2027年型のヤマハ YZ450FXは、ほぼ全域で出力を下げてきた。試乗した和泉拓いわく「450って言葉に、あんまり尻込みせずに乗れるバイクになった」。扱いやすくしました、という言い方はよく聞く。だがグラフまで用意して「こんなに下げました」と説明するメーカーは、そうそうない
まず、エンストしない
2024年型のYZ450FXを、和泉拓(仙台でバイクショップを営むマルチタレントライダー)が試乗したとき「まだ、扱いづらい部分があるけど素材としてとても面白い。250用の細いエキパイをいれて出力を落としたり、いろいろやってみたいね」と言っていたのを覚えている。ハードエンデューロをメインに活動している和泉に試乗をお願いしたのは、この時の記憶がよみがえったからだ。2027年モデルでは、事前情報から「今回こそ扱いやすくなった」と聞いていた。ならば、扱いやすさにこだわる和泉に乗ってもらいたいと思ったのだった。

そんな和泉がパドックに戻ってくるなり口にしたのは、走り出しの話ですらなかった。
「言いたいことはたくさんあるんですけど、まずエンストしない。キャンバーなんてモトクロスコースにないから自分で作って走ったんですけど、本当にエンストしないんです。クラッチを握らなくてもいいようになったよ、と開発に説明されていたのですが本当にそうでした。ただ、個人的にはもうちょっとだけフライホイールマスが欲しいですね。アクセルを開けている限りは止まらないんだけど、閉じたときに軽く繋ぐと、たまにスッと止まることがある。開けているときについては、オーバーラップを狭くしたというのがめちゃくちゃ効いてます」
エンストしない、が第一声になるバイクである。ヤマハがここで何をしたのかを、技術説明資料から追ってみたい。
出発点は、方針転換そのものだった。従来方針が「YZ450Fの優れた性能を最大限活用」だったのに対し、今回は「クロスカントリーの要求性能に特化」。ポジショニングを見直したうえで、要求性能を言語化して仕様へ落とし込む、という進め方をしている。その言語化の出発点が、3時間のクロスカントリーレースでリザルトを追求したい、というものだ。そこから、長時間のライディングでも疲れないバイクが欲しい、へ降りていく。資料にはGNCCトップライダー(立ち話ではカイルブ・ラッセルとのことだった)でもMY26 YZ450FXのパフォーマンスを3時間維持することは不可能、疲労軽減がリザルトに直結する、とまで書かれている。
そのうえで「疲れない」を4つに分割した。扱い切れるリニアなパワー、滑らかなスロットルレスポンス、極低速域の粘り強いエンスト耐性、軽いレバー操作荷重とスムースなクラッチ特性。ここにモードMAPとトラクションコントロールによる電子制御が加わる。

エンジン側アップデートの中心はカムシャフトだ。吸気カムを遅角化して低回転のトルクをあえて抑制し、排気カムは進角化してスムーズな出力特性にする。結果としてオーバーラップは挟角化され、低回転でクリーンに燃えるためエンジンストール耐性が上がる。和泉が指摘した通りである。あわせてACMローターの外径を95mmから97mmへ拡大して慣性モーメントを増やし、トルク変動を抑えて低回転の粘りを稼いだ。ドリブンスプロケットは50丁から51丁にすることで、スピードを落とした。
では、なぜトルクを削ると乗りやすくなるのか。
「今回わかったのは、やっぱりトルクがあってパワーがあると手強いんだな、ということですね。特に低回転も中回転も、ない方が圧倒的に乗りやすい。自分のBetaでもトルクを削るようなことをいろいろやってきて、そのほうが全然乗りやすかったんですよ。ただ、これを250でやってしまうと、まったく面白くない、そして使えないバイクになってしまう。480とか450なら、そもそもパワーもトルクもあるから、削ったところで問題ない」

開発がグラフまで出して示した引き算は、乗り手の側ではこう受け止められている。
セローみたいになる、とは言うけれど
マッピングの話に移ったところで、ヤマハ側の説明に訂正が入った。
「一昨年のYZ250FXと同じで、すごく振り幅が広いマッピングがついていて、それを一番弱いものにするとセローみたいになる、とヤマハの中の人は言うんです。でもYZ250FXのセローモードより実用的でした。YZ250FXの一番弱いモードは、フロントアップがままならないくらいまで優しくなりますが、このYZ450FXは、もうこれで十分だな、というレベルでまとまっています」

なお、ベンチの出力曲線を見ると、落とした場所と落としていない場所ははっきり分かれている。低速域は、滑らかなレスポンスと程よいパワーで半クラッチ操作が要らない、エンスト防止のためのクラッチ操作も要らない、という設計。中速域はフラットトルクで、コントロールしやすくトラクションに優れるカーブ。そして高速域は、繋がり良くオーバーレブまで伸びるトップエンドパワーと書かれている。つまり上まで捨てたわけではない。削ったのは主に低速から中速のトルクで、そのぶん谷が消えて、全体が寝た形になっている。
トラコンは、滑りを止めないセッティングを探る
トラクションコントロールの話に移ろう。和泉はまず、路面の前提から整理した。
「オフロードって、直線だろうがコーナーだろうが常に滑っているじゃないですか。だからトラコンを効かせると、スタートから直線で開けたところまで全部効いて、全域がマイルドになる傾向にあると思います。トラコン単品ではなくて、このマップにこのトラコン、というのを1セットで組み合わせて運用するものだと解釈しています」
効いたかどうかを聞くと、めちゃめちゃ効く、と即答された。この日は午前中に雨が降り、コースが最も滑る状態になっていた。条件としてはむしろ好都合だったことになる。

「雨の降った大坂の下から全開でスタートしてみたり、逆にゆっくり登ってみたり、キャンバーをジグザグに走ってみたりしたけど、明らかに効きます。カチカチの路面に雨が降ったツルツルコンディションなので、要は勝沼みたいな状態ですよね。いちばんトラコンが覿面なコンディションだったから、良いところが見えたんだとは思うけど、ちゃんと使えます。登っている最中も、ここ滑るんだろうなと思ったところはやっぱり滑るんですよ。滑るんだけど、ケツが左右に振られない。直進性が出て、人間が結構楽できるな、と」
滑りそのものは止まらない。止まらないが、車体の向きは乱れない。介入されている感じがなく、自然に仕上がっている、というのが和泉の評価だった。
「トラコンはレベルを選べるのですが、僕は最強と真ん中を使いました。真ん中のほうが使い勝手がいいし、元気に感じますね。最強にすると本当に吹けなくなるんです。吹けなくなるんだけど、ツルツルのキャンバーのときは吹けないほうがいいので合うし、フカフカとか、マディのぐちゃぐちゃ以外なら、常時オンでもいいかもぐらいです。ただ、プリセットできるモードの余裕がもうちょっと欲しいですね。路面にあわせてトラコンとマッピングの組み合わせを変えて乗りたいので」
油圧クラッチの是非
このモデルからクラッチはワイヤー引きから油圧式に、クラッチのスプリングがダイヤフラム式に変更されている。これは昨年先行してアップデートされたYZ450Fの変更点を引き継いだものだが、特にクラッチ本体側はYZ450FX向けにセットアップされており、ダイヤフラムスプリングには切り欠きを設けることで、クラッチスプリングの反力にプログレッシブ性を持たせた。プレートももちろん専用の組み合わせで、YZ450Fのダイレクト感をぼかしたマイルドなクラッチになった。結果的にレバー操作荷重は2026年型のYZ450F比で15%低減されている。低速走行時に駆動力を微調整しやすくする狙いである。
「賛否いろいろあるみたいだけど、油圧に慣れている僕としては油圧がめっちゃ良いですね。ワイヤーのフリクションを感じないんです。切りたいときにスパッと切れる。理屈の上ではワイヤーと一緒のはずなんだけど、スパッと切れるんですよ。フロントを浮かすとか、坂で止まりそうなときにフロントを置いてくるとか、そこでコントロールできないとバイクを投げてしまうので、それがだいぶ違います。ただ、ケースがめちゃくちゃ狭くて、スペースの厳しいところに入れているから、すごい狭い位置に付いているんですよね。ケースセーバーを付けないと、チェーン外れとかで一撃でケースを叩き割るな、と思います」

ダイヤフラム中央部の切り欠きで、クラッチスプリングのバネレートを可変させている
クラッチは軽ければ良いという話ではない。レバー比を変えて軽くするキットは、つながりをコントロールしづらくなるために、駆動力をダイレクトに繋げたいときに困る。人間の指が離れる速度には限界があるので、レバー比を変えると戻りが追いつかないのだろう。トライアルライダーのクラッチが重いのは、そういう理由による、と解釈したい。なお、油圧化するかどうかという観点については、ヤマハ社内でも何年も議論が繰り返されたそうだ。ワイヤー式と油圧式の決定的な違いは、クラッチを引く・戻すの動作で反力の出方が異なることである。当時ワイヤー式だったヤマハからKTMに移籍したイーライ・トマックのために、KTMがわざわざワイヤー式のクラッチを用意したのは有名な話だ。どちらがいい、という話ではないが、構造上コンパチブルにはしづらいところがむずかしい。ヤマハは油圧への移行を決断したということである。多くの人には、引きの軽い油圧式のほうが歓迎されることだろう。
車体側も、コンフォートに振ったことが数字に出ている。敏感なヘッド懸架をFX専用に新作し、板厚を左右とも6.0mmから4.0mmへ落とした。新フレームのバンプ吸収性と接地感を活かしながら、倒し込みの軽さを成立させるためだという。前懸架はサブブラケットのみ狭小化。前後サスペンションは日本専用セッティングで、フロントのスプリングが4.2N/mm、リアが50N/mm。US仕様がそれぞれ4.7N/mm、56N/mmなので、かなり柔らかい側に振ってある。
「450って言葉に、あんまり尻込みせずに乗れるバイクになったなと思って。今までの450は『やめといたほうがいいかもしれないですね』って言っていたのを、『乗ってみたらいいんじゃないですかね』って言えるぐらいになった。お年を召した50歳とか60歳ぐらいの人が買っても、普通に遊べる感じですよね」
編集部稲垣の補足
僕稲垣は25年オフロードバイクに乗っているし、オフロードバイクのためにジムに通ったりしているのに、いまだJNCCのFUN-Dクラスを卒業できない万年初心者。だが、2024年式のYZ450FXをヤマハさんのご厚意で1年お借りできたことがあり、レベルがめっぽう低いのに450経験はそこそこある希有な人間である。
1本目を降りたときの第一声は、なんでこんなに乗りやすいんだ、だった。今までの450はどれも、乗る前から少し身構える相手だったが、新型はいちばんマイルドなマップを入れると、明らかにスピードが乗らないのもいい。開けていって伸びていく感覚がないのだ。開けた感触はきちんとあるのに、前に出ないのもいい。電子スロットルにありがちな、開けていない感じとはまったく違う。ジャンプの着地で間違って開いてしまっても、ボロっとなるだけで済む。僕はそれで痛い目に遭ったことがあるので、この差はよくわかる。

僕にとっていちばん切実なのは、実は1速のアイドリングが速すぎることである。排気量が上がってトルクが増えれば、ギア比はロングに振られる。結果として、1速でアイドリングしているときの車速が排気量に比例して上がっていく。125のトレールならエンジンをかけたまま押していけば勝手に進んでくれるが、450はその速度に僕の足がついていかない。かといってアイドリングのままでは走れないので、少し煽る。すると今度は速すぎる。だからクラッチで逃がす。この往復をずっとやってきた。今回のFXでその往復が減ったのだとしたら、僕のような人間にはいちばん効く改良ということになる。このあたりは、本当はもっとつらいレースで実践で試してみたいところである。以前、足が付いていかずに沢やシングルトレイルで心を散々折られたSUGO2デイズをもう一度やらせてほしい。
トラコンについてだけは、和泉と意見が割れた。僕は効きすぎてタイミングがずれる場面が気になった。むしろパワーチューナーで最もマイルドなモードにしておき、トラコンの介入は最小限にしたほうが具合がよかった。
そして正直に書いておく。それでも450は450だった。1本目で驚いたし、手元に置いておきたい気持ちも湧いた。しかし、これ1台で1年過ごしてくれと言われたら、やっぱり困る。乗り慣れていけば惜しくなるバイクだとは思う。思うのだが、僕の走る腕では、やっぱり持て余すだろう。いろんなレースに出たい僕としては、1台では困る。だからヤマハさん、これも貸してください。50%ずつ乗りたいです。できればサンタさんはYZ250Fに乗ってきてください。

YAMAHA
YZ450FX
2027年型 クロスカントリー競技用YZ 価格・発売日
| モデル | メーカー希望小売価格(税込) | 発売日 |
| YZ450FX | 1,265,000円 | 2026年10月23日 |
| YZ250FX | 1,006,500円 | 2026年9月25日 |
| YZ250X | 819,500円 | 2026年9月25日 |
| YZ125X | 770,000円 | 2026年9月25日 |









