらい走ったところで、たくさんのバイクが死屍累々と倒れているのを発見する。どうやらここが噂されていたキャンバーらしい。

勝沼をホームコースにしている人ならみんな知っている「逆光ヒル」というセクションだった。直登できる人は直登し、そこからさらに左に曲がってキャンバーに入る。この逆光ヒルは迂回するようにジグザグに登っていくラインもあるのだが、かなり長い距離を走ることになってしまう。しかし、直登ラインがあまりにも難しすぎたようで、ほとんどのライダーが迂回ラインに流れている状況であった。僕も同じように迂回ラインを通ったのだが、まだ1周目で体力も当然残っていたため「みんな苦しんでるなぁ」と涼しい表情で、割とすいすいキャンバーの手前まで到達した。

噂のキャンバーは本当に厳しいセクションだった。僕が今まで走ってきたキャンバーには、しっかりラインがあってそれを外さなければ大丈夫だったが、トレースできるような溝は一切ないし、そもそもあろうことか路面がツルツルだった。普通、キャンバーってもうちょっとザクザクしてない? という心の叫びとともに「キャンバーは山側のステップに体重をかける」とか「谷側ステップにかける」とか、これまで書いてきたライテクの記憶が錯綜する。これ、上級者だとどちらを実践しても走れるので正解なんだが、僕の場合どちらのステップにも足をかけられないので、むしろ正解は「いいからまず脚をステップにのせろ」だ。のせらんないから、ずるずる落ちる。ミスしたらどんどん谷底に落ちていってコースアウトしてしまうような状況であった。

結局30分くらいかけて僕はこのキャンバーをクリアしていくのだが、実際には最下部にあるコーステープを完全にくぐってしまっていた。「コーステープくぐったからマイナス1周になっちゃうかな」などとレギュレーションによる一周減算について考えながら走っていたのだが、はっきり言ってそんな心配をする必要はなかったのである。なぜなら、完走できなかったのだから。

ほうほうの体でキャンバーを抜け、たどり着いたテストのタイムも散々であった。結局、1周で50分ほどかかっていたのではないだろうか。このスローペースで行くと持ち時間3時間では完走できないことが判明している。しかも、1周終えた時点ですでに体力はかなり削られており、とにかく水を飲みたい、というような有り様。ロースピードで走ったこともあって、YZ250FXもかなりクーラントを吹いてしまっていた。クーラントの補充を言い訳に、とりあえずピットに入って休んだ。実に甘い。自分に甘すぎる。

2周目に入るとさらに状況は厳しくなっていた。キャンバーのところには馬庭さんが待ち構えていて「このラインを行くとうまく残れますよ」と教えてくれたのだが、これも見事に失敗してしまった。同じNBクラスに参戦していたヨリゾーさん(ホームコースの友人)や姫丸さん(昔からエンデューロに参戦している有名な女性)が、同じタイミングでそのキャンバーを攻略していたので見ることが出来たのだが、やはりこのキャンバーは難しすぎて、みんなペースが上がらないようだった。この様子ならNBの周回数は減算されるだろうな、もしかすると完走できるかも? とやや楽観的に考えていた。

画像: キャンバー地獄
画像: 隠し撮りされた昼寝風景

隠し撮りされた昼寝風景

だが、それは大きな勘違いで、僕はただ単に彼らに1周ラップされていただけであった。レース後に姫丸さんに聞くと、一度もピットで休むこと無く周回し続けていたらしい。ともかく、そんな感じなのでどれだけ僕の走りがダメだったかはもう書き連ねる意味もないだろう。NBクラス21人の参加者中、蓋を開けてみたら14人も完走していて、僕は完走に2周足らず、全然目標にも及ばず、さらにテストのタイムも散々。参戦する資格なし、という烙印を押された気分であった。

最後に…

なお、このように書くと理不尽なほど難しいコース設定かのように読まれるかも知れないが、NBクラスのライダーはほとんどが完走しているし、一定のスキルがあるライダーにとっては走りごたえのある良いコースだったことは付け加えておきたい。そう、スキルがあればちゃんと走れるのだ……。だが、”自分には”あまりに難しすぎた、というだけのことである。来年も出る。これは来年も出ないと気が収まらない。来年までに何回か勝沼に行って、ツルツル路面をなんとか攻略できるようにしておきたいものである。

画像: 晴れなのにどこでそんなに汚れるのか、と指摘されました

晴れなのにどこでそんなに汚れるのか、と指摘されました

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