KTMの本社から、5月5日に強烈なプレスリリースがお披露目された。“Something is coming: are you ready to get serious?”と題され、SXシリーズ(モトクロッサー)に対しての新商品が予告されている。こちらティザー写真をみるに、FI搭載の2ストロークSXであることは、もはや明白。その背景などを紐解いていこう。

KTMは、TPIという武器を持ちながら
なぜSXシリーズにおいてキャブレターを続けてきたか

KTMの2ストロークといえば、TPIが頭に思い浮かぶ人も多いはず。TPIとは、KTMの2ストローク向けインジェクションの方式で、インジェクターが掃気ポートについているという代物だ。こちらは、モトクロッサーであるSXシリーズではなく、エンデューロレーサーであるEXCシリーズにのみ搭載された。当初は250cc(250EXC TPI)のみ、2018にデビュー。それを追うようにして2021年式から150cc(150EXC TPI)の小排気量車にも搭載された。

画像: 2017 250EXC。エンジンをフルモデルチェンジ、バランサーがインストールされた最後のキャブレターモデル。これは、次年度にTPIがやってくることの布石なのであった

2017 250EXC。エンジンをフルモデルチェンジ、バランサーがインストールされた最後のキャブレターモデル。これは、次年度にTPIがやってくることの布石なのであった

画像: 2018 250EXC TPI。エポックメイキングな2ストロークEFIマシン。ここから4年をかけてTPIは年々完成度を熟成させていく

2018 250EXC TPI。エポックメイキングな2ストロークEFIマシン。ここから4年をかけてTPIは年々完成度を熟成させていく

画像: 2021 150EXC TPI。小排気量車にもTPIが搭載。ただし、125ccはラインナップされず

2021 150EXC TPI。小排気量車にもTPIが搭載。ただし、125ccはラインナップされず

だが、この5年間SXシリーズには、キャブレターが搭載され続けた。2スト125ccは、モトクロスのユースクラスと、一部の2ストロークファンに需要があるのだが、幅広いKTMのラインナップのなかでも需要がかなり低いものになる。一方、前述したEXCシリーズは、ホビーライダーが多いことから需要は高め。特に欧州、そして日本においても公道を含めたトレールを走るバイクとして隠れた需要がある。

環境規制に対応する必要のあるEXCシリーズだからこそ、インジェクションで環境対応する必要があった。

そもそも、環境対応以前に、FIは2ストエンジンの性能を底上げするものだろうか。2ストに先んじて4ストのモトクロッサーたちがFI化していく際、その性能には疑問の声も上がっていた。性能と言うよりは、信頼性や、フィーリングに対しての疑問点が多かったように思うが、しかしそんな声を押し殺すかのように、とにかく世界的にFI化は5メーカーによって予算をもっておしすすめられ、いまや4ストをキャブレターのほうがいいという声は聞こえてこないようになっている。そもそも、フロート室をもたないFIはオフロードバイクと相性がすこぶるいい。いろんな問題はあれど、キャブの致命的なロスである「ボギング(キャブレターのフロート室で油面が室内上部にはりつくことで、一時的に混合気を吹けなくなり、失速する症状)」がFIになったことでなくなったことで、多くのライダーに欠かせないシステムとして迎え入れられた。でかいジャンプではボギングがおこりがちで、特に高回転で開けながら飛ぶ時はボギングで制御不能になるかならないかの度胸試し。くわえて、フープスにおける細かなボギングは失速の原因となっていて、明らかにFIはアドバンテージがある。

画像: 2017年11月、TPIのデビュー戦と思われたレソトのルーフオブアフリカにて。しかし、時の王者グレアム・ジャービスをはじめとするKTM・ハスクバーナのプロライダーは、TPIではなくキャブレター車で参戦

2017年11月、TPIのデビュー戦と思われたレソトのルーフオブアフリカにて。しかし、時の王者グレアム・ジャービスをはじめとするKTM・ハスクバーナのプロライダーは、TPIではなくキャブレター車で参戦

KTMの2ストEXC、つまりTPIはどうだろうか。実際、世界的なハードエンデューロでも、初期段階では使用されていなかった。グレアム・ジャービスは、世間話のなかで「なぜTPIを使わないのか」という声に「まだ、我々が慣れてないんだ」と答えてくれたのを覚えている。1年弱、市販化におくれること、KTMとハスクバーナはTPIをプロライダーに投入。いまハードエンデューロを席巻するのは300ccのTPIになり、市場においても高評価を得ていて、エンデューロにおけるマスターピースとなっている。

これは、推測に過ぎないが、150ccのTPIが遅れたこと、そして125ccのTPIが出なかったことを鑑みるに、TPIは小排気量には向いていなかったのではないだろうか。KTMが大事にしてきていたEnduro GPにおいては、モトクロス同様に125ccで戦うユースクラスが存在している。EXCの125ccが途切れてしまったことは、実はこのユースクラスでKTMがEXCを走らせないことを意味している。にも関わらず、125ccをラインナップから外してしまった。たまたま、この150ccのTPIが発売された当時は、KTMがEnduro GPから撤退、WESSシリーズにプロライダーたちを集中させた時代と重なる。この件は、政治的な側面を多分に含むものの、TPIでは125ccクラスを満足に開発できなかったのかもしれない。

画像: 2017年式のSX125。キャブレター搭載を今日まで続けている

2017年式のSX125。キャブレター搭載を今日まで続けている

ともかく、KTMはこのような背景をもって、2ストロークのSXシリーズをキャブレターでラインナップし続けた。編集部でも2017年式のSX125をテストバイクとして所持していたが、最新鋭の2ストロークはここまでいいのか、と思わせるものだった。KTMの125ccは、2016年のフルモデルチェンジで市場をまさに席巻するパワーを手に入れている。ウルトラコンパクト、ウルトラライト、そして卓越したパワー。旧型を遙かに凌駕する出来に、2016年は沸いたものだった。

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