先代のセロー225は、実に玄人受けするマシンだった。軽量で、コンパクト。おまけにエンジングリップもいい。その素性の良さに目を付けた名門レアルエキップは、かつてトライアル方向へセロー225をカスタマイズし、評価をさらに上げた。

長きを経て2010年代末にレアルエキップが再びセローのホンキ仕様に着手。その目的は、ハードエンデューロ。その手段は、軽量化、というわけである。

前後、YZ足。前略、G-NET様

真横から、この本気セローを眺めると、一見違和感がない。こういう車両がスタンダードで売っていそうな気配すらするのだけれど、ちょっとオフロードバイクに詳しい人なら、前後の足回りがまったく異なることに気がつく。

まずはフロントから見てみよう。セローのサスペンションから、YZ85LWのサスペンションに入れ替えた仕様だ。リバルビングを担当したのは、これまたサスペンションの名門であるテクニクス。同社の扱うX-TRIG製トリプルクランプが、ファクトリールック。このトリプルクランプは、剛性を出すだけでなく、そのクランプの精度をあげることでサスの動きを上質にすることで知られている。

スイングアームは、YZ450Fのものを移植。リンクはセロー250のままだ。当然、そのままつくものではないので、加工されている。セローのスイングアームより、アーム長は30〜40mmほど長いが、ヒルクライム時の安定感にも活きる。アクスルも一番後ろまで引っ張っているが、これはチェーンのコマの問題によるとのこと。428サイズのチェーンは、YZ化で520にコンバートされている。

リアサスペンションは、YZではなくセロー250用のテクニクス製TGR5.1へ換装。フルアジャスタブルで、ブラダをもつセロー史上最高のリアサスペンションだ。

この前後の組み合わせだと、YZ85LWのサスペンションが少し頼りないのだと言う。そこで、テクニクスではフロントにハードスプリングを投入。リアサスペンションのTGR5.1は、用途からするとしっかりしているため、減衰を落とす方向でセットアップしてもらったとのこと。ちなみに現状では、セローの車重に対応できるYZ85用のフロントスプリングは、存在しない。だから、本来的に言えばまだベストなバランスまで達成できてはいない、のだが、ハードエンデューロ用途でそこまでつめる必要があるのか、あるいは軽さとの天秤にかけたときに、レアルエキップは軽さを選択したという話だ。そう、この足回りの最大の目的は軽量化なのだ。

オートバイは、メーカーが大量のコストを投入し、剛性バランスの設計をしながらつくりあげるもの。特に柔のセローと、剛のYZではまったく方向性が逆。特に気にかかるのは、リアの剛性過多なのだが、コンセプトは「軽さがハードエンデューロに活きるマシン」とのことなので、そこまでねじれ方向の剛性を気にする必要はないのだろう。むしろ、サスペンションの動きは、ここまでハイエンドなパーツで組みあげると、手に取るようにわかるはず(セローは、車両の特性上サスペンションの動きが緩慢で、よく言えば誰にでも乗りやすく、悪く言えばスポーツ性には欠ける)。ハードエンデューロでは、大きな武器になるはずだ。

足回りは、このマシン最大の特徴だが、かなりハードエンデューロ方向にとがらせた仕様と言える。剛性よりも、軽量化を優先できる速度域でこそ、このセローは輝く。