オートバイによる北極点・南極点到達、パリ・ダカールラリー二輪部門へ日本人として初挑戦するなど数々の偉業を達成してきた風間深志氏が、モンゴルへツーリングの旅に出る。ついに迎えた最終日。7日間かけて巡ったモンゴルの地に何を思うのか

天国みたいな大草原と、コンドルの舞い

9月11日。空は澄み渡り、気温は快適な17℃。

カラコルムから再びハンドルを東へ、ウランバートル方面を目指す一日が始まった。

走り出すと、どこまでも続く草原と山並みが視界を埋め尽くす。青い空、白い雲、緑の大地……、そして遠く霞む山々。天国を見たことはないが、もしあるとすれば、きっとこんな風景なのだろう。広がる大地を前にして、固まっていた心は解き放たれ、閉ざされていた思考は自由に広がっていく。モンゴルを走るたび、なぜか気持ちがポジティブに満ちていくのだ。

道は決して楽ではない。砂地、石ころだらけの悪路、牛馬が通る獣道、時には急勾配の山道も現れる。だが「この先はどうなっているのだろう?」という好奇心と、道を攻略する挑戦心が湧き上がり、走り抜けるたびに達成感が込み上げる。これこそがオフロードツーリングの醍醐味ではないだろうか?

昼は高原でランチを取り、西の空に広がる雨雲を横目に再び走り出す。やがてたどり着いたのは、野生馬を保護する「ホスタイ国立公園」のキャンプ地だった。本日の走行距離185km。

夕暮れ時、ヨーロッパから来たというハスクバーナ450のライダーたちが隊列で到着し、にわかにキャンプ地は国際色豊かになった。モンゴルの大草原が世界中のライダー達を魅了していることを実感した。

画像1: 天国みたいな大草原と、コンドルの舞い

そして迎えた最終日、9月12日。朝からEさんのバイクがパンク状態で修理のため出発が少し遅れたが再び草原へと走り出す。国立公園の斜面を進みながら、公園の名物となる“野生馬”の姿を探すが、残念ながら出会う事は出来なかった。

画像2: 天国みたいな大草原と、コンドルの舞い

それでも昼過ぎ、左手の草原に巨大な“何か”を見つけた。5羽の巨大なコンドルだった。最初は岩か?と思うほど動かず、こちらが近づくとようやく翼を広げて悠然と飛び立った。その大きさは翼を広げると優に2メートル。大らかに空を舞うその姿は、広大なモンゴルの空と大地にこの上なく相応しい姿だった。

大草原を走るツーリングは、ただのバイク旅ではない。空には鳶をはじめとする鷲や鷹といった猛禽類が飛び、地面には狼や狐、ウサギやノネズミが走り回り、まるでアフリカの“サファリ”のような臨場感だ。走りながらにして野生の自然と調和し、その懐の深さを全身で受け止める何とも充実の時間が続いていく。

しかしそんな旅も、ついに終わりの時を迎えるに至ってしまった。午後、西から迫る黒い雲が雨を降らせ、最後の試練のようにライダー達の全身を濡らした。やがて雨も上がり、スタート地点となった空港近くのキャンプ地に到着。メーターに刻まれた全総走行距離は、965km。あとちょっとで“1000km”に届かなかったのが、なんとも悔しかった。

こうして7日間にわたる「モンゴル大草原のツーリング」は幕を閉じた。草原を駆け抜けた風の冷たさ、仲間と囲んだ焚き火の温もり、そしてコンドルの大きな翼。そのすべてが記憶の奥深くに刻まれ、再びモンゴルへと向かいたくなる衝動に駆られてしまっている自分に苦笑いだった。

<あとがき> モンゴル1000kmツーリングを終えて

画像: <あとがき> モンゴル1000kmツーリングを終えて

7日間にわたり、大草原を駆け抜けたモンゴルの旅。全行程965km。数字だけを見ればただの距離かもしれないが、そこには、言葉に尽くせないほどの大自然の広がりや、人との出会い、そして何よりも自身の内なる心の変化を認めざるを得ない。

朝の気温は0℃近く、日中は30℃を超えることもある。寒暖差に体を慣らしながら、川を渡り、山を越え、時にはパンクに頭を抱えつつも、大地にバイクを進める。そうして目にしたのは、地平線まで続く大草原、黄金色に染まる広大な穀倉地帯……、そして夕暮れの焚き火に浮かぶ仲間たちの実に嬉しそうな笑顔、だった。

モンゴルの魅力は、ただ風景が雄大なだけではない。夜空を埋め尽くす星の輝き、草原に漂う何とも言えない「ニガヨモギ」の甘い香りや遊牧民のゲルから立ちのぼる煙……そんな一つひとつが旅の記憶に深く刻まれる。そして何より、大地の感覚がまるで大らかな地球の懐に抱かれているような、人の心を芯から開放する力を持っているのだった。

今回のツーリングは、仲間と共に走り、語り、助け合いながら進んだ旅。パンク修理に手を貸すサポートカーの温かい仲間たち、釣りの成果を気遣い合う優しさ、いびきに悩まされながらも笑いに変える夜……。そうしたやり取りの一つひとつが、1000kmという距離以上の濃さと内容を感じる旅だった。

旅はこうして終わったが、その記憶はこれからも育っていく。写真を見返せば、その時の風の冷たさや草原の匂いが蘇って来る。そしてまた新しい仲間と共に、再びモンゴルの大地に立つ日を夢見て、日常を過ごしていきたい。今回の連載を読んでくださった皆さんに、この旅の空気の一端でも伝われば幸いである。そしてもし、心のどこかに「いつか自分も走ってみたい」という気持ちが芽生えたなら、それこそがモンゴル大草原の魔力なのだろうと思う。

必ずまた、この広大な大地に戻ってくる。そう誓いながら、今回の旅の筆を置きたい。

オフロード冒険家 風間深志

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