日本が誇る最強のXCマシン、ヤマハYZ250FXに乗っているんだから、最難のレースも走れるはず。というわけでJNCC鈴蘭に出てみたよ
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youtu.be出るレース間違えた?
去年、ヤマハYZ450FXで修行さながらにレース参戦しまくってたので、排気量を下げてYZ250FXに乗ってる今年は多少難しいレースも走れるようになっているに違いない。スペック上、車重は4kgしか違わないからそれほど重くないはずなんだが、ヨンゴーは誰に言わせてもモンスターである。溢れるパワーに怒濤のトルク、そしてどっしりと感じる重量。僕は、天下一武道会の孫悟空よろしく、足に手に枷をつけて2024年のシーズンを過ごしてきたのだ。ニーゴーに乗る今年は絶好調のハズ。
バイクメディアの取材がある関係上、僕らのレースシーズンは全日本選手権などが始まる春とはズレていて、冬と夏がメインとなる。春の開幕取材を終えて梅雨時期が来ると、いよいよ僕らのレースシーズンがスタートする(勝手に僕が言ってるだけですけど)。2025年の個人的開幕戦、どれにしようかなと思っていた矢先にSTARK VARG使いの濱原颯道さんから「今度、JNCCの鈴蘭に出るんですよ」と聞いて、なんだか興味がわいてきた。鈴蘭か。北アルプスを一望できる爽快なコースだよな、たしか2011年の初開催時には僕も取材に行った記憶があるし、それ以降何度も訪れている。いつもと違う植生の新鮮さと、標高の高さからくる涼しいフィールドの記憶が蘇ってくる。ここのところ海外出張も続いていて家族ともあまり遊べていなかったし、ファミリーキャンプついでに鈴蘭へ行こう! とあっさり遠征を決めた。

ファミリーキャンプ

2011年鈴蘭。ほら、さわやか極まりない
ところがクロスカントリー系の知り合いに会うたびに「え、まじで鈴蘭出るの?」「なんで鈴蘭に……」「もう忘れたの?」と口々に言われることに。あれ? 鈴蘭、爽快なコースじゃなかったっけ。背景に冠雪した北アルプスが映ってさぁ、ほらほら。難しいところはショータイムっていうところくらいで、あとはなんてことないコース……くらいに思っていたんだけど、それはどうやら美化された、または都合の悪い部分の抜け落ちた記憶だったらしい。
ガレ OR ツルツル
日本のクロスカントリーレースの歴史をまとめた総写真集とも言うべき我がGoogleフォトをあらためて遡ってみたところ、たしかに鈴蘭はとても難しいレースのように見えた。爽快な年は初年度から数年、特に初年度はふもとから頂上まで延々と続くヒルクライムがめちゃくちゃに気持ちよさそうだったが、数年後はどんどん路面が荒れて泥に埋まっているライダーの写真が増えてくる。
スキー場を使ったクロスカントリーの場合、冬季営業に備えて通常レース後に路面を補修するのだが、この鈴蘭は廃業したゲレンデなので補修する必要がない。そのため、荒れた路面は雪解けによってさらに新たな表情を見せ、次の年、そしてさらにその次の年とライダーを苦しめてきた。まるで原野のようなそのフィールドをして「ワイルドボア」とJNCC星野さんが名付けたのを僕はなぜ忘れたのだろうか。ていうかそもそも出たこと無かったんだな。

2011年鈴蘭
近年、荒れたコース上はほぼ全面にわたってガレ路面が表出している。その上、至る所から湧き水が吹き出ており路面はぐちゃぐちゃに。さらに黄土色の土質がくせ者で、タイヤのブロックをまったく受け止めようとしてくれない。そうだった。鈴蘭は、ガレか泥しかなかったんだ。おまけに今年のレース日1週間前から、天気予報は100%の雨予報。多くのJNCCファンが天に祈ったハズだが、その願いは聞き届けられず、土・日ともに時間雨量3〜5mmほどの強めの雨に見舞われることとなった。
こうなるとレース会場は、タイヤの話題でもちきりになる。どんなタイヤで、中身はどうするのか。みんな周りの様子を探りながら、タイヤ談義で盛り上がる。僕はというと、ちょっと迷いながらも濱原颯道さんがおすすめするM5Bに逆らいつつ、IRCのガミータイヤ、JX8ゲコタワイドサイズをチョイスした。

今回はゼッケンをちゃんと作り気分は上々

リアタイヤにJX8 140サイズをチョイス。ムースはX-GRIP
ところが、会場のトップライダー達は軒並みガミーコンパウンドではなく、硬めのタイヤやゲタタイヤをチョイスしていた。特にレジェンドライダーである鈴木健二さんの言葉は僕を震撼させた。「以前、ガミータイヤで鈴蘭を走ったら、2周くらいで全部ブロックが飛んだと思ったんだ。で、ピットに入って『ブロック飛んじゃったよ!』って叫んだら、メカニックからブロック全部残ってますよって言われたわけ。つまりそのくらいガミーコンパウンドではグリップしないんだよ」。なんたることだ。僕は、とんでもない勘違いをしたのかもしれない。確固たる信念を持ってガミータイヤを選んできたが、いとも簡単に揺れる信念。弱すぎる。
オフロードタイヤというのは、転がっているかいないかで、求める性能がまったく変わってくる。僕ら初中級レベルのライダーにとって大事なのは、初速をいかに稼げるかである。何度も何度もタイヤをゼロスピード近くまで止め、そこから再発進しなければならない。常にタイヤを回し続け、さらにはタイヤに荷重をかけてつぶして走れる上級者とはワケが違うのだ。初速をつけない限り、ゲレンデは登れない。強く思う。僕らが求めるタイヤは、上級者とは違うんだよ! 僕の下手さをなめんなよ! なお、僕の想定は、ツルツルの路面よりも、ガレから初速を稼ぐ方が多そうだということ、そして怖くなってアクセルを緩めるのもガレだろうなというものだった。もし、ガレが難所のターゲットになるならエアボリュームを稼げた方がガレ発進には強い。だから、JX8ゲコタワイドサイズなのである。大丈夫だ、自分の下手さを信じろ、俺。
ともあれ、鈴蘭はガレ OR ツルツル。この2つの路面しかなく、どちらにマシンのセッティングを合わせるかが勝負の分かれ目であることは間違いない。
いかにマディのゲレンデが苦しいか
僕がエントリーしたのは、レース時間90分となるFUN GPの初心者向けクラス「FUN-D」。ガレの難所であるオロチなども無く、さらには当日のマディコンディションを鑑みてコースは半分くらいカットされてしまった。SNS上ではがっかりするエントラントの声も多かったが、レースが始まってみるとおそらくその多くは「カットされてて心底よかった」と思ったに違いない。

PHOTO/JNCC 右端に映るピンクが僕
いつも通りほぼ最後尾からスタートした僕は、1周目からスタック地獄を切り抜けていくことになる。3つめくらいの上り返しですでに「こんなのムリだよ!」と叫ぶレベルで難しい。上りの中腹で止まってしまうともう再発進は困難で、かといってふもとに下るのも時間がかかる。ああ、こうやって人はスタックしていくのだ……と思った。

が、思い切って滑る路面を無視して全開で再発進を試みると、意外にグリップすることに気づく。路面の表層はつるつるだが、それをタイヤのブロックでのけてしまえばガレが出てくるのである。JX8のワイドサイズはガレならしっかりグリップしてくれるのだ。これはレースを走っていて如実に感じるところだった。序盤のうちから、あえてガレが多めの路面を探して走ることで、少し人と違うラインを探ることができたし、そうしてスタック地獄をクリアしていくことに快感を覚えた。とにかくバイクを斜面に垂直にしてタイヤを意地でも押しつける方向にキープ、身体を使って登りきるまで耐える。ステップからはすぐに脚を離してしまうが、それでも荷重を抜かないように内転筋でシートを掴み続ける。筋トレも役に立っているなと思った。とにかく至る所の筋肉を動員し続けるので、ふと手首のGarminを見たらだいたい心拍数は170くらいをキープしている。ずっと高強度運動じゃん……。どうりでしんどいわけだ。痩せちゃう。

ここから再発進できたのすごくないですか。やっぱJX8 140サイズはアタリであった
3周目くらいからは、モトクロスのスタート風にゼロスピードから3速で全開にして初速をつけることも覚え始めた、というか10年以上前に誰かに習ったのを思い出した。僕はライテクだけはたくさん書いてきたのでいっぱしに知識だけはある。ただ、埋もれてしまっている上に、思い出せたとしても身体が動かないだけである。ソフト99の超撥水フィルム、スポルファのレインホッパーを装着したゴーグルも3周目に音を上げてしまった(フィルムの内側に泥が入り込んだ)ので、4周目に入る前にピットインしてシートの泥を拭い、ゴーグルとグローブを新品に替えて再びコースイン。視界とバイクに触れる部分をリフレッシュした効果は絶大で、これならまだまだ倍くらい走れる! と思うくらい調子が良かった。その後も3速スタートを多用しまくり、いい気になって走る僕。しかし、別にうまくなったわけではないので、ちょっとガレていたり、木の根があったりすると頻繁に半クラッチを当ててスピードを調整してしまうのだった。これが、いわゆる「クラッチを揉んでしまう」病だ。以前、レースで使うにはクラッチが弱いはずのホンダCRF250Lで神がかった走りをする世利和輝さんに、なんでクラッチ逝かないのか聞いたところ「クラッチは頻繁に休ませる。クラッチはつないでおけば、オイルと馴染んですぐに冷えるから、とにかくクラッチレバーに触らないように走る」と教えてもらったことを思い出した。が、思い出した頃には時すでに遅しであった。YZ250FXのクラッチは、僕の雑な乗り方に耐えきれず、ついに滑り出してしまったのである。
4周目、60分時点で坂を上れる状態ではなくなり、レースからアウト。体力はまだ残っていたので、かなり悔しいリタイアになってしまった。結構走れてたよな、と思ったけど、全然上位陣に届くとは思えないリザルトだった。でも楽しかったら、まぁ、いいか。

くやしい…
マディにリベンジしたい
というような話をSNSで披露していたら、ある人はこの鈴蘭でYZ250FXのトラクションコントロールをマックスに設定していたとコメントをもらった。僕はというと、以前高井富士に出た時に失速する感触が嫌でトラクションコントロールを積極的に使えずにいた。その方曰く、失速感に耐えて開け続ければ勝手にのぼっていく、ということらしい。そんなことあんの!?!?
なにはともあれ、調子は良かったし、トラコンも試してみたいしで、今はマディにリベンジしたい気持ちで一杯。早速、7月に開催される、これまたJEC地方選最難と言われる東日本山梨大会(勝沼クロスパーク)へエントリーした。がんばろ。