KTM初のトレールバイクといえる390ENDURO Rを試乗。これまでにないコンセプトで、痛快そのもの!
SPECIAL THANKS/モトクロスヴィレッジ

KTM
390ENDURO R
¥859,000
夢のトレールバイク
KTMが一般のマーケットに向けて急激に躍進したのは2011年のことだと思う。それまで、READY TO RACEを地で行くフルスペックの大排気量マシンしかラインナップしてこなかった同社が、DUKE125をリリースした。最強のストリートファイターのイメージをそのままに、扱いやすい125ccの4ストロークエンジン。このプロダクトで大ヒットを飛ばした同社は、その後DUKE200、DUKE390と排気量を拡大していき、ミニDUKEのプラットフォームを使いながら様々な楽しみを生み出していった。特に390DUKEは、ほとんど125と変わらないショートホイールベースに390ccのフルパワーエンジンが載っていたから、とてつもなく楽しいストリートロケットだった。東京モーターサイクルショーで、某二輪ジャーナリストと共に「これは、危険だ……(褒め言葉)」とよだれを垂らしたことを覚えている。しかも、インド生産のため、それまでのフルスペックKTMと比べてかなり安い。その頃の僕の背中を誰かが一押ししてくれたら、たぶんDUKE390オーナーになっていたはずだ。
そんなミニDUKEたちを見て、これをベースにオフロード車を作ったらいいのに、と思っていたのは僕だけではあるまい。EXCシリーズではなく、いわゆるストリート向けのオフロード車、つまりトレールバイクをKTMが作ったらどんなに楽しいだろう、と。その勝手な希望がいよいよ2025年、390DUKEをベースとした、390ENDURO Rとして形になったのだった。

390ENDURO Rが搭載する最新のLC4c 399cc単気筒エンジンは、最高出力44ps/最大トルク37Nmを発生する。スチール製トレリスフレームとボルトオン式サブフレームを採用し、フロント21インチ/リヤ18インチのスポークホイール、そしてWP APEX 43mm倒立フォークとリンクレス式リヤショックを組み合わせた構成だ。サスペンションの前後ストロークは230mmで、フレームは同社の390DUKEをベースにしながら、オフロード走行を前提にした剛性バランスとステアリング角度に最適化されている。車重は159kg(乾燥)、シート高は890mm。電子制御面ではライドモード(STREET/OFFROAD/RAIN)とコーナリングABS、モーターサイクルトラクションコントロール(MTC)を標準装備。OFFROADモードではリヤABSを解除でき、MTCも停止設定が可能だ。エンジンマネジメントはスロットルバイワイヤ式で、クラッチはスリッパー機構付き。燃料タンク容量は9Lで、必要十分。
サスストローク230mm。だがそれがいい
オートバイを「オフロードバイク」たらしめるものは何だろうか。僕は、学生の頃に四国の剣山スーパー林道をスズキGSF1200で走ったことがある。友人はセパレートハンドルのカワサキエストレアで林道についてきた。ロードバイクで林道を走る行為は、実は意外と楽しい。大きなギャップが連続するような場所でなければ、低重心のロードバイクはハンドルの抑えさえ効けば、わりと楽しく走れてしまう。ダートトラック競技で使用されるバイクのサスペンションは、だいたい100mmほどしかストロークが無いそうだ。オフロードバイクはサスペンションが長い方が偉い、と思い込む人は少なくないが、これは走るフィールドやライダーの技量・好みによって大きく違うのだ。

この390ENDURO Rのサスペンションストロークは前述した通り前後230mm。一般的なモトクロッサーやエンデュランサーが300mm程度のストロークを持ち、つい先頃発売されたばかりのスズキDR-Z4Sは280mmでトレールバイクとしては本格的と言われている。これらと比べると、390ENDURO Rのサスストロークはかなり短い方だと言わざるを得ない。しかし、この230mmのサスストロークが390ENDURO Rをしっかり低重心にしてくれて誰にでも走りやすくなっているのは、ちょっと走り出せばすぐにわかることだ。シート高は890mmとめいっぱい高いのに、この安心感はどうしたことかと思う。

リアを振ろうとアクセルを開けた時に、この低重心の良さは特にうまく生きてくる。ストローク長めでしっかり動くサスというのは、ギャップを吸収する時にはとてもいいのだが、加速・減速に対しては動きが掴みづらいものだ。リアタイヤがトラクションを得て滑り出すまでにリアサスペンションが沈むわけだが、いつも同じ状態から沈み込むわけではないから、とても不安定な状態になっている。この不安定さが、滑り出すタイミングをずらしてしまうため、挙動を把握することが難しい。でも、ショートストロークで低重心のサスペンションは、滑り出しがとても掴みやすい。つまり、フラットダートや林道では低重心のバイクの方が、滑り出しに関してはコントローラブルなのだ。390ENDURO Rはまさにそういうバイクで、フラットなダートで遊ぶと恐怖感なくリアを滑らせることができる。フライバイワイヤでコントロールされるエンジンも、オフロードモードにするととても掴みやすいトルクデリバリーになり、かつはっきりしたぼやけていない低中速のアタック感がある。かといっていわゆるレーサーの450とはまったく違うフィーリングで、バランサーがしっかり効いて穏やかなレスポンス。この辺も、思うがままにリアを振り出せる理由の一つだろう。

ぴょーんと飛び出す勇気はなかなか沸いてこなかった
ショートストロークは当然サスペンションの容量が足りないから、大入力には向いていない。乾燥重量で159kgもある車体と相まって、ギャップではすぐ底付きしてしまうだろう。一応、今回のインプレッションは軽いギャップも試せるように埼玉県モトクロスヴィレッジでおこなったのだが、意外や意外、これが何気なく走れてしまったのだった。もちろんモトクロスが出来るとは言わないし大ジャンプがこなせるとは言えないが(そもそも何に乗っても飛べないし)、ノービスに優しいモトクロスヴィレッジの浅めのフープスをレーサーに準ずるスピードで走ってもガシャンと底付きしない。柔らかい轍はしっかり切っていくことができるし、400ccクラスの厚いトルクを普通に楽しむことが出来る。あらためて、WPとKTMの長きに渡る蜜月関係に感嘆した。よく動く、というのではなく、しっかり減衰が効いていると言うべき動きだった。あまり言いたくないが、レーサーで走るのとそう大差がないタイムを出せた。
390DUKE譲りの高回転、ストリートが楽しい
ナンバーがついているので公道にも出てみたのだが、これがまさに痛快だった。ベースになっている390DUKEはシングルとは思えないほど高回転まできれいに回るのだけれど、トレールバイクなのにこの特性をしっかり受け継いでいる。オフロードではそこまで感じ取れなかったが、このエンジンは明らかに高回転型。低中速は穏やかに車速が伸びるが、高回転域に入ると急に牙を剥く。
400ccクラスで高回転にパンチがあると、大型二輪免許が不要といえどかなり危険な匂いのするバイクに感じる。ワインディングに持ち込んだわけではないが、次のコーナーは思ったよりもかなり早いタイミングで訪れるはず。スリッパ−クラッチが入っているので、バンバンと雑にシフトダウンしていくと、音も立てずリアがハーフロックするフィーリングがお尻に伝わってきて、まるで昔のモタードのような乗り味を味わえる。

KTMというのはいつもこうだ、と思った。低回転で豊かなトルクを味わいながら流す、という走り方には向いていない。バイクが先に走っていこうとするし、ライダーはストリートであっても若干の緊張感を伴う。あまりエンジンを回さなければいいのだけれど、そういうことではない。ただ、この390ENDURO Rはそのバイクが先に走っていくような性格でありつつも、そういうスポーツ性を可能な限り下げて誰にでも楽しめるようにしたバイクだとも言える。ダートに入れば余計にスロットルを開けてリアを滑らせたくなるし、高回転域のハイパワーを炸裂させて次のコーナーに急ぎたくなる。890クラスのミドルクラスではとてもそのおいしいところを楽しみきれないけれど、390ならだいぶ前向きに楽しむことができそうだ。
				
				













