アルパインスターズは、ライダーの身体を守るための技術を半世紀以上にわたり進化させてきたブランドだ。最新のエアバッグであるTech-Air 7Xシステムでは、MotoGPで培われた衝突解析と電子制御技術を組み合わせ、走行中のあらゆる挙動をミリ秒単位で検知する。その開発過程で蓄積された数百万キロ分のライディングデータと衝突事例は、製品設計全体の精度を押し上げている。そうした哲学と開発体制は、オフロード用のゴーグル「Supertech Goggle」にも受け継がれている。視界を守るという単純な機能を超え、極限の環境で“集中を持続させる”ための装備として設計されているのだ。

Alpinestars
Limited Edition DNGR38 XXV Supertech Vision Goggles
Supertech Goggleのフレームは二重構造で、内側に柔軟性、外側に剛性をもたせている。素材はポリウレタンベースで、低温でも硬化せず、振動吸収と形状保持を両立する。レンズは光学精度の高いポリカーボネート製で、曇り止めとUVカットのコーティングを施し、当然のように視界に歪みが生じないプリカーブドレンズだ。光を均一に透過させる独自の「Optical Clarity System」は、視界の歪みを極限まで排除し、コントラストを正確に保つ。クイックリリース式のロックにより、レンズ交換が瞬時に行えることもとても有用である。特にこの手の高価なレンズがついているゴーグルは、まかりまちがっても泥だらけでレンズがついたまま洗濯袋に入れるなんてことはしたくない。レース後、おごそかにレンズを外して丁寧に泥汚れを落としてしまっておきたいものだ。


テストは千葉県特設会場で開催されたクロスカントリーレース、JNCC八犬伝のサンド路面。気温は20度前後、午前の太陽光が低く射すコンディションだった。微粒の砂が風に乗って舞い上がり、陽光を散らす。ゴーグルを顔にあててすぐに、レンズの透明度が明確に高いことを感じた。心拍数180を超えるタフなレースだったが、内側にはくもりがまったく発生せず、視界の奥までクリアで、路面の凹凸や轍の深さが精密に把握できる。サンドが光を反射しても、レンズがそれをやわらかく整えてくれる。ゴーグルのレンズひとつでこうも違うものか、と感じた。僕は昔から、路面が見えないと開けられないタチ。普段なら“視界に関する何か”がいつも気になるのだが、この日はその視界にストレスが何もなかった。しいていえば、高いレンズにキズを入れたくないという思いが、前走車のはねる泥を避けさせ、車間を詰め切れないところが問題といえば問題かもしれない(笑)。

通気性も秀逸で、発汗しても内部に熱がこもらない。フレーム上部のベントホールが効率よく空気を抜き、常に一定の温度と湿度を保っている。フォームの肌触りは滑らかで、砂の侵入を許さない密着感がある。
顔の形状との相性に関しては、日本人らしい平たい顔にはややタイトだと感じた。メガネを差し込む余地はなく、完全にレース仕様と割り切られている。しかし、それも含めて設計の意図が明確だった。公道用の快適さよりも、走行中の安定性と防塵性を最優先にしている。


走行を終えた後、印象に残ったのは「視界にノイズがなかった」という一点だった。砂煙が舞っても、逆光でも、目の前の路面が常に一定の明るさとコントラストで見えている。その安定感が、集中を生み出す。いつの間にか呼吸のリズムが整い、操作が軽くなる。走ることにだけ意識を向けられた。視界が整うことで、身体の反応が研ぎ澄まされる感覚がある。わずかな違いだが、結果的にミスが減り、走行ラインの精度が上がった。
曇らず、歪まず、揺れない視界。その静かな完成度が、ライダーをゾーンの入り口まで導いてくれる。惜しむらくは、このヘイデン・ディーガンリミテッドエディションが、すでにディーガンのFOXへの移籍によって過去のモノになってしまったことである。

箱すらかっこいい…なんやこれ

ストラップが斜めに生えていて正しくかっこよくつけられるところもナイス。モトクロスを隅から隅まで知ってるメーカーの気遣い













