2010年、熊本県御所オートランドで伝説のハードエンデューロレースが開催された。当時まだハードエンデューロを知らなかった人でも名前だけは聞いたことがあるだろう、「G-IMPACT」だ。優勝は日本人唯一のエルズベルグロデオ・フィニッシャー、田中太一。準優勝は水上泰佑。現在の全日本ハードエンデューロ選手権G-NETの歴史はここから始まった。そして、それから12年を迎えようとする2021年12月、特別選抜戦として行われた「BIKEMAN Presents Ultimate Enduro Cup」は、このG-IMPACTのコンセプトを受け継ぐ記念すべきレースだったのだ。

JNCCからの刺客が最後に待ち受ける
スタート順決定予選

日曜日の朝に行われる予選を前に、公式練習が設けられた。ハードエンデューロではなかなか聞かないスケジュールだ。これは予選はタイムアタック形式の一本勝負になるため、朝一番で動かない身体をほぐすため、そしてマシンのセッティングやコースの下見という意味で設けられた時間だった。

予選のコースはフラットな林道を下っていき、森に入り、(ハードエンデューロとしては)それほど難易度の高くないヒルクライムを登ってスタート地点に返ってくる、というもの。ライダーによってこの公式練習の時間の使い方は大きく異なっていた。

水上や山本ら、ハードエンデューロに慣れ親しんでいるライダーは軽くコースを確認して終わったが、JNCCからやってきた小林は最初のアタックでヒルクライムに失敗したこともあり、入念に練習を繰り返していた。

出走順はG-NETのゼッケン順。

まずは2020年チャンピオンの水上がスタート。1分34秒56というタイムを出すと藤田は「予想タイムよりも1分も速い」と驚きの声を上げた。5番手にスタートした佐々木文豊がこのタイムを上回った。1分33秒79と僅差だが、暫定トップに躍り出た。その後しばらくこの記録は破られなかったが、トライアルIASの藤原が1分32秒69を記録し、覆した。さらに西川輝彦も1分32秒81と佐々木を超えるタイムを出す。

しかし予選最後にはJNCCランキング2位の小林が待ち構えていた。トライアルやハードエンデューロに比べ、ハイスピードコースが多いJNCCのトップライダーだけに、当然スピードには定評がある。

フラットな林道は当たり前のように速く、問題のヒルクライムもミスなく通過。小林は見事に1分28秒47を記録し、予選トップタイムを叩き出した。この予選順位は、本戦レースでのグリッドを決める重要な意味を持つのだが、小林は「JNCCライダーとして名前を残せたのは嬉しいのですが、僕が先頭でスタートしても、ラインがわからないので困ってます(笑)」と困惑した笑顔を見せた。