後半戦のループステージとなったステージ8。サウジアラビア南部のワディ・アド・ダワシールを起点とするSS(競技区間)483km、総走行距離721kmに及ぶロングステージだ。序盤に巨大な砂丘が続き、中盤以降は超高速セクションが待ち構える
10秒差の首位交代、ベナビデスがトップへ。KTM勢が一歩リード
トップカテゴリーでは、KTM Factory Racingが圧倒的なスピードを見せつけた。ステージ優勝は前日に続きルチアーノ・ベナビデス(KTM)が飾り、2位にもチームメイトのダニエル・サンダース(KTM)が続いてチーム1-2フィニッシュを達成。この結果、総合順位ではベナビデスが首位に浮上したが、2位サンダースとのタイム差はわずか10秒という僅差となっている。 ホンダ勢ではリッキー・ブラベックが一時サンダースを2分以上引き離す快走を見せたが、終盤に吹き荒れた砂嵐による視界不良に苦しめられステージ3位。総合順位でも3位に後退し、首位ベナビデスとの差は4分47秒となった。

アドレナリンと、リエゾンでの「鎖骨」の現実
今の藤原にとって辛いのはSS(競技区間)そのものではなく、そこへ至るまでのリエゾン(移動区間)にあるようだ。 「アドレナリンも出てないし、集中もライディングとかロードマップに向けられない。何もない単なる移動でじっとしていると、ちょっとした振動で鎖骨に『ウッ』とくるんです。でも、レースが始まっちゃうと、もうそんなこと言っとられんので、ただただ歯を食いしばって行くだけ。レースが始まっちゃった方が楽なんです」 極限の集中力が痛みを上書きする。そんな薄氷を踏むような精神状態で、藤原はこの日のハイスピードバトルを切り抜けていった。

序盤、100km地点付近の砂丘地帯で、藤原は突如出現した「砂の沼」に捕らわれたという。 「加速しようとしたら、ズボボボッと止まって。バイクが自立するくらいリアタイヤが完全に埋まったんです。体が前に投げ出されて、ハンドルに胸を打って横にポヨンと落ちた」 この瞬間、アルパインスターズ製のエアバッグが作動。大きな怪我は免れたものの、レギュレーションで義務化されている装備のコストが藤原を襲う。「大したことない転倒でもバーンと開く。一本2万するんですよ。今日で4万円飛んだ、みたいな(笑)」。 深いスタックからは即座にフローティングターンで脱出し、給油ポイントまでに先行するライダーを次々と抜き去る本来のキレを見せた。


中盤以降の超高速セクションでは、最高速度153km/hを記録。しかし、この速度域ではラリー特有の装備が藤原を悩ませることとなった。 「砂漠を130kmから150kmで飛ばす時は、スタビライザー(ステアリングダンパー)を効かせてないとチャタリング(ハンドルの振れ)で死にます。でも、これを強く効かせると、石があるところでハンドルが自由に振れなくなるんです。石でフロントが取られた時に、ラインを戻そうと思っても戻らない」 安全のためのダンパーが、テクニカルなセクションではラインを奪う。この二律背反する状況に対し、藤原はガレ場では「歩くようなスピード」まで落として安全を確保する。その代わり、開けられる場所では153km/hまでアクセルを捻り込む。この冷徹な判断の使い分けが、今の藤原の走りを支えている。

砂嵐に消えた「サイレン」と、2分の代償
しかし、マシントラブルが思わぬペナルティを招いた。電子機器の不調により、センチネル(警告音)が鳴らなくなったのだ。 「音が鳴ったらすぐブレーキできるんですけど、今日は鳴らなかったんですよね。いきなり画面の上に赤字で30km制限マークが出てきた。距離も400mぐらい狂っていたから、対応が間に合わなかった」 結果、2分のスピードオーバーペナルティを課されたが、藤原は「もう今さら」と意に介さない。
日没前にビバークへ辿り着いた藤原は、持参したパックご飯と山菜うどんで身体を温める。 「日本に帰ったらまず関空で親子丼食べます。それから温泉と焼肉」 明日からは、一切のアシスタンスを受けられないマラソンステージ。タイヤの摩耗、鎖骨の痛み、そして砂漠の洗礼。山場となる明日へ向け、藤原は「絶対完走してやる」とその言葉に不屈の意志を込めた。
■ダカール・ラリー2026 リザルト(ステージ8終了時点)
Overall Ranking(総合順位)
1.L. BENAVIDES (KTM) 33:18:50
2.D. SANDERS (KTM) +00:10
3.R. BRABEC (HONDA) +04:47
4.T. SCHAREINA (HONDA) +20:13
5.S. HOWES (HONDA) +41:06
51.S. FUJIWARA (HONDA)










