今季より2スト250EXCではなく、250XC-Wを販売すると決めたKTMジャパン。あまりに日本になじみのない“XC-W”だが、TBIの熟成がもたらした極上の粘りと扱いやすさは、新たなエンデューロバイクの地平線を感じさせるものだった

画像1: KTM 250XC-Wレビュー「ナンバー廃止」は退化か、進化か。エンデューロシーンを変える“純競技車両”の決断

KTM
250XC-W
¥1,389,000

新たなスタンダードXC-W

長きにわたり、日本のコアなオフロードシーンにおいて「KTM 250EXC」は絶対的な存在だった。余裕のある2スト250ccならではのパワーでエンデューロレースで勝てるポテンシャルを持ちながら、山遊びにも使うことができる。このオールマイティなパッケージは、世界のオフロード事情にマッチし、多くのライダーに愛されてきた。

しかし、欧州における環境規制「EURO5+」の施行が、日本のオフロードシーンと250EXCとの蜜月に終わりを告げた。2ストロークエンジンで最新の排ガス・騒音規制をクリアし、かつレーシングパフォーマンスを維持することは、技術的にもコスト的にも限界に達していたのだ。2026年モデルより、KTMジャパンは2ストロークエンデューロモデルの主力を、ストリートリーガルとしても使える「EXC」から、クローズドコース専用の「XC-W」へと切り替える決断を下した。

主に北米市場などで展開されてきたXC-Wは、本来EXCとは双子のような関係を持つ。モトクロッサーのSXをベースにサスペンションを固めてクロスカントリーに特化したXCとは異なり、XC-WはEXCと同じPDS(リンクレス)リアショック、ワイドレシオミッション、そしてしなやかなフレーム剛性を持つ。

画像: 新たなスタンダードXC-W

違いは「保安部品のための配線や規制対応パーツがない」こと。つまり、これまで日本で販売されていたEXCから、ウインカーやブレーキランプ、そして触媒などの“枷(かせ)”を取り払った姿こそが、このマシンの正体である。

これは悲観すべきことではない。むしろ、ホモロゲーションという制約から解き放たれたことで、エンジンマッピングや吸排気系は、純粋に「オフロードを速く、快適に走る」ことだけにフォーカスできるようになった。JNCCやほとんどのJECラウンド、そしてハードエンデューロ。日本のコンペティションシーンにおいて、この「純化」は大きな武器となるはずだ。

「かつてのEXC以上のEXCらしさ」 公道走行不可となったことで純化した“扱いやすさ”の本質

神奈川県の人の森工場特設会場、通称「ケゴン」で250 XC-Wの試乗を終えた和泉氏の第一声は「全てが優しい」というものだった。

画像: 「かつてのEXC以上のEXCらしさ」 公道走行不可となったことで純化した“扱いやすさ”の本質

「パワーがないという意味ではありません。開け始めから高回転まで、とにかく唐突な動きをしない。車体もエンジンも、ライダーを脅かす要素が削ぎ落とされています。レーサー特有の神経質さがなく、ビギナーやアベレージライダーが乗っても恐怖を感じずにアクセルを開けていける。これはEXCシリーズが本来持っていた美点ですが、XC-Wになってもそれは失われていません」

近年のKTM2ストモデルの技術的なハイライトは、TBI(スロットルボディ・インジェクション)の熟成にある。KTMは2018年にポート噴射のTPI(トランスファー・ポート・インジェクション)を導入したが、極低速トルクの薄さやスロットル操作に対するリニアリティに課題を感じるライダーもいた。これに対し、インジェクター位置がキャブ時代のメインジェットと同様にスロットルボディにあるTBIは、よりキャブレター車に近いダイレクト感を持たせることが出来る。

「TBIのEXCは、TPI時代に感じたゼロ発進付近のトルクの頼りなさが解消されています。キャブレター車のような『前に出るパンチ』がありつつ、FIならではの緻密な制御で角が取れている。右手の操作に対してエンジンが素直に反応してくれるので、意図しないフロントアップや挙動の乱れが起きにくい」

ハードエンデューロのセクションにおいて、このマシンの真価は「止まりそうで止まらない」粘り強さに現れる。
「極低速で『あ、エンストする』と思った瞬間に、無意識に指一本でクラッチをわずかに当てる。普通のバイクならそこでプスンと止まるか、あるいは回転が落ち込んでバランスを崩すところですが、このXC-Wはそこから『トトトトッ』とアイドリング付近で粘り続け、復活してくるんです」

これは単にフライホイールを重くしただけの粘りとは質が異なるようだ。最新のEMS(エンジンマネジメントシステム)が、ストール寸前の回転域でも最適な点火と燃料噴射を維持し続けている感覚に近いが、いわゆる制御で回転数を上げ直している状態とも違い、いわゆるエンジン特性によるものだと和泉は言う。
「極低速の特性がライダーのミスをカバーしてくれている。この安心感は大きいですね」

実戦的なサスペンションセッティング

足まわりにはWP製のXACTクローズドカートリッジフォークを採用しているが、その味付けは「難所系」を見据えているようでもあると言う。
「初期作動が非常に柔らかく、ガレ場や木の根の衝撃を綺麗にいなしてくれます。モトクロスコースのサンドフープスなどを全開で攻めれば底付きする感覚はありますが、日本のJNCCやハードエンデューロの速度域であれば、この柔らかさは大きな武器になります」

画像: 実戦的なサスペンションセッティング

もしJNCCのトップランカーレベルで競うのであれば、バネレートを上げるなどの調整が必要になるかもしれない。しかし、大半のサンデーライダーや、難所を確実に走破したいライダーにとっては、スタンダードの「柔らかさ」こそが正解だと和泉氏は分析する。

「フルパワーマップ」で見せる別の顔と、さらなる高みへ

試乗の後半、和泉氏はマップスイッチを「フルパワー」に切り替えてコースインした。スタンダードの「マイルド」が徹底して角を丸めた特性だったのに対し、フルパワーモードでは2ストロークらしい輪郭が顔を出す。

「全域でトルクが太くなり、オブラートに包まれていたパワー感が剥き出しになります。アクセル操作に対する反応が鋭くなる分、マイルドモードで感じた柔らかさは少し薄れますが、それでも十分に粘る。ここ一番のヒルクライムや、瞬発力が必要な場面ではスイッチ一つで性格を変えられるのは大きなメリットです」

ただし、ケゴン名物のサンドヒルでは、3速全開で登る際に若干のパワー不足を感じたという。
「ここが300ccとの決定的な差ですね。JNCCのAAクラスでトップを争うようなシチュエーションや、深いサンド質のコースでは、もう少しパンチが欲しくなるかもしれません。ですが、KTMには豊富なパワーパーツがありますし、ヘッドやチャンバーの交換でいくらでも味付けは変えられます。
『素材』としてのバランスが完璧なので、まずは吊るしで乗り込んで、足りない部分だけを足していく。それができるのも、レーサーであるXC-Wの特権です」

乗り味が軽量でパンチがあり、それでいて乗りやすくもある。欧州にはほとんどトレールバイクというカテゴリーが無いに等しいが、それは懐の深さを追求してきたEXCシリーズをはじめとするエンデューロバイクがあるからだろう。中でも2スト250は、いまや世界各国で親しまれるエンデューロバイクのスタンダード。現代オフロードバイクの、ど真ん中にいるマシンが2ストロークだという事実がまた面白い。

2026MYのKTMエンデューロ、日本にメインで導入されるXC-Wとは

“The International Six Days Trial was created in 1913 as a test of the reliability and endurance of motorcycles produced by the European manufacturers of the time.”(1913年のISDTは、当時のヨーロッパのメーカーが製造したオートバイの信頼性と耐久性をテストするために創設された)
FIM、エンデューロの歴史より引用

KTMのエンデューロバイクである「EXC」という車輌を知るには、エンデューロの起源まで遡る必要がある。エンデューロという言葉は1913年に始まったインターナショナルシックスデイズトライアル、ISDTが時代と共に変遷していく中で生まれている。ISDTは、当時の国際モーターサイクル連盟(FICM)が、ヨーロッパ各国に存在していた多数の二輪メーカーが製造するオートバイの耐久性と信頼性を客観的に証明するために創設した国際試験イベントであり、その後は国別対抗の要素を強めながら発展していった。長距離を走り、決められた時間管理を行い、そのうえでマシンを壊さず完走できるかどうかを試す場であったため、レースでありながら技術試験という側面を色濃く持っていたと言える。
やがてトライアルという別の競技が勃興し、同じ「トライアル」という名称を用いることの混乱を避けるため、1980年には名称がインターナショナルシックスデイズエンデューロ、ISDEへと変更された。この時点ですでに、オンタイム制を用い、ルート上の複数のテストの積算タイムで勝敗を決めるという、現在につながるエンデューロの骨格がほぼ固まっていたのである。エンデューロ、という言葉には「耐久」という意味合いが含まれるのだが、実際のところ、いわゆるル・マンのようなエンデュランス競技とは性格を異にするところがポイントだ。ルート上に設定されているスペシャルテストはそれぞれ10分程度のものが多く、オフロードバイクを使う競技の中では、むしろスプリント的な要素が大きい。エンデューロという言葉から来るイメージと実態は大きくかけ離れていると言えるだろう。トップライダーたちはルートを疲労することなく走ってテストにたどり着くと、そこで0.01秒差を競う爆発力を発揮する。しかもテストはタイムアタック方式で1台ずつ走るから、モトクロスなどの混走競技と違ってタイムを削ることだけに集中できる。エンデューロファンを魅了するのは、まさにこの点に尽きる。
このオンタイムエンデューロが特徴的であるのは、単に一つの会場で周回レースをするのではなく、公道を使いながら町から町へ移動し、その途中にいくつものテストを配置する点である。1日に数百キロを走ることも珍しくなく、移動区間とテスト区間を含めた一日全体を走り切ることが競技の前提となる。ここで必須となるのが、公道を走れるレーサーという存在である。

ヨーロッパではこの文化を守るため、公道走行車両のカテゴリーの中にエンデューロおよびトライアル専用の枠を設け、通常のロードモデルよりも緩い騒音・排ガス基準を与えてきた歴史がある。ISDEや世界選手権エンデューロのようなオンタイム競技を成立させるには、公道走行可能なレーサーが必要不可欠であり、その存在を制度面で支える必要があったからである。
この“レーサーでありながら公道を走れる車両”という枠組みによって、KTMのEXCをはじめとするエンデューロモデルは誕生し、長く生き延びてきた。EXCはエンデューロ専用のエンジン特性と車体構成を持ちながら、公道登録が可能な仕様として設計されてきたモデルであり、それは単なる製品戦略ではなく、欧州の競技文化と車両規制の折り合いの上に立つ存在であったと言える。
この構造を理解しておくと、「なぜエンデューロバイクだけが公道を走れるレーサーとして長く続いてきたのか」「なぜそのラインナップが2026年に変わるのか」という問いに対して、単なるモデルチェンジ以上の背景が見えてくるのである。

欧州規制の変化と2026MYラインナップ再編──XC-Wを積極的導入へ

欧州の公道走行規制は、長らくエンデューロカテゴリーに対して特別な扱いをしてきた。エンデューロおよびトライアルには専用の車両区分が設けられ、ロードモデルと同じ水準での静粛性や排ガス性能を求められることなく、ある程度の余地を持って認可されてきたのである。これはエンデューロという競技文化を守る目的が明確に存在していたからであり、国やメーカー、FIMが長年にわたって協調して維持してきた枠組みであった。
しかし、騒音や排ガスに対する社会的な要請が強まる中で、この優遇枠は次第に縮小してきた。規制値はロードモデルに近づき、実走行条件を前提とした試験が導入されることで、「エンデューロだから特別扱いする」という論理が通りにくくなってきたのである。結果として、2ストロークエンジンを搭載した公道仕様のエンデューロモデルは、欧州の新しい基準のもとで認可を継続することが非常に難しくなり、日本のように欧州ホモロゲーションに依存している市場では、その影響を直接受けることになった。
2026年モデルにおいてKTMが日本向けにラインナップを再編した背景には、この規制環境の変化がある。4ストロークのEXC-Fシリーズは公道走行可能モデルとして継続する。これと並べる形で、2ストロークについては公道装備を持たない競技専用モデルとしてXC-Wシリーズを導入する。EXCは一部モデルを継続導入するものの、その中心にXC-Wを据え置く構成に整えられた。

つまり、2026MY以降の日本では、エンデューロモデルは大きく分けて「公道走行可能なEXC-F」と「クローズドコース専用のXC-W、及び一部のEXCモデル」という構成になる。従来の2ストロークモデルを選んでいたユーザーや、林道以上・競技未満の遊びを求めてエンデューロモデルにステップアップしてきたユーザーは、排ガス規制という外的要因によって車両の選択肢を狭められた印象を受けるかもしれないが、KTMに関して言えば、2ストロークのEXCシリーズは環境への配慮から、2025年モデルの時点で公道走行不可に切り替えた実情があり、そこを踏まえると今回のXC-Wを中軸に置く流れは、ごく自然とも言える。
ここで重要なのは、KTMが「2ストロークを切り捨てた」のではなく、「公道という条件を切り離して2ストロークのエンデューロモデルを残した」という点である。XC-WはEXCと同系統のエンジンと車体構成を用い、公道用のホモロゲーション装備だけを取り除いたモデルであり、2ストロークエンデューロの走りそのものを失ってはいない。
規制の変化によって、公道走行可能な2ストロークエンデューロは姿を消しつつある。しかし、エンデューロという競技や遊び方自体は続いていく。その環境に対応して、2026MYのラインナップは設計されている。

EXCベースでマイルドなXC-Wという選択肢と、日本のエンデューロシーンでの位置づけ

XC-Wは、「EXCの公道装備を取り払ったモデル」として理解するとわかりやすい。エンジンと車体の基本構成はEXCと同系統であり、エンデューロ専用に作り込まれたマイルドな出力特性とギア比、長時間走行に耐えるサスペンションのストロークとセッティングを共有している。従来のEXC 2ストロークに乗っていたライダーが、違和感なく乗り換えられる方向に作られていると言っていい。
EXCは新車出荷時こそ規制に合わせた穏やかな仕様でホモロゲーションを通しているが、実際にはレースやクローズドコースの本格トレールで使うユーザーの多くが、フルパワー化を行ってから実戦に投入する。XC-Wは、こうした「実際に使われるEXC」に非常に近い状態を、最初から前提として設計されたモデルである。公道を走るための制約を背負わずに、エンデューロモデルらしいトルクの出し方と、荒れた路面で疲れにくいレスポンスを素直に出せることが特徴である。

モトクロッサーやSX系のクロスカントリーモデルと比べたとき、エンデューロモデルの決定的な違いは、ライダーに対する“厳しさ”の方向性である。モトクロッサーは短時間で速く走るために、瞬間的なレスポンスとシャープさを優先している。これに対して、EXCやXC-Wは長い登り、石や根が続くセクション、タイトターンと中速のつなぎ、こうした複合的な状況を一日中走り続けることを想定し、アクセルを開け始めた瞬間からの立ち上がりを穏やかにしつつ、必要なときにはしっかり伸びるという特性に振られている。
XC-Wが「EXCベースでマイルド」であるという意味は、このエンデューロ固有の設計思想をそのまま持ち込み、公道装備だけをそぎ落としているところにある。軽さによって取り回しが良くなり、ホモロゲーションのための制約を受けないぶん、競技寄りの使い方にもストレートに応えてくれる。それでいて、いわゆるモトクロッサー的な“尖り”とは異なる、余裕のあるトラクション感と疲労の少なさを維持している点が、XC-Wの価値である。

日本のシーンで考えると、JNCCのようなクロスカントリーでは、これまでEXCの2ストロークが有力な選択肢の一つとして機能してきた。4ストロークのEXC-Fやモトクロッサーベースのクロスカントリーモデルと並びながら、軽さとマイルドな特性を武器に、多くのライダーに選ばれてきたのである。EXCの役割はXC-Wが引き継ぐことになるが、構造も性格も近いXC-Wであれば、ライダーは大きな乗り換えストレスなく、これまでのセットアップ経験を生かしながら移行できる。
オンタイム制を採用するJECでは、公道区間の有無によって車両選択が変わる。公道区間を含むラウンドではEXC-Fが必須となるが、公道区間を持たないエリア戦やテスト主体のフォーマットではXC-Wが選択肢として現実味を帯びる。公道装備を捨てたことによる軽さと、EXC由来のマイルドさを併せ持つXC-Wは、日本のエンデューロシーンにおいて、競技と遊びの両方をカバーしうる“現代版エンデューロレーサー”として機能していくだろう。
2026MYのKTMエンデューロは、規制の結果として形を変えざるを得なかった側面を持ちながらも、エンデューロ本来の走り味をどこに残し、どこで妥協しないかという選択の結果でもある。その答えの一つが、EXCを基礎としたマイルドな2ストロークエンデューロとしてのXC-Wなのである。

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