外観は大きく変えず、キャブレターの基準値リセット、点火マップの細密化、エアボックス下部の開口拡大、インテークのゴムジョイント新作という4点だけで挑んだ大型モデルチェンジ。だがヤマハは、様々な季節を通した実走とベンチでパワーカーブを丹念にそろえ、固定の基準セットで季節差に強い仕様を作り込んだ。結果は明快だ。立ち上がりの遅れを感じさせず、パワーバンドに入っても過剰な山を作らずに加速を継続する

SPECIAL THANKS/ Technix

2ストローク125とは

モトクロッサーにおいて2スト125ccクラスは、小排気量だからといって単なるエントリーモデルにとどまらない存在となった。軽量な車体にパワーバンドの狭い2ストロークエンジンを積み、ライダーに「積極的に操作しなければ速く走れない」という学習の必要性を突きつける。現代の450ccや250cc 4ストロークが、トラクションコントロールや豊かなトルクによって「楽に」速く走れる方向に進化してきたのに対し、125は未だにストイックで、ライダーを育てる教材的存在なのだ。

しかも今、世界市場ではヤマハのYZ125が125クラスで販売台数トップを走っている。欧州や米国を中心に、若手ライダーの登竜門として圧倒的な支持を集め、さらにファンライドモデルとして2ストの音や軽さを楽しむベテラン層にも人気が広がっている。今回の2026年モデルはリリースの時点では、22年に行われたフルモデルチェンジから比べると小改良の域にとどまったように見えた。だが、いざ蓋を開けてみると、インプレッションを担当した熱田孝高が「別物だ」と驚嘆するほどの進化を遂げていた。

画像: 2ストローク125とは

YAMAHA
2026MY YZ125
¥759,000

熱田孝高インプレッション ― 4ストにも効くコントロール技術を得るための教材的マシン

宮城県のスポーツランドSUGOで旧型→新型の順に乗り比べた熱田孝高は、開口一番こう切り出した。

「正直、それほど変わらないだろうな、と思って乗ったんです。でもね、乗り出してすぐに“別物だ”って思いました。旧型にはパワーバンドの前に“もう少しトルクがほしいと感じる瞬間”があったんです。新型はそこがすごくスムーズで、軽くスロットルを当てるだけでフッと回転がついてくる。素直で鋭いけど、嫌な唐突さはない。軽く回る感触があって、『もたつかない』ってこういうことか、って分かりやすかった」

画像1: 熱田孝高インプレッション ― 4ストにも効くコントロール技術を得るための教材的マシン

一見すると大きな変更点は見当たらないように思われた新型YZ125だが、その実は、2ストローク乗りが最も神経を研ぎ澄ます領域、すなわちエンジンレスポンスの「繋がり」を徹底的に磨き上げた、極めて緻密なアップデートが施されていたという。

「もちろんエンジンが下から上まで綺麗に回るのは正義だけど、とはいえ綺麗すぎてトルクが痩せる瞬間もある。夏用のセッティングにしてもらったら、回り方はさらに気持ちよくなった反面、ちょっと“タメ”が薄く感じるエリアも出た。だから『吊るし=絶対の正解』とは限らない。新型のYZ125は”標準セッティング”がよく出来てるから、そこから自分の走りに寄せる際の方向性がわかりやすい」

熱田は125の本質にも触れる。「125はね、トルクに甘えられないから、荷重とクラッチとアクセルワークで『地面と会話』しないと前に出ない。開けたら勝手に運んでくれる4ストと違って、対話をサボるとすぐに車体が浮いてしまう。今回の新型は、その“会話の最初のひと言”が通じやすい。コーナーの立ち上がりで軽く当てたら前に出る。パワーバンドに乗ってからも、過剰に山を作らずに前に進むから、次の操作に余裕ができる」

画像2: 熱田孝高インプレッション ― 4ストにも効くコントロール技術を得るための教材的マシン

この“会話”という表現は、彼が以前から折に触れて使ってきたものだが、26年型はその会話を始めるハードルを下げた、と続ける。「例えばツルツルの路面で、全開に見えて実は微妙に戻してる、とか、膝で抑えてタイヤを押しつけてる、とか、そういう細かいコントロールが結果に直結する。新型はそこで裏切らない印象がありますね」

サスペンションの印象についても興味深い言葉が出た。「今日はカチカチのハード路面だったけど、ストックのマシンに乗って『このままレースに出られるな』って思った。口元から中盤が素直で、奥でちゃんと受け止める。125は軽いからサスのあたりが出るんだけど、それでも安心して攻められた」

画像3: 熱田孝高インプレッション ― 4ストにも効くコントロール技術を得るための教材的マシン

2006年の大刷新で纏ったアルミフレームは、開発陣の間でいまも開発者桂氏の名前を冠して「桂フレーム」と呼ばれる完成度の高い骨格だ。YZ125の開発はこの桂フレームを土台に、サスペンションを時代に合わせ続けるという考え方が基本線にある。大掛かりに骨格を変えたり構造を見なおすのではなく、素性の良さを信じて積み上げてきた結果だろう。

一方で、彼は“難しさ”を強調することも忘れない。「2ストは難しい。4ストでレイジーな走りの癖がついていると、最初は苦労すると思う。けれど、そこで身につくコントロール技術は4ストに乗った時に必ず効く。今回の新型は、その技術獲得の練習の密度を上げてくれると思う。特に新型は標準セッティングの軸が確かなので、練習の時間を“セッティング調整”ではなく“走りの練習”に使える。そういう意味でも新型は“迷い”を消してくれるマシン。『走りの先生としての価値』が旧型からもう一段上がったと言える」。

では、熱田が言う"標準セッティングの軸の確かさ”とはどのように作られたものなのか。新型YZ125の開発チームに話を聞いてみた。

開発陣インタビュー ― 小変更の裏に隠された膨大な工数。標準セッティングの素性の良さを目指す

開発を指揮したプロジェクトリーダー白井氏は、「少ない変更点に見えるかもしれませんが、かけた工数は過去最大。完成度の高いエンジンに手を入れるのは難しいが、中でもアクセラレーションは操作性やフィーリングに直結する部分なので特に気を使いました。とにかく、開け始めの応答をもっと良くしたい。その一点にリソースを集中しています」と語る。22年にフルモデルチェンジした時点でエンジンは完成度が高かった。だからこそ、今回は“さらに開け始めを良くする”という一点に徹底的にこだわったという。

画像1: 開発陣インタビュー ― 小変更の裏に隠された膨大な工数。標準セッティングの素性の良さを目指す

そのためにまず開発陣が取り組んだのが「標準セッティング」の策定だった。プロジェクトチームは開発時間のほぼすべてを“セッティングだけ”に投じ、寒冷期から酷暑期までのあらゆる条件下で最適なセッティングを探り続けた。その開発手法もユニークだ。最新のシャーシダイナモでは気温だけでなく気圧まで変化させることが可能で、標高1000m級の山岳コースをも再現できる。また、実際に国内各所のコースでテストを繰り返すだけでなく、渡米して複数のコースを貸し切り、実走テストを行って最終的なセッティングを煮詰めていったのだ。

「お客さんにもっと練習してほしいんです。だから気候の変化でいちいちセッティングに悩んで練習時間を減らしてほしくない。多少の気温変化なら問題なく走れるように標準セッティングを決めました」

画像2: 開発陣インタビュー ― 小変更の裏に隠された膨大な工数。標準セッティングの素性の良さを目指す

テストライダーは辛口で知られる鈴木健二と小島太久摩が担当した。とくに小島が米国の複数コースを借り切って行ったクロスチェックは徹底していて、朝夕の気温差や標高の違いが乗り味に及ぼす影響を、夏・春と季節を変えて何度も洗い直すという手順をとった。ここで目指したのは会場入りした時に、どんな天候でもまずは標準セッティングで走ってみよう、と思わせられる性能だった。固定の基準マップと基準ジェッティングを確固たる“軸”に据え、そこからの微調整幅を設計するというやり方である。

立ち上がりの遅れを消し、パワーバンドでも山を作らない

今回のモデルチェンジはキャブレターの基準値リセット、点火マップの細密化、エアボックス下部の開口拡大、そしてインテークのゴムジョイント新作という4つの要素で行われている。しかし、この4つの改良点はそれぞれが単独で効果を発揮するというよりも”束ねて効く”ような相関関係がある。

画像1: 立ち上がりの遅れを消し、パワーバンドでも山を作らない

まずキャブレターは基準番手を見直し、パワージェットを含む噴き出しのタイミングと量を新たな基準として固定。ここで重要なのは数値の大小そのものではなく、どの回転域、スロットル開度で何を出したいかという設計意図だ。狙いは二つ。開け始めに薄い谷を作らないこと、そしてパワーバンドへ入ってからも一気に盛り上がり過ぎず加速をつないでいくこと。燃料が先行しやすい低中回転・中開度では点火側で“受け止める”マップにして、燃え方が早まりすぎてノッキング方向に振れないよう留める。逆に上で開け増す領域では、濃すぎ/進みすぎの山を抑え、回転上昇と推力の線が一直線に近づくよう整える。これにより、立ち上がりの遅れを感じさせず、パワーバンドに入っても過剰な山を作らずに加速を継続するという性格が生まれるのだろう。

吸気側の二つ——エアボックス下部の開口部拡大と、ゴムジョイントの新作——は、この性格を支える裏方だ。エアボックス下の開口部は元々、水抜きの意味合いが強いが、ここを適切に広げることでスロットルの開け始めに生じるエアボックス内の一時的な負圧溜まりを緩和できる。フィルター背後の空気が一拍遅れる“負圧のポケット”を生み出しているのだが、それを小さくすることでスロットルの動きに合わせて必要な空気量をすぐに動かせる状態を作るわけだ。泥はねや水への耐性は気になるところだが、設計側は“多少詰まっても破綻しない容積と孔径”で帳尻を合わせているとのこと。現場ではついスポンジを詰めたくなる場所だが、今回の基準セットはまず素の状態で答えを出す思想に立っている。この記事を読んだ読者はぜひ開口部はそのままにして乗ってほしい。

画像2: 立ち上がりの遅れを消し、パワーバンドでも山を作らない

インテークの要は、実は地味な合わせ面にある。キャブレターの出口とゴムジョイントの入口がつながる境目にほんのわずかな“段差”があると、そこで空気の流れがいったんほどけて小さな渦が生まれる。流速の芯がにじむぶん、開け始めの反応が一拍だけ鈍り、回転を上げていく途中で再び流れが整うタイミングに小さな山谷ができるのだ。今回のゴムジョイント改良ではこの合わせ面の段差をなくしている。段差が消えると、スロットルを開けた瞬間にキャブ前の流れが乱れにくくなり、エアと燃料のミキシングが安定する。低開度・低回転での薄い谷が出にくく、手首の入力と推進力の立ち上がりが素直に重なる。パワーバンドへ入ってからも過剰な盛り上がりを作らず、そのまま加速をつないでいける。やったことはシンプルでも、吸気が肝となる2ストロークエンジンでは効き目が大きいのだ。

こうしてキャブと点火と吸気を「開け始めの応答をもっと良くしたい」という同じ意図で束ねると、ライダーの体感は劇的に変わる。コーナーの進入から立ち上がりにかけてわずかに当てたスロットルに対し、車体が素直に前に出る。以前のようにパワーバンドの手前でもう少しトルクが欲しくなる瞬間が薄れ、クラッチで無理やり回転を上げたり、わざと煽ってつなぐ必要が小さくなる。一方で、パワーバンドに入った後も盛り上がりすぎる“コブ”が消えるため、直線の半ばから先で加速に対する不要な身構えを要求しない。

ノービス稲垣も明確に感じる扱いやすさと難しさ

筆者は2022年式のYZ125フルモデルチェンジに感嘆して、新車購入をした一人である。たびたび下手なセッティングを施してきたが、正直なところあまりよくなったと感じられたことは無かった。いじり過ぎてからスタンダードに戻すと素直になるな、といつも思ってきたクチだ。買ってすぐの頃は満足して乗っていたのだけれど、4スト250を手に入れてからはなかなか出番が無かった。なにせ、4ストに比べてかなり難しい。車体が軽い上にピーキーなので、うまくラインが繋がらないのである。何度か同時にコースに持ち込んで比較するためにタイム計測したりもしたが、どうにも125はうまく乗れない。

画像: ノービス稲垣も明確に感じる扱いやすさと難しさ

今回の新型YZ125試乗会には旧型が用意されており、比較することが出来たので、その違いが大変わかりやすかった。ざっくり感じたところを言うと、やはり低中速でのツキが素直だ。旧型は速度によるギヤチョイスをミスると容赦なく失速してしまう。特にジャンプの手前や、SUGO名物の大坂ではこの印象が顕著だった。さすがにセクションをクリアできないほど僕も下手ではないんだけど、もう少し前に出て欲しいのについてこないことが多い。逆にパワーバンドに入っていると、猛然と加速するので苦手なセクションではパワーバンドをわざと避けて走っていたほどだ。その点、新型はギヤチョイスのミスを補ってくれる感じがあった。4ストと同等とは言えないが、少しのミスであればスロットル操作でしっかり前に出てくれる。旧型は、このミスを防ぐために半クラッチを多用してしまうし、スロットルを常に煽っていたのだが、新型ではその回数がだいぶ減ったように思う。

もっと簡潔に言うと、回り方がクリーンになったということかもしれない。旧型では、どこかトルク曲線にひっかかるイメージがあった。無負荷でスナッピングする分には感じないが、実際にコース上では「この音の時は、素直にクラッチをつないでも前に出ない」というような疑念を抱きながら走っていたのだが、新型はその音の範囲内でもクラッチをつなげれば前に出る。結果的に、ジャンプや坂だけではなくコーナーの立ち上がりなどもスムーズになった。僕レベルのライダーでもレースに出るとしたら、圧倒的に新型の方が戦いやすいだろう。

歴史と使命を背負う“ヤマハの宝”

YZ125はヤマハにとって単なる一台のモトクロッサーではない。

アルミフレームを設計した“カツラさん”はいまも再雇用で開発現場に関わり続け、桂フレームは「ヤマハの宝」としてYZ125の進化を支えている。サスペンションのアップデートだけでも十分に対応できる懐の深さがあり、YZシリーズの根幹を形作ってきた。フレーム開発にかかる莫大な費用を抑えられるため、価格面でも若手やビギナーが手に取りやすい設定を守り続けることができている。その背景には、「もっと多くのライダーにモトクロスを楽しんでほしい」というヤマハの強い意志がある。

画像: 歴史と使命を背負う“ヤマハの宝”

難しさと楽しさを併せ持ち、ライダーを成長させる。それが2026年型YZ125だ。熱田孝高が言うように「簡単じゃないからこそ、ステップアップにぴったり」なマシン。ビギナーからファンライダーまで、誰もがこの“ヤマハの宝”に乗ることで、オフロードライディングの真髄に触れることができるだろう。

2ストロークのオフロードバイクは、いまだ過渡期にある。KTMグループはモトクロッサーもFI化したが、TM MotoはエンデューロのみをFI化。ヤマハはキャブレターを熟成させて勝負をしかける。販売では、現状ヤマハが圧勝している状況と聞く。開け口で迷わず、山を作らず伸びる——この2026年型YZ125で世界的な評価は、さらにいい方向へ向かうはずだ、と確信した。

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