軽い、飛ぶ、曲がる。まるで巨大化したエンデューロマシンのような799cc並列2気筒アドベンチャーバイクが日本上陸。その驚異的なオフロード性能の秘密に迫る

これは、BMW HP2やKTM 950スーパーエンデューロの再来である

デカいオフロードバイクで困難を乗り越えながら地球を冒険する……パリ・ダカ全盛期のビッグオフといえば、そんなイメージだったろう。しかし、そのパリ・ダカがマシン開発の技術発展によって高まるスピードとそれによるリスクを危険視し、大排気量のエンジンを規制して以来、450ccのレーサーをベースとしたマシンで戦うようになって久しい。もはや過去のものとなったラリーイメージのビッグオフ、つまり現代のアドベンチャーバイクは、ざっくり言えば「オフを走れるかもしれない快適なツアラー」でしかないことが多い。

そんな中、2025年日本に上陸したKOVE 800X RALLYは、なんとなく走れそうというイメージではなくマジでオフロードを走れるアドベンチャーバイクだ。いや、むしろアドベンチャーバイクのカッコをしたオフロードバイクと書いた方がわかりやすいかもしれない。装備重量176kg、95馬力を発揮する2気筒エンジンに、フロント270mm/リア250mmという破格のサスペンションストローク、そして293mmという圧倒的な最低地上高、もちろんホイールはエンデューロタイヤを許容する21/18インチである。アドベンチャーバイクと言えば、サイドとトップにピカピカのパニアケースを装着するのが定番だが、なんとこの800X RALLYにはパニアどころか、タンデムステップすら無い。超硬派な一人乗り仕様だ。

画像: これは、BMW HP2やKTM 950スーパーエンデューロの再来である

KOVE 800Xシリーズは、共通の799cc水冷並列2気筒DOHCエンジンを搭載する「RALLY」と「PRO」の2つのモデルで構成されているが、「PRO」はそこまで思い切った設計ではなくツーリング指向である。それでも半乾燥重量190kg、21/18インチタイヤで一般的なアドベンチャーバイクに比べれば、オフ指向はかなり強い。

KOVE 800X RALLYは、見かけ上はアドベンチャーバイクでありながら、その本質は20年前に登場して衝撃を与えたBMW HP2やKTM 950 Super Enduroの系譜を継ぐ「ビッグオフ」の現代的解釈と言える。しかし、新興ブランドであるがゆえの長期信頼性や、日本国内におけるサポート体制といった課題も見え隠れする。

この革命児が日本のオフロード愛好家の心をどれだけ掴めるのか—―そのポテンシャルを確かめるべく、宮城県のバイクショップ「ストレンジモーターサイクル」の和泉拓氏とともに、徹底的にこのバイクを試乗した。

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アドベンチャーバイクにおける「軽さ」とは何か

このバイクの乗り心地で最初に感じるのは、驚異的な「軽さ」だ。和泉氏は最初に触れた印象をこう語る。「取り回しの時点ですでに『軽い』と感じる軽さです。この軽さがあれば様々な状況でアドバンテージになります。オフロードではもちろん、街中での取り回しでも、運転が上手くない人でも扱いやすいと思います」

画像: アドベンチャーバイクにおける「軽さ」とは何か

一方で高速道路走行では、軽量さゆえの課題もある。和泉氏は「高速道路に乗った時に、ちょっと軽すぎてハンドリングが若干ふらつくまではいかないけど、気を抜けない感はありました。ただ、これはオフロードバイクなら一般的な性質とも言えますね。タイヤの特性もかなり影響するし、フロントにビードストッパーが標準で1個だけ入っていて全然バランスが取れていなかったこともあります」と指摘する。

軽さによって取り回しから操縦性まで全てが異次元の領域に達しているのだが、重いことによるメリットもオートバイには存在する。軽さが武器となるモトクロッサーでも、直進安定性や、路面追従性などは「重さ」によって生まれるものだ。アドベンチャーバイクの場合、ベース重量がレーサーに比べて圧倒的に重いため、少なくともロースピードでの直進安定性などには軽さが影響してこない場合が多い。つまり、アドベンチャーバイクの車重に関しては軽ければ軽い方がいい、という側面がある。実際、和泉氏もこの車体の軽さが影響するデメリットは、高速道路くらいしか思い当たらなかった。

卓越したサスペンション性能

KOVE 800X RALLYの最大の技術的特徴は、その卓越したサスペンション性能にある。フロント270mm、リア250mmという長いストロークを持ちながらも、シート高は895mmと比較的低く抑えられている。

和泉氏は「このサスペンション、特にフロントフォークが、ツインチャンバーという現行モトクロッサーに採用されている構造そのままなんです。ツインチャンバーの利点は、奥のコンプダンパー、コンプチャンバー付近が踏ん張ってくれるので、初期を柔らかく設定できることです。これにより、オンロードではしなやかな乗り心地を確保しながら、ハードなオフロードでは奥でしっかり支えるというプログレッシブ特性を実現しています。

画像1: 卓越したサスペンション性能
画像2: 卓越したサスペンション性能

乗ってみるとサスペンションは本当に懐が深いです。朝一、トラックから車体を降ろした時は、100kmぐらいしか走っていない新車状態だったので、まだ動きが渋くて、林道を走っても少し硬いなと感じました。しかし1日モトクロスコースを走ったら、だいぶ馴染んできて、今は減衰を抜いた状態だと林道もかなり安定して走れます」と言う。そもそもモトクロスコースでナラシをするアドベンチャーバイクなんて聞いたことがないのだが。

前述した通り、街中の舗装路でも快適な乗り心地が確保されている。和泉氏は「舗装路でも思ったよりピッチングが大きくないですね。シングルディスクなのでブレーキがそこまで効かないのと、初期のタッチが急に立ち上がるタイプではないので、急ブレーキをかけてもノーズダイブしにくいセッティングになっています」と評価する。

しっかりアタリが出たあとにオフロードで乗り込むと、このサスペンションの実力が浮き彫りになった。「アドベンチャーバイクなのに、モトクロスコースに自走で来て、モトクロスを楽しめるレベルのサスペンションです。スタンダードセッティングがかなり減衰を抜いた状態で出荷されているので、それをかなり締めていく必要があるのですが、それでも結構なジャンプを飛んでも平気なぐらい。かつ、それでいてそんなに硬さを感じない。ストロークが長いからですね。このコースにはダブルジャンプがあるんですが、1個目をなめてバックサイドで着地しようと思ったらちょっと飛びすぎちゃって、思いっきり間のフラットなところに着地したんですが、全くフルボトムしないんです。全然耐えられます。慣れればフープスも2個ずつ飛べるし、大きなジャンプも相当なサイズまで飛べるだろうと思います。IAならビッグテーブルもいけるんじゃないかな。

ほとんどのアドベンチャーバイクは、本格的にオフロードを走ろうと思うとサスペンションをしっかりモディファイしないと難しい。リバルビングでは心許ないので、カートリッジ式にアップデートしたりすると、数十万円かかってしまう。しかし、この脚はセッティングの幅が広く、エンデューロ的なことからそれこそモトクロスまでこなせるほどなので、モディファイの必要はないでしょう。

画像3: 卓越したサスペンション性能

エンデューロコースを走ってみましたが、やはりサスペンションの良さと軽さで、割となんとでもなるという感じです。小回りについては、ハンドルの切れ角は比較的あるのですが、ホイールベースが長いので純粋なエンデューロバイクほどくるっとは回りません。しかし、それなりのライン取りをすれば狭いコーナーもなんとかなりますし、足が届くのでフローティングターンなども比較的簡単にできます。

ガレ場や木の根が張り出した難所では比較的弾かれるんですけど、サスペンションの伸び切ったところ、初期の優しいところが使えるので、ペースを上げても走れるという感じですね。最低地上高がすごく高いので、岩場や丸太などで腹が引っかかって、リアタイヤが接地できずに動けなくなるというトラブルが発生しにくいのも魅力です。今日のコースのような岩場を走ったり、ハードなコースを走っている人が買っても、がっかりしないように作られていることがビンビンに伝わってきます。

トレールバイクよりもモトクロスコースを走れると思います。トレールバイクは底付きしますからね」

数多くのバイクで様々なオフロードを走り込んできた和泉氏がこう評価するほど、KOVE 800X RALLYのオフロード性能は突出している。

画像4: 卓越したサスペンション性能

実用的なエンジン特性

799cc水冷4ストロークDOHC並列2気筒エンジンは、KTM系と同じ275度位相の変則的クランクでパルス感とトラクションを演出する。見た目はKTMのLC4エンジンにかなり似ているものの、その感触は独特のものだった。実に95PSのハイパワーエンジンの特性は、オフロード性能を重視しながらも、日常的な使いやすさも考慮されている。

画像1: 実用的なエンジン特性
画像2: 実用的なエンジン特性

和泉氏は「エンジン特性は非常に興味深いですね。特にスロットル開度5%から10%ぐらいのところはものすごく良くて、100点満点なら120点つけたいぐらいです。スロットルに忠実に、エンブレ状態からちょっと開けるというアクションにほぼシームレスにつながってくるんです。これにより、一般道で車の後ろを走っている時に、開け閉めでギクシャクせず、ものすごく疲れにくい特性になっています」と高く評価する。

低速トルクも十分あり、どこまで低回転でエンジンが粘るかという観点では「6速45kmでもギリギリいけて、6速50kmだったらまあまあ普通に走る」という結果だった。和泉氏はこの点について「一般道で普通の車の後ろを走っても、シフトで忙しくならないですね。ワインディングを走るのも、ほぼ5速や4速固定のまま60kmでダラダラと流せるので、すごく乗りやすい。2000回転ぐらいから普通に使えるという感じで、この手のバイクとしては異常に下がある印象。ドン付きもなく本当に不思議です。2500回転ぐらいからは結構パルス感があって、ツインらしさが顔を出します。

画像3: 実用的なエンジン特性

ライディングモードはECOとSPORTが選べます。ECOモードは低回転から穏やかなレスポンスで、3000から3500回転あたりを境に振動がどんどん薄くなってパルス感がなくなり、キレイに回りはじめます。6000-7000回転でようやく高周波の振動が顔を出す感じですね。SPORTモードにすると2000回転付近にヤマハYZ250FXなどに見られるような演出的なトルクの立ち上がりがあります。僕の好みとしてはちょっと激しすぎる面もありますが、速いなとは感じます。僕はダートでもECOモードで走るほうが好きかな。

パワーは他社の700cc、800ccクラスと比べて遜色ないレベルです。KTM 790アドベンチャーでも実測90馬力はないぐらいですからね。テネレは私が自分でシャシダイ(注:シャシーダイナモ)で測った時に65馬力ぐらいだったので、テネレよりは圧倒的に速いですし、KTMの890や790あたりと比べられるレベルです」と評価している。

昨今のアドベンチャーバイクと言えば、きめ細やかなライディングモードに寄与するライドバイワイヤ(電子スロットル)が搭載されているのが一般的。しかし、このKOVE800X RALLYはメカニカルスロットルでありながら、しっかりとライディングモードの切り替えに対応している。エンジンとスロットルのダイレクト感が薄くなりがちな電子スロットルを避けて、オートバイとしてよりプリミティブな操作感を重視した結果だろうが、しっかり必要十分にモード切替ができるところがニクイ。

タイヤ選択の幅広さ

タイヤはフロント90/90-21、リア140/80-18でチューブタイヤを装備しており、一般的なエンデューロタイヤが履ける仕様。シチュエーションに応じた多彩なタイヤ選択が可能だ。

「アドベンチャーバイクは通常リムが太すぎて140サイズのタイヤだと装着しにくいため、、本格的にオフロードで使うのが目的ならリムを換装するのが定番です。が、このバイクなら標準ホイールのままエンデューロタイヤからロードタイヤまで幅広く選べます。2.5のリムを装備しており、ビードストッパーを2つ付ければガンガン空気圧を落として走ることもできます。一方で140/80あたりのロードタイヤも履けるので、当然ツーリングはいけるし、エンデューロ用のモディファイも比較的やりやすいですね。

画像1: タイヤ選択の幅広さ

シングルディスクのブレーキは効かないわけではないけど、がっちり効くわけでもなく、見た目通りという感じです。4ポットダブルディスクのような一般的なアドベンチャーバイクのガチっと効くブレーキを想像すると驚くかもしれません。もちろんリアもあんまり効きません。もともとタンデムステップもないバイクなので、荷物を積む、あるいは2人乗りの重量に耐える制動力は設計上想定されていないのでしょう。オフを走る僕らにとってはそれが最高なんです。ダブルディスクにして4ポットつけて重くして、岩に引っかかるぐらいなら、この方が全然いい。前から見るとわかるのですが、タイヤからディスクがほんのちょっとしか出ていません。フロントタイヤの通り道を考えれば、ディスクが当たるということをほぼほぼ気にしなくていいんです」と、オフロード走行での実用性を重視した設計を評価している。

画像2: タイヤ選択の幅広さ

想定ユーザー像と可能性

和泉氏はこれまで自前のセロー700(魔改造されたヤマハテネレ700)で全日本エンデューロやハードエンデューロに参戦してきたが、そういった全体の1%以下しかいないような特殊なライダーとしてのニッチな観点ではどうだろうか。「まず大前提として、岩でヒットしないようにごついアンダーガードが必要と感じます。でも、多分それだけでCGCなら出られます」と評価し、「あとは、この辺(カウル部分)はさすがに邪魔だから外して、レバー類を可倒式のタイプにして、オープンハンドガードつけて終わりという感じです。できればフロントスプロケを1丁か2丁落としてより低速を使えるようにしたいですね。それでタイヤをM5Bとかに履き替えれば、さわやかクラスだったらコンディションを問わず回れます。

アドベンチャーバイクって激しいオフロードイメージでPRされているけど、実際には中身が伴っていないことが多いです。プロモーションビデオでモトクロスコースをバンバン飛んでいるけど、買うとモトクロスコース走行はしないでくださいって書いてある。でもこのKOVE 800RALLYはモトクロスIAが乗ったら本当にバンバン飛べると思います。多分ダブルジャンプも飛べるハズ。僕は無理ですけど、プロモーション映像みたいなことが本当にできちゃうバイクって感じです。

画像: 想定ユーザー像と可能性

細かい部分も、見れば見るほど本当にオフロードを知ってるなというか、一般の感覚からしたらかなりコアな思考のオフロードユーザーでも満足する作りをしています。例えばチェーンガイドがすごくまともなゴツいものが最初から付いていたりします。これ、普通はメーカー純正では強度が持たないからって後から交換する定番パーツなんですよ。KOVEはそのへん『わかってる』んですよねぇ」

オフロード至上主義の新たな選択肢

KOVE 800X RALLYは、徹底してオフロード性能を追求しながらも、一般道でのツーリング適性も備えた特異なアドベンチャーバイクである。和泉氏は「カウル付いているのが不思議なぐらいで、カウルがあるからアドベンチャーバイクカテゴリーに分類されるんでしょうが、本来的には2気筒ビッグオフというカテゴリーです。オフロードを走りたいユーザーが追加でほぼ何もしなくていいというのが素晴らしいですね」と、メーカー純正の完成度の高さを評価している。

画像: オフロード至上主義の新たな選択肢

軽い車体重量と多目的性能を持ちながら激しいコース走行も可能、そして一般道まで幅広く対応できる懐の深さは、現代のアドベンチャーバイクの中でも際立っている。二人乗りできない、パニアケースが着かない、トラクションコントロールやクルーズコントロールなど便利機能がないなど、ステレオタイプなアドベンチャーバイクを探している人には決して選ばれない特殊なバイクではあるが、その性能の高さとコンセプトの明確さは、純粋なオフロードファンの心を掴むに十分だろう。

和泉氏の最後の言葉が、このバイクを語る上で最も適切かもしれない。「特殊だけど本当に唯一無二という感じですね。面白かったです」

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