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昨年のモトクロス・オブ・ネーションズ(MXoN)で併催され、世界の若きYZ乗りが一堂に会した「YZ bLU cRU Cupスーパーファイナル」。そのYZ125クラスに参戦し、ほぼストック状態のマシンで11位と健闘したのが、若き日本人ライダー、高木碧選手だ

そして今年、このカップはモトクロス世界選手権第16戦スウェーデンGPの併催レースとして8月15日から17日にかけて開催される。 再び世界の舞台に挑む高木選手のために、今年は強力なサポート体制が組まれた。モトクロスサスペンションのスペシャリスト集団「テクニクス」が、スウェーデン決戦に向けたスペシャルサスペンションの開発を買って出たのだ。さらにアドバイザーとして、全日本MXレジェンドライダーであり、テクニクスに入社したばかりの熱田孝高氏が参加

今回は、来るべき決戦に向けて、どのようなサスペンションを作り上げていくのか。ライダーの高木碧選手、チーム鷹の代表であり碧選手の父でもある高木氏、テクニクスの小倉氏、そして熱田孝高氏が集まり、プロジェクトのキックオフミーティングが行われた

画像: PHOTO/Hiromu Inoue

PHOTO/Hiromu Inoue

なぜ今、125ccなのか?ライダーを育てる哲学と市場のリアル

編集部稲垣: まず、このプロジェクトの主役であるヤマハYZ125についてお伺いします。レースシーンでは250cc 4ストロークが主流ですが、ファンライド層も含めた市場全体で見ると、125ccの立ち位置はいかがでしょうか?

高木代表: 実は、ファンライドのお客様がほとんどですね。モトクロッサー全体で見ると、4ストと2ストの販売比率は半々、下手をすると2ストが6割くらいになる印象です。やはり車体価格が安く、構造がシンプルでメンテナンスしやすい点が大きい。自分でピストンリングを交換できる手軽さもあります。

小倉氏(以下敬称略): 僕もJNCCで125ccに乗っていますが、成績はともかく「一日中バイクを乗り倒した!」という満足感がすごくある。キャブレターのセッティングが決まった時の、あの吹け上がりの気持ちよさは格別ですよ。

高木代表: そうなんです。インジェクションと違って、ジェットやクリップ位置を変えるだけで走りが激変する。その「いじる楽しみ」がありますよね。正直、今の250cc 4ストロークは誰が乗っても同じように走れてしまう分、少し簡単すぎて面白みに欠けると感じるベテランもいるかもしれません。

小倉: まさに、4ストに乗り慣れたベテランライダーが、そのシンプルさや操る楽しさを求めて回帰するケースも多いです。経済的に余裕のある方たちが、チャンバーやサイレンサーといったパーツに10万円近く投資して、自分好みの一台に仕上げて楽しんでいますね。

稲垣: なるほど、趣味の世界では確固たる地位を築いているわけですね。その一方で、高木選手は全日本モトクロス選手権のIBオープンクラスという、プロを目指す若手がしのぎを削るクラスで、あえて125ccに乗って250cc 4ストローク勢と戦っています。その意図を教えていただけますか?

高木代表: 息子の碧(あおい)には、とにかく技術力を上げてほしくて125ccに乗らせています。かつてうちのチームにいた中島漱也もそうでしたが、パワーで劣るマシンを乗りこなす経験が、ライダーを大きく成長させると考えています。アクセルを開ければ前に進む250ccと違い、125ccはコーナーでいかにスピードを落とさないか、いかに的確にパワーバンドを維持するか、常に考えさせられますから。

熱田氏(以下敬称略): まさにその通り。世界的に見ても、トレーニングのために125ccに乗るトップライダーは非常に多い。常に100%で攻めていかないと250ccには勝てない。その必死さが、ライディング技術だけでなく、レースの組み立て方、マシンの理解度、さらには体調管理に至るまで、ライダーを総合的に成長させるんです。「なぜスタートで出遅れたのか?パワーだけのせいじゃないはずだ」と、考える力が養われます。

ライダーの視点「250ccは簡単すぎる、125ccはきついけど成長できる」

稲垣: 高木選手本人としては、非力な125ccで250ccと混走するレースをどう感じていますか? やはり苦しいですか?

高木碧選手(以下敬称略): スタートで置いていかれるのは仕方ないです。でも、レースが始まってしまえば、相手はIA(国際A級)のトップ選手ほど速いわけではないので、何とかなります。ただ、コーナーの立ち上がりでグッと離される感覚はありますね。

稲垣: 体力的にはどうでしょう? 車体が軽い分、楽なイメージもありますが。

高木碧: いや、250ccよりきついと思います。常にピークパワーを維持しないと前に進まないので、最後まで集中力を切らせることができない。その分、体力はすごく使います。

熱田: そこが大事なんです。250ccなら多少ラフな操作でもバイクが助けてくれるけど、125ccはそうはいかない。コーナーの出口で置いていかれるから、「じゃあ進入でもっと突っ込まないと」「ライン取りを工夫しないと」と、一戦一戦、必死で考える。その積み重ねが、とてつもない成長に繋がるんです。

世界への再挑戦と昨年の課題。ストックサスで戦った雪辱へ

稲垣: 昨年、イギリスのマタリーベイジンで開催されたbLU cRU Cupは、ほぼノーマルのマシンで11位という素晴らしい結果でした。あの時の経験は、今年の挑戦にどう活きてきそうですか?

画像1: 世界への再挑戦と昨年の課題。ストックサスで戦った雪辱へ

高木碧: 去年は、現地に着いてからレース時間が急に25分+2周に変更になったりして、少し面食らいました。今はその長いレース時間に対応するためのトレーニングをしています。一番感じたのは、やはりサスペンションの差です。ノーマルのサスで走ったら、現地の大きなギャップで跳ねてしまって、全くスピードが出せなかった。乗りにくさを強く感じました。

稲垣: 熱田さんは、あのマタリーベイジンのコースを走られた経験は?

熱田: はい、もちろん走ったことがありますが、とにかくスケールが大きくて難しいコースです。ジャンプもコーナーも、すべてが日本の比じゃない。日本の感覚でフルブレーキングすると、あっという間にみんなに置いていかれてしまう。そんな経験のないコースで、碧選手はしっかり自分の走りができていて、本当にすごいと思いました。

画像2: 世界への再挑戦と昨年の課題。ストックサスで戦った雪辱へ

稲垣: その彼が、今回テクニクスさんと熱田さんの手掛けた「良いサス」を装着したら、一体どこまでいけるのか。いよいよ本題に入ります。

125ccサスセッティングの哲学

稲垣: 125ccのサスペンションセッティングは、450ccと比べてどのような違いがあるのでしょうか。小倉さんの専門的な見解をお聞かせください。

小倉: 端的に言えば、125ccは450ccに比べて車重が軽く、絶対的なパワーもトルクもありません。ここがセッティングの出発点になります。450ccなら、ライダーが何もしなくてもアクセルをガバっと開けるだけで、その強大なトルクによってリアサスが沈み込みます。つまり、ギャップを吸収するために使えるはずの有効ストロークが、加速Gだけで大きく食われてしまう。しかし125ccは、アクセルを開けてもそこまで一気に沈まない。これは、ギャップ走破性においては大きなメリットです。

稲垣: なるほど、沈まない分、使えるストロークに余裕があるわけですね。

小倉: その通りです。ただし、それが逆に難しさにも繋がります。パワーで無理やり車体を沈めて曲げることができないので、ライダー自身がブレーキングや体重移動で積極的に車体の姿勢を作り、サスペンションを動かしてあげなければならない。僕たちの仕事は、ライダーが「一番曲がりやすい」と感じる車体姿勢を、いつでも作り出せるように手伝うことです。125ccはコーナーをいかに速く走るかがすべて。インベタで向きを変えてドン、と加速しても450ccには絶対についていけませんから。回転数を落とさず、スムーズに、ハイスピードでコーナーを駆け抜ける。そのためのセットアップという観点が、450ccとは根本的に違うんです。ごまかしが効かない分、ライダーの好みや要求がよりダイレクトに反映される。だから「ある意味シビアかもしれない」のです。

見えない感覚を形にする技術

稲垣: では、そのライダーの好みを引き出し、形にしていく上で、熱田さんはどのような役割を担うのでしょうか。

熱田: 僕の役割は、ライダーの感じていることを翻訳して、小倉さんのような技術者に正確に伝えることです。特に若いライダーは、自分の感覚を言葉にするのが得意ではありません。そこで重要なのが、テストの方法です。「今回はリアを柔らかくしたよ」なんて絶対に言わない。そんなことを言えば、ライダーは無意識に「柔らかい」と感じようとしてしまう。先入観を完全に排除した状態で、まずいつも通り全開で走ってもらう。そしてピットに帰ってきて一息ついてから、「どうだった?」と聞くのではなく、「あのセクション、どうだった?」と具体的に問いかけ、記憶を呼び覚まさせるんです。

稲垣: 抽象的な感想ではなく、具体的な事象を引き出すわけですね。

熱田: ええ。「ジャンプの着地が弱い」とか、「エッジの効いたギャップで跳ねる」とか、どんな些細なことでもいい。その断片的な情報を、僕がライダーの走りや癖と照らし合わせながら解釈し、「つまりこういうことじゃないか?」と整理して小倉さんにぶつける。すると小倉さんが「なるほど、それならバルブのこの部分をこうしてみよう」と、技術的な答えを出してくれる。この連携がすべてです。

稲垣: 熱田さんご自身の経験も、もちろん活かされるわけですよね。

熱田: もちろんです。僕自身の現役時代の最大の反省は、サスを硬くしすぎていたこと。一発の大きな入力で底付きするのが嫌で、どんどん硬くしていった結果、他の無数の小さなギャップで体力を消耗し、トラクションを失っていた。でも、GPのトップライダーには、驚くほどサスが柔らかい選手が何人もいました。例えば、全日本の成田亮選手はリアのサグを120mmも取っていたし、ステファン・エバーツは高身長なのにローダウンして重心を下げていた。100点満点のサスはないんです。どこかの性能を求めれば、どこかを犠牲にしなければならない。そのバランスをどこに置くか。自分のライディングに合った「武器」としてのサスを見つけ出す手伝いをしたい。

決戦の地ウッデバラ、そして限られた時間での最終調整

稲垣: スウェーデンGPまではもう時間がありません。決戦の地、ウッデバラはどんなコースなのでしょうか?

熱田: 崖に囲まれた、景色のいいコースですよ。路面は硬めの赤土で、粒子が粗い感じ。富士山の砂地みたいなイメージかな。僕が走った時よりも少しソフトになっているようですが、日本のコースとはレイアウトが根本的に違います。ハイスピードで突っ込んで、スピードを落とさずに回り込むような大きなコーナーが多い。日本でテストするなら、オフロードヴィレッジよりも、ガイアや川西のような、ハイスピードコーナーがあるコースが合っているでしょう。

稲垣: 具体的な今後のスケジュールは?

小倉: もう7月中に仕様をFIXさせたい。テストはあと2、3回できるかどうかですね。まずはキャラクターの違う2種類ほどの仕様を用意して乗り比べてもらい、基本的な方向性を決めてから詰めていきたいと考えています。

熱田: まずは来週、最初のテストを行いましょう。そこで出た課題を元に、小倉さんが仕様を考え、僕がバルブを積む(笑)。そのサスでまた走ってもらい、フィードバックをもらう。このサイクルを2回繰り返せれば、かなり良いものができるはずです。

稲垣: いよいよプロジェクトが本格的に動き出しますね。ライダーの若き感性、メカニックの専門技術、そしてレジェンドの豊富な経験。この三位一体でどんなサスペンションが生まれるのか、非常に楽しみです。

限られた時間の中で、若き才能・高木碧選手と日本のトップ技術が世界の舞台に挑む。スウェーデンの地で、彼らの挑戦がどのような結果に結びつくのか。Off1.jpでは、このプロジェクトの行方を今後も追い続けていく。

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