イタリアのオフロード専門ブランド、BetaのRRシリーズ7台を一気乗り。「優しい」と言われる同社の最新モデルはいかに

海外まで試乗に行かずとも世界のエンデューロを体感できる、ワイズモトの体制

モトクロッサーの試乗はモトクロスコースで乗ればわかりやすいのだが、エンデューロマシンの試乗はフィールドとのマッチングが悩ましい。エンデューロマシンは林道ファンライディングから、クロスカントリー、そして本格オンタイムエンデューロと活用されるシーンが多様であり、さらに複雑なバリエーションを持つ路面やセクションを走る。そこで各メーカーは試乗会の会場選びに趣向をこらすのだが、その設定が日本の中で飛び抜けて面白いのがBetaのインポーターであるワイズモトスポーツさんである。今回OFF1が参加した試乗会の舞台となる富山県イオックスアローザも、長年ワイズモトを拠点として活動してきたライダーであり、エンデューロGPを経験した大神智樹がプロデュースしたエンデューロトラックである。

画像: 海外まで試乗に行かずとも世界のエンデューロを体感できる、ワイズモトの体制

エンデューロGPのコースというのは、アマチュアが多数おしよせるISDE(インターナショナルシックスデイズエンデューロ)のコースともまた違う。コーナーの緩急が大きく、特に大きなアールを描く高速コーナーは日本ではお目にかかれないものだ。さらには遠慮無く角度の深い逆キャンバーなどが設定されていて、パッと見た目はそれほどでもないのに実際にタイムを狙おうとすると難しい。低・中・高速全てのスロットルコントロールや、ボディアクション、いかにキレイにラインを繋げられるかなど様々なスキルが問われることになるし、ちょっとしたことでミスを誘発してしまう。だからこそマシンの善し悪しもとてもわかりやすいのである。

今回のテスターは、JNCCで活躍しているマルチタレントライダー内嶋亮。MTBダウンヒルの元チャンピオンという異色のキャリアも持ち合わせている。

Beta特有の“優しさ”

Betaはエンデューロの国、イタリアで生を受けオリジナルブランド(ここでは、他の会社からの買収などを受けず、自社資本で活動していることを指したい)を保ってきた。さらにそのラインナップの中心はエンデューロモデルであって、世界的にもっとも売れている主力モデルが2ストエンデューロマシンRR2T 250だというのだから希有なメーカーだ。通常、二輪メーカーの中心を担う商品というのはファン領域ではなく、カブを世界に向けて製造してきたホンダのように通勤通学向けの生活に密着したマシンにあることが多い。Betaというメーカーは、カブや売れ線のアドベンチャーバイクには目もくれず、ひたすらにCRだけを作ってきたホンダのようなものだと考えてもらえるといいかもしれない。同じくイタリアにはオリジナルブランドを保っているTMがあるが、こちらはさらに輪をかけてエンスーなブランドだ。どちらにも言えることは、まったく衰える気配がなく、我が道を進み続けていることだ。

画像: Beta特有の“優しさ”

最もBetaを表現するのに適した言葉は「優しい」だろう。内嶋の言葉を借りるとすれば「全部優しい。とりわけエンジン特性が優しいですね。スロットルの開け口のマイルドさであったりとか、極低回転時のエンジンストールタフネスだったりとか。トライアルマシンを作っているメーカーさんだからなのかな。アイドリングから少し先の回転数でクラッチつなぐようなシチュエーションでまったくストレスがないんですよ。モトクロッサーとは対極にあるなと思います。

かといってパワーが無いというわけじゃないんです。RR2T125に乗ると、そのあたりがとてもわかりやすいですね。実質的に低速トルクがしっかり出ているので、パワーバンドをあまり意識しなくても乗れてしまう。2スト125というのは低速トルクを犠牲に高回転域のパワーを出しているのが普通なので、走るにあたってパワーバンドを維持することがとても大事なのですが、その必要があまりない。もちろん速く走ろうとすると、やっぱりメリハリつけてパワーバンドを使いながら走ることにはなります」

2024モデルのエンデューロマシンをほとんどインプレッションしてきたOff1編集部として言えることは、近年のエンデューロマシンは優しい特性を目指しているということだ。扱いやすく、誰にでも乗れてしまう。だけれども、Betaの優しさはその中でも圧倒的であることをまず理解してもらいたい。他メーカーの車体をいかにマッピングやセッティングで優しい方向へ振ったとしても到達できない優しさがある。

ベストバランスのRR2T 200に、開けられるRR2T 125

画像1: ベストバランスのRR2T 200に、開けられるRR2T 125

Betaのマシンは、2ストの小排気量 RR2T 125/200に、中排気量 RR2T 250/300、4スト中排気量のRR4T 350/390、大排気量のRR4T 430/480と4セグメントに分けるのが最も適切だろう。用途やクラス的な問題もこのセグメントで大別できるのと、フレームやクランクケースもこのセグメントで共通化されている。

RR2T 125/200は、新型になってサスペンションのダンピング設定を見直したとのこと。エンジンのベースは同じだが、シンプルにキックスタート・混合給油のRR2T125、セルスターター・分離給油のRR2T 200といったスペックの違いがある。Betaのホームページにも書いてあるが、排気量の小さな125のほうが「純粋なレーシングスタイルのバイク」となる。実際、欧州のユースクラスは125に乗るのだが、エンジンが金切り声を上げながらテストトラックを走る若手の125は、凄まじく速い。200は「オフロードバイクビギナーからエンデューロ愛好家に最適」という立ち位置だ。日本のエンデューロは排気量でクラスを区別しないが、欧州では2ストなら125・250・300以上というクラス分けが一般的で、200という中間排気量は選手権向けではないという側面があることから、パワーバンドを外さず走ることが求められる難しい125に、トルクをプラスして扱いやすさに振ったマシンだということができる。

画像2: ベストバランスのRR2T 200に、開けられるRR2T 125

7台中(※RR4T 480のみ車輌が間に合わずインプレッション未達)、内嶋のベストチョイスはRR2T 200であった。「特にハードエンデューロにハマっていた時期に、RR2T 200に乗っていたことがあります。トライアルコースで試乗したら、もうこれしか考えられない! と思ってしまうほど惚れ込んでしまったんです。僕が乗っていた2019年式の200は1世代前のサスペンションで、エンジン・フレームもさほど変わっていません。でも、今日乗ってみると、こんなにパワーあったかな? しかも思っていた以上にいいな! と驚いてしまったんですよ。

200の強みは、まずコンパクトであることです。125をベースにしたフレームに、パワフルなエンジンが載っています。125に比べてトルク、パワーともにだいぶ余裕があるので、変速回数が減りますね。125では1速で進入するタイトなコーナーでも、2速のまま入っていけるのでスムーズなんです。おそらく7台中タイムも一番狙えるなと思いました。

オフロードバイクでミスするタイミングを思い出してみてください。実は歩くくらいのスロースピードの時がほとんどですよね。スピードが落ちているときは、バランスを崩しやすいのでミスが起きやすいのです。ミスを起こせば、ラインを外してしまうし、タイムも失ってしまう。クロスカントリーレースであれば、ライバルに抜かれてしまう。今回試乗したコースは、そういうミスを思いきり誘う嫌な設定でした。作ったやつの顔を見てみたい、と思って走っていたのですが(笑)、そういうミスしがちなセクションで125と200の差が出やすかったように思います。200であれば、ほんの少し極低速が早いペースを保って走れる。200はそういった部分でのバランスがとてもうまくとれているな、と感じました。125と250の中間に位置する排気量で、ベースは125なのですが125よりは250のフィーリングに近いんじゃないかな。ところがフレームが小さいからか旋回性は250よりも高いという、まさにいいとこどりのバランスなんです。さらに150〜200ccの中間排気量のマシンは125よりもビギナー向けなので、高回転まで回らず低中速をうまく使うエンジンに仕上がっていることが多いのですが、24モデルではしっかり高回転まで回り、125ライクに走ることもできるので本当に懐が深いですよ。

125は低速トルクがしっかり出ているところに好感が持てましたね。モトクロッサーに比べれば急激なパワーの出方はしていなくて、豊かな低速からフラットに立ち上がっていくパワーカーブを描いていると思います。ただ今日みたいな難しいコースは、正直125殺しと言ってもおかしくないですね。ロースピードでややこしい路面のキャンバーに入っていくようなシチュエーションがありましたが、2速では不足するのに1速では路面をかきむしってしまう。低速トルクがしっかり出ているとはいえ、やはり125なので難しい。ただ、これだけ低速トルクがあるのにちゃんと高回転まで回るのは、凄いことだと思いますよ。軽快ですばしっこい125が欲しい、というエキスパートのライダーの声にしっかり応えています。今日の他の6台とは違って、モトクロスコースで遊んでも楽しめてしまうのがこの125です。ある意味、なんでも出来るマシンですね。

画像3: ベストバランスのRR2T 200に、開けられるRR2T 125

それと両方ともサスペンションのセッティングが秀逸だなと思いました。125はだいぶ柔らかめに設定してあって、200はそれより硬めだけれども250ほどではないといった感触。このセッティングが僕の軽めの体重にマッチしていたのもあって200のフィーリングがよかったんだと思います」

なお、2023年は渡辺敬太×RR2T 125がJNCCのCOMP-Aで、史上初のAAクラス昇格。日本最強のヤングクロスカントリーライダーを育てたマシンなのだ。そのポテンシャルの高さは、特筆に値するハズ。

画像4: ベストバランスのRR2T 200に、開けられるRR2T 125

250こそシャープな仕上がり。エンデューロのスタンダードRR2T 250/300を問う

2000年代、オフロードバイクの世界は2ストロークから4ストロークへ一気に様変わりした。エンデューロでもWR250Fが4スト化の流れを牽引していたのだが、部品点数の多さからくる価格上昇や、2ストが向いているとされるハードエンデューロの盛り上がりなどにより、2ストが復権。いまや、2ストの250はエンデューロのスタンダードであり、2ストの300はハードエンデューロのスタンダードと言えるほどになっている。

画像: 250こそシャープな仕上がり。エンデューロのスタンダードRR2T 250/300を問う

2ストの250と言えば、90年代はベテランしか扱えない領域のモンスターマシンだったものだが、その溢れるパフォーマンスを「余裕」と捉え直し、扱いやすさへ振ったのが最近のエンデューロマシンだと解釈したい。300などとても常人の乗るものではなかった時代は終わり、むしろ300こそ余裕と扱いやすさと軽さを両立したマシンである。

「250は300よりもシャープな仕上がりに感じました。クラッチを切ってアクセルをスナッピングするだけでレスポンスの良さがよくわかります。300はあおっても上まで回らないですね。乗ってみても250のツキの良さは気持ちがいい。回転数がシャープに上がるので、操ってる楽しさもあります。ところが、ロスが多いのも250の特徴でしょう。300は回転数がシャープにあがらない分、2ストらしさに書けるのですがスムーズに立ち上がっていって路面を掻きむしらない。300のほうが優しいです。

岩がむき出しになっていた上りでは、かなり顕著に300の良さが出ていました。サスセッティングでもだいぶ変わってくるところだと思いますが。ただ、250の軽快さは捨てがたいですね。車体重量は変わらないはずですが、エンジンが軽く回る分250のほうが圧倒的に軽く感じるのです。この軽快さは下りなどでも武器になります。

それと、300は300らしい溢れる低速トルクを活かした乗り方しかできないのですが、250はトルクがしっかりあるので300らしい乗り方にも対応できる。とても秀逸です」と内嶋。

とにかく一度乗ってみるべき。他にはない4ストのフィーリング

画像1: とにかく一度乗ってみるべき。他にはない4ストのフィーリング

Betaは4スト250をラインナップしていない。4ストの最少排気量は350ccで、390、430、480と変則的な排気量である。なぜこんなに小刻みなのか。そしてなぜ250クラスがないのか。その理由は、4ストのBetaに乗ってみれば見えてくる。本来ベテラン向けの中〜大排気量だが、まったく気難しさの片鱗すら見せないのだ。ここまで乗りやすければ、4スト250を生産する必要がないのかもしれない……と。

また非常におもしろいのが、そのエンジンのスペックだ。

RR4T350…ボア×ストローク88×57.4mm 圧縮比13.19:1
RR4T390…ボア×ストローク88×63.4mm 圧縮比12.48:1
RR4T430…ボア×ストローク95×60.8mm 圧縮比12.3:1
RR4T480…ボア×ストローク100×60.8mm 圧縮比11.86:1

KTMの450EXC-Fは95×63.4、ヤマハYZ450FXは97×60.8。RR4T390と450EXC-F、RR4T430/480とYZ450FXはストローク値が同じ。なお、この4機種中もっともストロークが長いのは、なんとRR4T390。350/390はストローク違い、430/480はボア違いという設計であり、やはり特徴的なのは390のストロークの長さだろう。他の車種は、他社と比べてもボアスト比にそれほど特徴がない。

画像2: とにかく一度乗ってみるべき。他にはない4ストのフィーリング

「4ストの大排気量が難しく感じる理由は、エンジンの一発が大きいことに由来すると思います。エンジンがストロークすることでタイヤがまわる距離が大きく、極低速の調整がしづらいのです。250の1速アイドリング付近で走るような速度域では頻繁にクラッチでスピードを殺していかなければいけないし、爆発の感覚が長いからエンジンストールも頻繁に起きてしまうのです。

Betaの4ストはその難しさをほとんど感じません。ベストチョイスはRR2T200と言いましたが、2番目を選ぶならRR4T350か430だと思います。とてもミスをしづらいバイクなんですよ。2ストと比べるとさすがに重さを感じるのですが、その重さもあまりネガティブに働くシーンがないんです。たとえば下ってから180度ターンみたいな嫌らしいコーナーで、轍をきれいにトレースしないといけない難しいセクションで、しっかり行きたいところへバイクが進んでくれるんですよ。4ストの大排気量ってこういうところすごく苦手じゃないですか、それが全然ない。その扱いやすさを理解しながら走ると、すごくなめらかにラフロードを滑るように走っていくんです。タイヤの接地感や路面追従性に対して車体の重さがとてもポジティブに働いていて、勝手にタイヤを路面に押し付けてくれてるような印象があります。

画像3: とにかく一度乗ってみるべき。他にはない4ストのフィーリング

トルクの出方も非常にコントローラブルですね。丸太がすっごく楽に越えられるんですよ。アクセルをひねるとぬるっとフロントが上がってくるというか。タイミングを非常にとりやすいんです。ストールタフネスも非常に高くて、大排気量なのにエンストしそうだなという傾向がほとんどないんです。

位置づけで言うと、350と430が同じカテゴリだと思います。同じようなマイルドさを感じました。390は、350/430と比べるとすこし軽快感があって走るバイクに仕上がっています。これって、ロングストロークだからだと思うんですよ。実はロングストロークになればなるほど難しさが出てくる。エンジンの一発が長いからですね。ショートストロークだと高回転型で難しそうに聞こえますが、実は開け口は扱いやすいのです」

2016年、Betaのスティーブ・ホルコムが初めてEnduro GPのE3クラスでタイトルをものにした。その後、チーム内に最大の宿敵であるブラッド・フリーマンが現れ、以降Betaはタイトルを欲しいがままにしている。2022年をのぞき、マニュファクチャラーもBetaが総なめ。すさまじく扱いやすいマシンを生産しているため、彼らはどれだけチューニングしたマシンに乗っているのだろう、と思いきや本当に市販と大差ないのだそうだ。Off1では、ホルコムの本番マシンを取材する機会に恵まれ、サスの中身まで見せられたことがあるが、本当に市販マシンの先行開発バージョンでしかなく市販と同じだった。Enduro GPというのは、ある意味モトクロス以上にスプリントだ。30分も走り続けるモトクロスとは違い、1つ1つのテストは5〜10分。そこに全力を投入するのだから、彼ら世界レベルのライダーに必要なのはパワフルさのみ。リエゾンにおける扱いやすさなどどうでもいいはず。事実他メーカーのファクトリーマシンは、MXGP以上にパワー&硬さを上げたフルチューンドマシンであることも取材済み。なのに、なぜBetaだけが柔らかく、優しいマシンで勝利を得ることができるのか。このBetaの不思議は、エンデューロ界の最大の謎、と当編集部では呼んでいる。ただただ、結果だけは間違いがない。

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