全方位死角なし、過激なRACEにスタンダードなX-PRO
2025年モデルにおいて、Betaはエンデューロ・トレールラインナップの再定義を行った。
まずは競技の最前線で戦うための「RR Race」。そして、従来のスタンダードモデル「RR」を改称し、よりファンライドや難所系に振った「RR X-Pro」。さらに、不動のエントリーモデル「X-Trainer」。Betaを購入しようと思うほどのコアなオフロードライダーであればご存知だろうが、RRと名が付いているモデルはエンデューロバイクがべースとなっているが、X-Trainerだけは車体から異なり、かなりコンパクトなバイクとなっている。スピードを出すのではなく、オフロードで遊ぶことに特化したモデルとでも表現すべきか。
これまで曖昧だった完全競技志向の「Race(旧称 RACING)」と「X-Pro(スタンダード)」の境界線を明確にし、それぞれのキャラクターを先鋭化させたのが2025年の特徴だった。2026年モデルはこれをさらに明確にすることで、より深い理解へと落ち着かせたと言えるかも知れない。これは単なるリブランディングではなく、サスペンションセッティングやフレーム剛性、シート高に至るまで、「速さ」よりも「RideAbility(乗りやすさ)」と「走破性」を最優先する設計へと舵を切っている。これにより、コンペティション志向のライダーは迷わず「Race」を、林道やハードエンデューロを楽しむライダーは「X-Pro」を、という選び方が可能になった。

Beta
RR Race 2T 250
¥ 1,482,800
今回は神奈川県の人の森工場を走るイベントで、メディア向け試乗会を併催。Off1からはおなじみストレンジモーターサイクルの和泉拓さんに試乗していただいた。まず試乗したのは、エンデューロレーサーの頂点「RR Race 2T 250」だ。2025年モデルから採用されたツインプラグヘッドは、燃焼効率を劇的に向上させた一方で、そのレスポンスは「狂気」とも呼べる鋭さを孕んでいた。和泉氏は昨年のモデルを「電気が走るようなレスポンス」と評していたが、2026年モデルではその性格が調律されているという。

「直前にRX350に乗ったから(*1)そう感じるのかもしれませんが(笑)、今年の250 Raceはだいぶ開けやすくなりました。例えるなら、去年がアルコール度数96度の『スピリタス』をストレートで飲まされていたとしたら、今年は75度の『ロンリコ(ラム酒)』になったような感覚です」
度数が下がったとはいえ、依然として強烈な酒(バイク)であることに変わりはない。しかし、そこには「味わい」を楽しむ余地が生まれた。
「明確なパワーバンドがあり、そこに入れた時の弾けるような加速感は病みつきになる。それでいて、雨モード(マイルドマップ)を選べば、Beta伝統の極低速の粘りもしっかり顔を出す。他社のバイクですがKTMのXC-Wの特性が『ライダーを助ける優しさ』だとすれば、BetaのRaceシリーズは『ライダーが操る喜び』を残しています」
RR X-Pro 4Tシリーズ、390という“名車”

Beta
RR X-Pro 4T 390
¥1,551,000
続いて、新名称となった「X-Pro」シリーズ。豊富なラインナップ(2st 125/200/250/300,4st 350/390/430/480)の中で、和泉氏が「名車」と絶賛するのが390だ。
「390という排気量は、350のボアアップ版だと思われがちですが、エンジン特性は全く別物です。350が高回転まで回してパワーを絞り出す楽しさを追求しているのに対し、390は完全に『トルク型』。3000回転から5000回転あたりの、一番美味しいトルクバンドだけで走れてしまうんです」
上まで回してもパワーが炸裂するわけではない。しかし、中低速のトルクが分厚く、かつフラットであるため、難所でのトラクション性能がずば抜けて高い。
「いわゆる『トレール車』のような穏やかさがありながら、車体は最新のエンデューロレーサー。雨モードにすれば、開け始めのスロットルレスポンスは『もっさり』と感じるほど穏やかですが、それがガレ場や木の根の多い路面では絶大な武器になります。無駄な空転をさせずに、路面を掴んで離さない。これは日本の林道や難所系レースに最適な特性です」
円熟の域に達したベストセラーX-Trainer 250

Beta
X-Trainer 250LD
¥1,153,900
最後に日本市場を席巻した「X-Trainer(クロストレイナー)」の2026年モデル。最新型では熟成された250ccエンジンを核に、さらなる進化を遂げた。今回試乗したのはローダウン(LD)仕様である。
「乗った瞬間に感じたのは、低回転のトルクの出方がさらに優しくなったことです。以前のモデルは、開けた瞬間に『ドンッ』と出る元気良さがありましたが、新型は『モワ〜ッ』と湧き上がるようにトルクが出る。これが絶妙なんです」
ローダウン仕様でありながら、ウイリーコントロールが非常にしやすかったと和泉氏は語る。
「普通、車高を下げるとフロントアップのタイミングが取りづらくなるものですが、このエンジン特性のおかげで、フロントを上げたい高さにピタリと合わせられる。車体バランスとエンジンのマッチングが素晴らしい。初心者だけでなく、ベテランが『楽をして難所をクリアする』ための最終兵器としても完成度が高まっています」

RRシリーズで、Race・X-Pro それぞれ8台ずつ、クロストレーナー2台で計18台ものラインナップを掲げるBetaのエンデューロラインナップ。実際には各々の車体に個性が宿り、どれも同じではなくどれも素晴らしい出来映えだ。RACINGがRaceに名称変更されて棲み分けが進んだ2025年からは、それまでの一緒くたに「扱いやすさが売りのBeta」と捉えられがちだったが、「強烈な速さのRace、扱いやすいX-Pro、さらにコンパクトで乗りやすいX-Trainer」とレンジを拡大したように思う。それに加えて別記事のモトクロス向けRXシリーズも拡大中とあり、Beta帝国の充実ぶりは、世界でも類をみないものとなりつつある。











