ハスクバーナのTC250がフルモデルチェンジ。今までにない乗りやすさであると北米メディアが口を揃える画期的マシンに、元ファクトリーライダー辻健二郎が試乗

「今までインプレしたバイクの中で、一番びっくりした」

画像1: 「今までインプレしたバイクの中で、一番びっくりした」

Husqvarna
TC250

インプレッションを担当した辻健二郎は、TC250にスタンドをかけながら興奮気味にこう言った。「今までインプレしたバイクの中で、一番びっくりしました。これはスゴイ。いいから、乗ってみてくださいよ」

いったい何がスゴイというのか。「2スト250ccのモトクロッサーに乗っているとはまったく思えないですよ。2ストの250ccってスロットルを開けた瞬間ドンってツキがあって、暴力的に加速するじゃないですか。身構えていないと振り落とされそうになりますよね。そういう怖さがまるでありません。筋骨隆々としてて、いつでもパンチ繰り出すぜって感じのそういう怖さがないんですよね。エンジンを信頼して開けていける。かといって遅くなんてなくてむしろ速い。このバイクが現役の頃にあったら無敵ですよ。僕らが50秒程度で走るこのコンパクトなモトクロスビレッジでも、全日本モトクロスが開催される大きなオフロードビレッジでもこの印象は変わらないと思います。そのくらい懐が深いですね。ホビーとしてモトクロスを楽しむには最高のマシンです!」。辻はかつてファクトリーマシンを駆っていた身であり、この言葉が意味するところに疑いの余地はないだろう。

辻のインプレッションを続ける前に、もはや日本では話題にならなくなりつつある2スト250ccのモトクロッサーについて整理をしておこう。今では選手権を走るマシンは4スト450と4スト250の2種類だが、昔はそれぞれ2スト250と2スト125がその役を担っていた。モトクロスの最高峰が2スト250(海外では2スト500というクラスもあるにはあったが……)だったわけである。4ストになってからというもの、マシンの懐もある程度深くなり、最大排気量の450ccでもサンデーライダーが乗れなくは無い、そんな仕上がりになっている。ところが、2スト全盛期、最高峰マシンである2スト250は「普通の人間が乗ってはいけないシロモノ」であった。軽量、超絶パワフル、ちょっとミスしただけでどこかに飛んでいってしまうような凶暴さを秘めたマシン。今でも日本ではYZ250が市販されているが、その上級向けな性格は決して変わっていない。もしコースで2スト250のモトクロッサーがトランポから降りてきたら、そいつはタダモノではないと思ったほうがいいだろう。

画像2: 「今までインプレしたバイクの中で、一番びっくりした」

ところがこの2スト250が今アメリカで大人気なのだ。特に2スト300のモトクロッサーが非常に売れ行き好調なのだそうだ。2スト125はユースクラスで需要があるが、2スト250/300にはいわゆる選手権にマッチするクラスが無い(一応2スト250は4スト450と混走できるが、現代の4スト450が進化しすぎていて2ストをあえて選ぶ理由は皆無)。それにも関わらず売れ行き好調なのは、2ストに回帰する懐古主義なのではなく、アメリカのモトクロスライダー達がファンライド好きだからだ。これはカリフォルニアのとあるブランドマネージャーから聞いた話だが「アメリカ人はパワーがあるものが好きなんだと思う。だから4スト450に人気が集まっていたわけなんだが、2スト250や300は軽くて同じくらいパワフルだろう? レースをするわけじゃなければ、楽な2ストに乗りたいんだよ」とのこと。モトクロッサーはレーサーだが、レースをするものとして売れているのでは無く、遊びのツールとして売れている。競技としてサーフィンをする人より、圧倒的に今日のいい波を求めて海に出るサーファーのほうが多いことと似ているのかもしれない。

こういう背景の中、KTM・ハスクバーナでは新たに2スト250/300のモトクロッサーをリニューアルした。最近、国内メーカーの新型モトクロッサーは試乗の機会に恵まれることが少なくなったが、KTMジャパンはこのリニューアルに際し、メディア向け試乗車を特別に用意。それほど期待感にあふれたマシンなのだ。

画像3: 「今までインプレしたバイクの中で、一番びっくりした」

TBI(スロットルボディインジェクション)の真打ち登場

画像: TBI(スロットルボディインジェクション)の真打ち登場

すでにOff1でもインプレッション済みの2023年KTM125SXも画期的な2ストロークだった。KTMではじめて125ccの2ストロークにFIを採用したこと、そしてそのFIがKTMではじめて2ストでTBI(スロットルボディインジェクション)を採用していることがその理由だ。今回のTC250もこの流れを汲んでおり、やはりハスクバーナのモトクロッサーとして2スト250ではじめてFIを採用した。もちろんユニットはTBIだ。アナログのまま進化を止めていた2ストロークに電子制御がフル投入され生まれ変わるとどうなるのか。現代のTC250はスロットルポジションや流入エアをセンシングし、電子制御で排気デバイスや燃料噴射、点火タイミングを3次元マップでコントロールする。ジェッティングに右往左往する時代はもう終わりを告げたのだ。

2ストのFIはエンデューロモデルEXCシリーズに先行して投入されている。2017年に満を持してマーケットインした250/300EXC、TE250/300(EC250/300)はご存じの通りTPIと呼ばれる掃気ポートインジェクションのFIを採用している。推測の域を出ないが4スト同様のTBI形式をとらなかったのは、2ストのほうがインジェクターの霧化性能を問われたからだろう。インジェクターがキャブレター同様の霧化性能を発揮できなかった当時は、掃気ポートから燃料を噴射する必要があったが、インジェクターの進化にブレイクスルーがあり、2ストロークに耐えうる霧化性能を発揮できるようになったのではないか。TPIとTBIどちらが優れているのか、それは今のところ比べるべきプロダクトが出ていないためなんとも言えないところだが、現SX125やTC250の仕上がりをみても答えは出ていると感じる。

250/300EXC、TE250/300、EC250/300は今エンデューロにおけるマスターピースと言っていいだろう。事実、日本において最も売れているレーサーは2ストの250EXCであって4ストではない。このTC250は単にモトクロッサーとしての資質を問われるだけでなく、次期マスターピースのベースとしての素養も問われるのである。つまり、今季話題になっているTBIの真打ちが登場したと言えるのだ。

モーターのような出力特性

画像1: モーターのような出力特性

辻は興奮気味に続ける。「ものすごくリニアな特性なんですよ。欲しいと思っただけトルクが出てくれて、それがすごくスムーズです。まるでモーターみたいなんです。以前TPIのエンデューロバイクにも試乗しているのですが、あれともまるで違っています。しっかりモトクロッサーで、エンデュランサー的ではないと思います。方向性的には新しい125SXと同じです。

昔の全日本モトクロス選手権でスポーツランドSUGOを走っていた頃って路面がカチパンですごく滑りやすかったんですよ。だから、僕が現役の頃はキャブセッティングであえてデチューンして、ツキが良すぎないようなフィーリングを作ったほうがバイクが前に進んだんですが、このTC250ならスタンダードのままコントロールできますね。2スト250って低回転で意図しているより回ってしまうようなところがあるんですが、そういう神経質なところがないんです。高回転でも急激にパワーが立ち上がらず、まるで4ストのように緩やかにパワーが立ち上がるんですね。モトクロスビレッジでは高速域を試すことはできなかったので、もっと広いところでも乗ってみたいです。

そうだ、思い出したんですけど、現役当時にとあるAMAトップライダーのマシンに乗ったことあるんですよ。そのライダーが乗っていたエンジンによく似ていますね」

辻が言うおだやかな特性はTBIによるものだけではないだろう。1世代前のTC250からこのエンジンにはバランサーが入っていて、エンジンの振動をかなりの部分で打ち消している。まるでモーターのようだ! という感想はまさに250EXC/TE250にバランサーがはじめて装備された2016年モデルのものと同じだ。

画像2: モーターのような出力特性

「4ストのFC250に乗った時も思いましたが、新世代のハスクバーナの車体はとても軽く感じますし、KTM比でシート高がすこし低めでフレンドリーさがありますね。フープスに入るときも2速パンパンってあげて進入すると(4速)すごくいいフィーリングで走れます。速くて楽しい。本当にスゴイです。

1月は北米にいたのですが、実はカリフォルニアの”アウトドア”コースで何度もマービン・ムスキャンが新しい2ストの250SXに乗っているのをみかけました。もうスーパークロスのシーズン始まっているのにですよ? 普通はスーパークロストラックで450に乗り込んでるはずですよね。なんでだろうなってその時はあまり考えていなかったんですが、この新型2ストが楽しくてバイクの楽しさを心から感じたかったからなのかもなって思います。そうだとしたらステキじゃないですか」

ビギナー、ジャンキー稲垣がタイムを出しにいける2スト250

インプレのたびに毎度毎度「ビギナーです」と言うのも恐縮だけど、マジでビギナーのジャンキー稲垣です。2スト250? さすがに僕がインプレする必要ないでしょ。だってゼッタイそんな化け物バイク乗らないし、乗れないものって思ってました。今は土下座したい。

まるで怖さを感じない2スト250モトクロッサーは初めて。空ぶかししても感じることだけど、まずもって回転上昇が異常な鋭さを持っていないことが特徴だ。もちろんモトクロッサーだからダルさを覚えるほどではないけれど、歯が欠けそうな頑固煎餅が今までの2スト250だとしたら、新TC250はクラッカーくらいの感触である。歯が欠けそうなので思いっきり噛めないのと同じで、これまでの2スト250はおそるおそる開けるべきもの。そういう怖さがアイドリングですら伝わってくる。新TC250は安心してガブッとかじるつける、いや開けていける。歯が欠けないから。なんのこっちゃ。

画像: TC250 on ジャンキー稲垣 youtu.be

TC250 on ジャンキー稲垣

youtu.be

今回は10分ほどのセッションを4回ほど試したのだけれど、最後の方でようやく2ストらしい音を出せるようになってきた。というのもこのTC250、どの回転域でもばたついたりかぶりそうになったりすることがなく、スーパーフラットな特性なので3速固定でだらーっとモトクロスビレッジを回れてしまうのだ。さらに恐るべきコトに、4スト450や今までの2スト250だとエンストしてしまいそうで半クラッチを多用してしまったり、タイトなコーナーで回りづらかったりするのだけど、そういうところがまるでない。大げさでなく、しっかり2スト250をコントロール下における。モトクロスビレッジ随一難しいセクションだと思っている3コーナーのS字部分もどんなラインでも入っていける。これはホントにすごいことだ。2スト250なんていう化け物でタイムを狙いにいこうなんて思ったことはこれまでなかったけど、TC250では「これなら1分切れるかも!」と思わせてくれるのだ(切れなかったけど)。

サスの硬さを理解しやすかったのも好印象だった。エンジンと車体がものすごくいいのでとにかく調子にのりがちなのだが、どうにも接地感に欠ける。コーナーでサスが沈まないことでギクシャク感がある。特にこの日のモトクロスビレッジはドライだったからスリッパリーで、コーナリングのきっかけを硬めのサスでは取りづらかった。こういう形で明らかに「あ、このセッティングは自分のライディングには硬いんだ」と思えることはなかなか無かった。すべてが整っていて、自分に合っていない場所だけ明確に感じ取れたのだと思う。これはただ合わせればいいだけだ。次回乗れる機会があったら、もう少し詰めてみたい。

もう1日乗り込めば、僕も辻さんのような2ストらしいパーンという甲高い音を若干出せるんじゃないかなとも思った。もう少し時間が必要だけど、そもそもそう思わせる2スト250なんて出会ったことが無い。

モトクロスはレースだけじゃない。僕自身、レース参戦記をだしたばかりだけどいつもはフリーライドを楽しんでいる。サーフィンのように今日のバンクは気持ちいいだろうか、エッジを効かせてあの1コーナーを回れるかなと妄想しながらいつもトランポを走らせてコースへ向かう。最高に気持ちいい休日が送れればそれでいい。速くもなりたい、うまくもなりたい。モトクロス楽しい。2スト250/300のモトクロッサーがアメリカで売れているのは、モトクロスファンライドのマーケットをしっかり掴んでいるからだろう。モトクロス自体が活発化するための根源的なマーケットに向けたバイクが、楽しくないわけないじゃないか。

画像1: これが2ストモトクロッサーの極限だ。ハスクバーナTC250
画像2: これが2ストモトクロッサーの極限だ。ハスクバーナTC250

画像: 排気デバイスは電子制御、FIにはTBI式。そしてバルブの下方におさまっている小さな円形のものはバランサーである。この新世代エンジンより前にバランサーが導入されているが、TBI×バランサーがこの画期的な乗り味を演出していることは間違いの無いところだろう

排気デバイスは電子制御、FIにはTBI式。そしてバルブの下方におさまっている小さな円形のものはバランサーである。この新世代エンジンより前にバランサーが導入されているが、TBI×バランサーがこの画期的な乗り味を演出していることは間違いの無いところだろう

画像1: ビギナー、ジャンキー稲垣がタイムを出しにいける2スト250
画像2: ビギナー、ジャンキー稲垣がタイムを出しにいける2スト250
画像: マッピングはSTDとアドバンスからチョイスできる。SX125も同じように選べたのだが「アドバンスのほうが125でもこの250でも乗りやすさを感じました。コントロール性が高いのでタイヤが滑っている中でも挙動を掴めるからだと思います。STDは力の出方が寝ているのでグリップしてしまいかえって慣れなかったのではないでしょうか」と辻。点火、FIマッピングに加えて電子制御の排気デバイスが効くため、キャブレター時代よりもエンジンキャラクターが変わる幅が大きい

マッピングはSTDとアドバンスからチョイスできる。SX125も同じように選べたのだが「アドバンスのほうが125でもこの250でも乗りやすさを感じました。コントロール性が高いのでタイヤが滑っている中でも挙動を掴めるからだと思います。STDは力の出方が寝ているのでグリップしてしまいかえって慣れなかったのではないでしょうか」と辻。点火、FIマッピングに加えて電子制御の排気デバイスが効くため、キャブレター時代よりもエンジンキャラクターが変わる幅が大きい

画像3: ビギナー、ジャンキー稲垣がタイムを出しにいける2スト250
画像: KTMの250SX、125SXはサイドカバー横に大きなエアインテークがある。TC125、TC250は閉じてあって、エンジン特性が変わる。4ストのSX-F/FCもだいぶ印象が違ったのだ

KTMの250SX、125SXはサイドカバー横に大きなエアインテークがある。TC125、TC250は閉じてあって、エンジン特性が変わる。4ストのSX-F/FCもだいぶ印象が違ったのだ

画像4: ビギナー、ジャンキー稲垣がタイムを出しにいける2スト250
画像5: ビギナー、ジャンキー稲垣がタイムを出しにいける2スト250

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